ロボット工場化を進めるアディダス...24年ぶりに独で生産再開

ロボティア編集部2016年5月29日(日曜日)

 安い労働力を求めアジアに工場を展開してきたアディダスが、24年ぶりにドイツ国内でスニーカーの生産を再開する。背景に価格競争力に強みをみせる、ロボット工場「スピードファクトリー(speed factory)」の存在がある。

 仏AFP通信は25日、「スポーツ用品メーカー・アディダスが、2017年からドイツ国内でロボットを利用したスニーカーの生産を開始する」と報じた。アディダスは、1993年にスニーカーの生産工場を人件費の安いアジアに移転。今回、その安い人件費をさらにロボットで代替できるという予測から、ドイツ国内での生産を再開することにした。ロボットの導入による“資本の先進国回帰”という現象を示す好例となりそうだ。

 アディダスは、昨年末からドイツ・バイエルン州アンスバッハに、4600㎡規模のスニーカー工場を建設している。ロボット工場=スピードファクトリー構想の一環だ。ここで、2016年第3四半期にスニーカー500足を試験的に生産した後、2017年からは本格的に大量生産を開始する計画だ。アディダスは、ドイツに続き、アメリカでもスピードファクトリーを運営する予定であり、長期的には英国とフランスでもロボット工場を設置する未来図を描いている。

 アディダスは、2015年に3億100万足の靴を生産。2020年までに、毎年3000万足ずつ生産量を増やしていく計画だった。ただ、アジアの人件費上昇が計画を進める上での問題となった。代案として、コストが低下してきたロボットを導入。ヨーロッパやアメリカなどで、ロボット工場を設立する計画を進めてきた。

 ヨーロッパやアメリカなどは、消費市場と距離が近い。加えて、アジアから製品を輸送するコストと時間、二酸化炭素の排出量などを減らすことができる。ちなみに、スポーツブランドのロボット工場化、先進国回帰はアディダスだけ現象ではない。競合企業のナイキも、ロボット工場設立を推進している。

スピードファクトリー
photo by adidas

 アディダスのスピードファクトリーについては、人件費の削減だけが目的の工場と理解すべきではないかもしれない。スピードファクトリーでは、工場が24時間稼働可能な状況にあることを前提に、製品のトレンドを分析して、デザイン部署や生産ラインにリアルタイムで反映させることができる。つまり、ロボットとデジタル、IoT技術が複合的に作用した、これまでにないスピードと競争力を持った工場という理解が、おそらく正しいだろう。

 ドイツでは、そのようなロボットとデジタル技術を利用して高度な製品を生産する「インダストリー4.0」の動きが産業界全般に広がっている。アディダスは、ロボット生産のほか、店舗で3Dプリンタを用いて、消費者が望むスニーカーを選ぶことができようにするなど、最新技術とサービス、トレンドを導入している。

 なお、アディダスの最高経営責任者ヘルベルト・ハイナー氏は「アジアの下請け業者をすぐにロボット工場で代替するものではない」と強調。欧米メディアによれば、現地の中国企業は取材要請を拒否、もしくは欧米で進む生産体制のロボット工場化に気づいていないようだと報じられている。