犬の言葉を翻訳する「バウリンガル」が2002年、株式会社タカラ(現. タカラトミー)より登場して久しい。その後、「バウリンガルボイス」として、犬の鳴き声から声紋を解析し、犬の鳴き声を人間の音声へと変換可能なレベルまで進化を遂げた。
動物の音声研究のターゲットは犬だけではない。スウェーデンコンピュータ科学研究所(SICS)からスピンオフした自然言語処理系企業Gavagai ABは40種類にも及ぶ人間の言語を制覇した後、イルカの音声の研究に乗り出した。一般に、イルカは舌打ちや口笛をコミュニケーションの手段としながら、お互いに意思疎通し合う動物であると考えられている。現時点では、あくまでもイルカの言葉の構造やコミュニケーションのパターンに関する研究が主であり、意味論的に解明されていない。そこで、同社はスウェーデン王立工科大学の研究者らと協働し、独自に開発したAIを用いてイルカの言葉辞書を編纂するプロジェクトを2017年に立ち上げ、現在発動中だ。
南米のウルグアイの大学研究者らは、コウモリが発する超音波音を収めた音声データベースを構築、それに基づきAIを開発した。同じ日本語でも東京で使われる標準語と東北弁とでは差があるように、人間の言語は使われる場所により異なった特徴を帯びている。同様に、同じコウモリでも南回帰線以南に生息するコウモリとその他のエリアに生息するコウモリとでは発する超音波音に差があるとする仮説を立てたうえで、風力発電所とともにアルゴリズムのさらなる精度向上に努めている。
続いて、ネズミを含む齧歯類が発する鳴き声を翻訳する機械学習ソフトウェア「DeepSqueak」だ。これはワシントン大学の研究グループによって開発されたものであり、研究成果の詳細は、2019年1月4日、神経薬理学雑誌『Neuropsychopharmacology』の電子版に掲載された。
DeepSqueakはネズミの体内から出る甲高い超音波音を解析し、人間の目に見える形に変換して表示する。さらに、その結果からネズミの行動や感情のパターンを解析可能である。遺伝子的にも人間と似通った側面を有しており、臨床試験にも使用されるネズミ。ワシントン大学の研究がアルコールやオピオイド中毒に苦しむ患者のほか、神経症状が見られるアルツハイマー病の患者に対する治療法に関する有益な手がかりを与えてくれるかもしれない。
最後に、人間と共通の祖先を持ち、人間に最も近い種族であると言われるチンパンジー。人間と共通の認知能力を持つことはすでに京都大学の霊長類研究所によって立証済みだ。さらに、科学誌『ナショナル・ジオグラフィック』に寄せられた最新の研究報告(2019年2月13日公開)には、チンパンジーは人間と同様、仲間にジェスチャーを送りながらコミュニケーションをとり合っているという研究内容が報告されている。英国のローハンプトン・ロンドン大学の研究グループがウガンダにてフィールド調査を実施したところ、より頻繁に使用するジェスチャーは短く、またより長い歌唱場面では音素のような短いジェスチャーを多用する傾向にあったという。これらの現象はZipfの法則やMenzerathの法則により説明できるとした。
動物のコミュニケーションに関する研究事例は人間のものと比べるとはるかに少ない。今後、AI研究が急速に進むにつれて、動物の音声研究が飛躍的に発展する可能性は高いと言えるだろう。