スウェーデン人がAI・ロボット化社会を恐れない理由

ロボティア編集部2018年1月12日(金曜日)

ロボットや自動化システムの導入が進み、世界中で失業への懸念が高まっている。しかし、先端的な福祉国家であるスウェーデンでは、ロボットや自動化に対する反感が低いという。むしろ革新が促され、スウェーデン産業界の国際競争力が高まり、労働者にもメリットが生まれるという認識が高い。

例えばニューヨーク・タイムズは、スウェーデンのニューボリバルデン(New Boliden)地下鉱山で働いている35歳のMika Persson氏のエピソードを伝えている。Persson氏は、4つのコンピュータスクリーンを通じて、複数台の鉱物移送ローダー(loader)をジョイスティックで遠隔操作する。そのため、ひどいほこりにまみれる心配がないという。同鉱山ではロボットだけでなく、自律走行車もテスト中だ。背景には、人間のトラック運転手を機械に置き換えたい意図がある。しかし、Persson氏は「雇用喪失を全く気にしない。(中略)現在やっている仕事がなくなっても、鉱山にやることが多い(中略)会社が私たちを保護してくれるだろう」と話している。

北米や欧州では、企業の賃金上昇の問題をロボットの導入で解決しようという動きが広がっており、並行して労働者の雇用喪失が懸念されているが、スウェーデンでは少し事情が異なるという。

というのも、スウェーデンや北欧諸国は、経営者と従業員間の信頼が深いうえ、強力な労働組合、政府の豊富な失業者支援政策などあるので、ロボットの導入と失業の恐れが非常に低いレベルにあるという。さらに一歩進んで、ロボット導入により効率性が高まり企業が成長すれば、その成果を労働者と分かち合うこともできるという意識が強いというのである。

スウェーデン雇用統合部長官Ylva Johansson氏は、スウェーデンの労働組合幹部にとって新技術は怖いものかというというメディアの質問に対し、「全くそうではない。むしろ古い技術が怖い」と答えているという。加えて、「仕事がなくなれば、労働者のために、新しい仕事を得るための訓練を実施する。私たちは仕事ではなく、労働者を保護する」と強調している。

実際、EUが2017年に実施したアンケート調査によると、スウェーデン国民の80%が、人工知能およびロボットについて肯定的に考えていることが分かった。一方、ピューリサーチの調査結果によれば、ロボットとコンピュータが人間を代替することに不安を感じている米国人は72%に達しているという。

米国では、ほとんどの労働者が医療保険を企業に依存している。そのため、仕事を失えば膨大な医療費に対処することが難しくとなる。失業すなわち生活の危機となる。しかし、社会のセーフティーネットが整っているスウェーデンなどは違う。国が無料教育や健康保険サービスを提供しており、失業時の福祉が厚い。また多くの企業が、大規模な教育プログラムを提供している。労働組合側も、自動化システムの普及が仕事をより安定にするとして、導入に反対していない。むしろ、出遅れれば国際競争力の低下を招くという危機意識を持っている。

スウェーデンのとある新聞社に勤めていたSoren Karlsson氏は、3年前に会社を辞めて仲間とともにユナイテッドロボッツ(United Robots)というベンチャー企業を設立した。同企業は、自動的に記事を書くロボット記者(ソフトウェア)「ローザリンダ(Rosalinda)」を開発している。同ロボット記者は現在、スポーツに関する記事を主に作成しているのだが、人間の記者の仕事がなくなったわけではない。むしろローザリンダが、人材不足で取材が困難だった高校のホッケーチームや、小規模サッカーリーグの試合記事を作成することで、新しい仕事を生むことに成功している。

仮に仕事を失っても、スウェーデン企業が財政的に後援する雇用安全委員会が新たな雇用を見つける手助けをする。同委員会は、昨年のプログラム参加者83%が、新しい仕事を得ていると紹介している。また、新たに仕事を得た人の3分の2は、前職水準の報酬、またそれ以上で新しい仕事に就いたという。

おそらく、ロボットや自動化の恩恵が社会全体に行き届くためには、企業単位の努力だけでは足りないだろう。日本を含む各国は、新しい時代の到来に向けてどのような社会の設計図を描いていくのだろうか。スウェーデンやそこに住む人々が持つ自動化への意識は、参考になるかもしれない。

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