日本で話題をさらったAI小説...韓国では通信大手KTが公募展を開催

河鐘基2018年4月9日(月曜日)

韓国通信大手・KTが、韓国コンテンツ振興院の後援で、人工知能(以下、AI)で書かれた小説のクオリティーを競う「KT人工知能小説公募展」を開催すると明らかにした。

今回の公募展は、AI開発能力を保有している個人、スタートアップなど誰でも参加することができる。参加者および参加企業には、収集したデータを学習させた人工知能を使用して、指定されたフォームに合わせて小説を作成・提出する課題が提出される。参加申込期間は、4月5日から5月13日まで。公募展の案内ページから参加申込書フォームをダウンロードすれば申請できる。 KTは参加申込者を対象に「ジャンル」「分量」「応募形式」などを開設する事前説明会を開催する予定だ。

提出された作品は、今年6月中にKTのプラットフォームを通じて、約一ヶ月間にわたり読者に公開される。公募展の1次審査では、小説作品の文学的な価値を評価。 2次審査ではKT内・外部のAI専門家で構成された審査委員団との面談が行われ、最終的な受賞者が選定される。

なお、賞金総額は日本円にして約1000万円。最優秀賞に約300万円(1作品)、優秀賞に約200万円(2作品)、そのほか6作品に技術支援金約50万円が支給される。

KTコンテンツプラットフォーム事業担当のチョン・テジン常務は「今回の公募展は、人工知能が創作の世界に与える影響を計ることができるよい機会になるだろう(中略)小説は、人間の無限の想像力が反映された創作物。人工知能が学習を積んだとしても、簡単に人間のレベルに達することはできないだろうが、今後、AIとクリエイターがどのようにコラボレーションし、共存できるか示す良い事例になるだろう」と説明している。

日本では、数年前に韓国に先駆けて人工知能で書かれた小説が社会の注目を集めることに成功した。小説を書くAIプロジェクト「きまぐれ人工知能プロジェクト作家ですのよ」から生まれた作品の一部は、文学賞「第3回星新一賞」で一次審査を通過する実績も残しているが、プロジェクトを牽引したAI研究者・松原仁教授(公立はこだて未来大学)は言う。

「私はこれまで将棋AIなどを開発してきましたが、2010年以降、ある程度、人間の名人にも勝てるというゴールが見えてきて、いわゆる問題解決型AIの開発が一段落しようとしていました。そこで誰もまだ手をつけていないテーマ、感性型AIに挑戦しようと考えました。また当時、星新一氏の家族と知り合う機会があり、作品データをお借りできる幸運にも恵まれた。それが、プロジェクトが動き出したきっかけです」

現在のAIのほとんどは、ある特定の問題を分析・解決する用途で開発されている。IBMの「ワトソン」や、グーグルディープマインドの囲碁AI「アルファ碁」など、世界的に注目を集めるAIは、問題解決型AIに属する。言い換えれば、人間の理性に相当する部分を担うAIだ。

一方、松原氏らが取り組むのは人間の感情の動きを理解し、再現するAI、すなわち感性型AI開発だ。世界的に見ても、ユニークかつ独創的な研究と言えそうだが、やはり興味を惹くのは、AIが小説を書く仕組み。一体、どのようなものだろうか。

「現在公開している小説については、“コンピュータの力が2割、人間の力が8割”と説明させてもらっています。つまり、人間がストーリーを与え、AIがそれに対応する日本語を選んで文章を生成する仕組みです」(松原氏)

つまり「最初に天気の話をする」「次に主人公に話をさせる」など、物語の構成や形式を人間が与え、AIがそれに適した単語を選び、文章を紡ぐということ。

現段階では、松原氏らが想定しているAIの完成像とはほど遠いものの、作家性、つまり「その作家をその作家たらしめる作品の特徴」を抽出する研究も行っている。新たなAIは、文化の領域を拡大する可能性を秘めている。

「現在、我々は星新一氏の他にも、小松左京氏の作品を分析しています。作家の作品性を抽出できれば、まるでその作家が書いたかのような作品を生み出すことができるようになるかもしれません」

松原氏と小松氏の家族は、未完の大作『虚無回廊』の続きをAIに書かせるという未来を語り合うこともしばしばだそう。これらの技術が発達すれば、将来的にはAIが読み手個人が好きな作家性・文体を分析して、カスタマイズされた小説を書いてくれる日が訪れる可能性もある。松原氏は言う。

「それは私小説ではなく、“個”小説と呼べる新たなジャンルの創作物になるでしょう」

小説を書く感性型AIは、今後、世界的にどのように発展していくのか。動向に注目したい。

Photo by KT

河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。