53本の"指"を持つピアノロボット「テオトロニコ」がイタリア人著名ピアニストと対決!

ロボティア編集部2018年6月4日(月曜日)

53本の指を持ったピアニストロボット「テオトロニコ」(TEO TRONICO)と、30年以上のキャリアを持つプロピアニストが、中国・北京のコンサートホールで演奏対決を行った。

テオトロニコは、ピアノの鍵盤に迫る数の指を持つヒューマノイドロボットだ。1000曲以上の楽譜がプログラミングされており、ただ一度も間違うことなく曲を演奏することができる。

演奏対決を行ったイタリアのピアニスト、ロベルト・プロッセダ氏は「人はミスを通じて学びますし、それを誇りに思わなければなりません。音楽は感情を共有するものですが、ロボットはそれを全く理解できないでしょう」と、テオトロニコについて辛口のコメント。一方、観客たちは表現力ではプロッセダ氏を賛美したが、演奏の精度と速度においてはロボットに分があったと評価した。

テオトロニコは2007年にイタリアで生まれた。エンジニアのマッテオ・スッジ(Matteo Suzzi)氏は当初、29本の指を持つロボットを作ったが、2012年にグレードアップ。指を53本に増やした。

文学博士でもあったロベルト・プロッセダ氏は、子供たちのクラシックへの関心を高めるため、2012年3月にテオトロニコと演奏対決を開始。人間とロボットが同じ曲を各自のスタイルで演奏して、互いに比較するというものだった。テオトロニコは同年8月、ベルリン交響楽団と「モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番イ長調 K.488」を演奏して話題にもなった。その後、テオトロニコとロベルト・プロッセダ氏は世界各地で演奏対決を行っている。

なお、楽器を演奏するロボットはテオトロニコが初めてではない。2005年の愛知万博には、ホーンとチューバなどを演奏する計8台のロボットが登場した。2007年頃には、ドイツのエンジニアが制作したロボットのハードロックバンド「コンプレッサーヘッド(Com pressorhead)」が注目を集めた。東京大学が開発したロボットロックバンド「Z-Machines」も有名だ。78本の指を持つ「マッハ」(ギタリストロボット)と、22個のドラムを叩く「アシュラ」(ドラマーロボット)の“2人組”は、2013年7月にデビューしている。

米国防総省傘下・国防高等研究計画局(DARPA)が、ジャズの即興演奏を行うロボットを開発中しているという話もある。理由は、ジャズの不確実性が戦争状況と似ているからだそうだ。人間と人間、人間と武器システム間の通信が重要になる際、効果的な戦略判断を行うため、ジャズ音楽の即興性をロボットの人工知能に適用しようというのが研究の目標となる。

ジャズロボット開発の基本は学習だ。ルイ・アームストロング、マイルス・デイヴィス、チャーリー・パーカーなど伝説的なジャズ奏者から現代の有名ジャズ演奏者にいたるまで、膨大な楽譜と演奏シーンをデータベース化し学習させているとされている。なお人工知能の専門家たちは、「混沌状態に見える即興演奏にもそれなりのルールがある」と話す。ジャズには厳格なルールと創造性の興味深い結合状態があるのだそうだ。

「戦争状態を勝ち抜くためのジャズロボット」となると好奇心をくすぐられる反面、いささか物騒ではある。それでも、音楽を演奏するロボットが増えることは非常にうれしいことではないだろうか。才能ある音楽家のコンサートに行くには少なくないお金がかかる。自動化が進めば、そこそこ良質な音楽を安い金額、もしくは無料で聞くこともできるようになるだろう。

例えば、ヤマハが製作したピアノ「ディスクラビア(Disklavier)」は、非常に洗練された自動演奏が可能となっている。使用されているソフトウェアは、米・ゼンフ(Zenph)社だ。同社は過去に、ピアニスト、グレン・グールドのモノラル録音を徹底的に分析した後、キータッチや音量などを完全にデータ化し、自動演奏を再現するプロジェクトを実現させた。

音楽、もしくは才能あふれるピアニストの音楽性を「数量化」「定量化」する作業は今後も続くだろう。それら発展したソフトウェアが、人間以上の指を持つピアニストロボットに搭載された時、人間が持つ表現力を模倣・獲得するにいたるのだろうか。いずれにせよ、機械と芸術を取り巻いた話題は今後さらに増えていきそうだ。

Photo by teotronica.it