韓国政府が人工知能や遺伝子編集に対する政策的対応を検討

ロボティア編集部2016年1月17日(日曜日)

 韓国では、人工知能やロボットの普及が社会の各分野に大きな変化を起こすという見通しのもと、雇用・教育、法律的分野など新しい対策が必要であるという指摘が増え始めている。また医療の発展により、遺伝子の特定の部位を除去もしくは修正する遺伝子編集技術が台頭し、これまで治療が難しかった病気の克服に期待が集まっている一方、深刻な副作用の可能性も懸念されるため、安全性の検証が改めて必要になるのではという意見がでてきている

 韓国政府省庁のひとつ・未来創造科学部は7日、第10回国家科学技術審議会に報告した「2015年度技術影響評価の結果」で、人工知能および遺伝子編集技術について、以下のような内容を伝えた。

 まず技術影響評価は、新しい科学技術の発展や登場が、国民生活に与える肯定的・否定的な影響を事前に評価。その結果を政策に反映したり、技術の望ましい発展方向を模索するために毎年実施されている。

 人工知能技術は、人間の知覚・推論・学習能力などをコンピュータに実装し、問題を解決することができる技術である。しばらく発展が停滞していたが、最近ではディープラーニング、自然言語処理などの分野で新たな可能性を見せている。

 人工知能技術が発展すれば、産業と雇用に変化が訪れる見通しだ。スマート工場など、製造業やサービス業が知能化し、生産性の向上や、新しい付加価値の創出が可能となる。一方で、コールセンターのようなマニュアルベースの職種や、医療診断・法律相談など、いくつかの専門サービスが人工知能に置き換えられ、その代わりにロボット開発者・ソフトウェア開発者・ホワイトハッカーのような人工知能に関連した新たな職業群が登場すると予想される。したがって、職業構造の変化に対応した、雇用および教育政策が必要になると指摘された。

 また、人工知能を搭載した自動走行車が故障し、事故を起こした時、または人工知能がハッキングなど犯罪に活用されたときの責任所在を明確にするために、新しい法律体系と規制が必要であると評価された。

 人工知能が人間の倫理的判断を代わりにすることができるかどうか、判断の結果に対する責任の範囲はどこまでなのかなど議論が必要で、人工知能が収集・分析・共有する莫大な情報により、個人情報やプライバシーへの懸念が大きくなるという評価もあった。

 

 遺伝子編集技術は、核酸分解酵素を使用して、特定部位のDNAを除去・添加・修正する技術をいう。特に第3世代技術であるクリスパー・キャス9=CRISPR-Cas9が開発され期待が高まっている。

 科学ジャーナル誌「サイエンス」は昨年末、「今年の画期的10大科学成果1位」に遺伝子編集を挙げ、また「ネイチャー」誌は「今年の10大科学者1位」に遺伝子編集の研究者である黄軍就副教授(中国・広州、中山大学=Sun Yat-sen University)を選定した。

 遺伝子編集技術を活用すれば、エイズ=AIDS(後天性免疫不全症候群)など遺伝子変異に起因する疾患の根本的治療が可能なだけでなく、糖尿病など慢性疾患や難治性疾患も治療することができるとされる。

 しかし、今回の技術影響評価の結果、遺伝子編集技術が目標としたDNA配列ではなく、生命活動と直結したDNAを誤って切断してしまった場合には、副作用につながる懸念があることが提起された。実際に治療に適用するには、追加の研究開発と、安全性に対する検証が必要であるとの指摘もでている。

 また、同技術を、胚・生殖細胞に適用すると、遺伝性疾患の根本的な治療が可能だが、予期しない副作用が発生したり、優生学的・社会的差別を生む可能性があり、倫理的議論に対する社会的合意がなされなければならないという提言もあった。

 また、遺伝子編集技術が適用された農畜産物を、食品として摂取したとき安全であるか、生態系への悪影響はないかなどの検証も必要であると評価された。なおこの技術影響評価の結果は、韓国関係省庁に通知され今後の関連政策に反映される予定である。