配膳&物流ドローンで市場を狙うInfinium Roboticsのウン・チュンヤンCEOインタビュー

河鐘基2016年3月13日(日曜日)

 配膳ドローン=サービングドローンを発表し、一躍、世界の注目を集めたシンガポール企業・インフィニウムロボティクス(Infinium Robotics)。東南アジア地域におけるドローンビジネスの先駆けともいえる同社が描く、ドローンビジネスの展望とは。ロボティア編集部でCEOのウン・チュンヤン(Junyang Woon、写真)氏に取材した。

―以下、インタビュー(太字は質問)

―CEO自身、もしくはインフィニウムロボティクス(Infinium Robotics)が、ドローン事業に関わりはじめた理由や動機は何でしょうか。会社設立にいたるまでの経緯を、読者のために簡単に説明いただけますでしょうか

 インフィニウムロボティクスは、生産性の向上を可能にする無人航空機システム(UAS)の提供を大志として抱いた、情熱的なロボット研究者たちによって、2013年に設立されました。

 会社設立を通じて、我々チームはすべての人々の生活をより良くすることができると考えています。インフィニウムロボティクスが強調するのは「UASs for Good」。私たちのすべてのプロダクトやサービスが、その言葉によって定義されていることを保証します。

 インフィニウムロボティクスは2014年に、F&B(food-and-beverage service=料飲部門)や物流分野におけるロボットソリューションの研究開発(R&D)を行うために、SPRINGシンガポール(規格・生産性・革新庁)が行っている、技術企業商業化支援制度(Technology Enterprise Commercialisation Scheme:TECS)から、25万ドルの助成金を授与されました。

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インフィニウムサーブ photo by Infinium Robotics

―インフィニウムロボティクスはどのようなドローン事業を展開しているのでしょうか

 前述したように、我々が標榜するのは「UASs for Good」。そのため、多くのドローンビジネスにコミットしています。

 現在、そのなかでも我々が特に焦点を当てているのが、レストランなどで展開している自律型スマートサービングドローン「インフィニウムサーブ(Infinium Serve)」です。これは、ダイニングエリアにおける反復的なサービングを担い、F&B分野における日常的なタスクを効率化させます。また、人間のウェイターが顧客と対話を重視することを可能にします。

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photo by Infinium Robotics

 また、「インフィニウムスキャン(Infinium Scan)」を提供しています。これは、在庫管理と棚卸のための完全自立型ドローンです。生産性を最大化しつつ、人員不足の問題を低減するように設計されています。

 そのほかにも、花火などのショーの替わりとして考えられる、環境に配慮した屋内および屋外ドローン展示技術「インフィニウムウェイダーズ(Infinium Waders)」や、ドローンユーザーを保護する、手頃な従量課金型第三者賠償責任保険「スカイシュア(Skysure)」などを提供しています。

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photo by Infinium Robotics

―ドローンビジネスにおける、インフィニウムロボティクスのユニークポイントや、強みはなんですか

 インフィニウムロボティクスは、東南アジアで、屋内および屋外におけるドローンの精密な編隊飛行に成功した最初の企業です。我々はまた、2014年7月にドローンと人間のダンサーを同じステージにあげることに成功しています。これも、東南アジアでは初となります。

 GPS信号に依存した昨今のUASテクノロジーは、まず屋外ではGPSのジャミングの影響を受けやすい傾向があり(5〜10メートルの精度)、正確ではありません。一方、屋内ではGPSが動作せず有用ではありません。ですが、インフィニウムロボティクスのドローンおよびUASシステムは、GPSのナビゲーションに依存しません。また、特許出願中の技術には以下のものがあります。

・スウォーミング(複数のUASが特定の目的を達成するためにともに動作します)
・複数のUASが衝突することなく同時に動作
・GPSが作動しない環境および屋外における、複数のUASの複雑な操縦や十字交雑

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photo by Infinium Robotics

―インフィニウムロボテックスの年間売上は

 現在、我々はまだその数字を明らかにすることができません。共有できることとしては、民間および商業分野におけるドローンの採用率が、指数関数的に成長しているということです。 2020年には、ドローンの総市場規模が約820億ドルに達し、1500万台のドローンが空を飛ぶとも言われています。

―インフィニウムロボティクスでは、ドローンビジネスにおける最大の市場をどこだと考えていますか

 我々は世界全体が市場になると考えています。ただ明らかに現在は、米国が最もオペレーション用ドローンと密接で、我々としてはその市場でシェアを得ることに力を傾けたいと考えています。また、インフィニウムロボティクスはシンガポールに足場を置いています。ここで、強力な足掛かりを得られることを期待しています。

―インフィニウムロボティクスの主なクライアントは?また日本から問い合わせはありますか

 我々には特定の“主な”クライアントはいません。すべてのクライアントに対して献身的にサービスを提供したいと考えています。

 すでに最初のクライアントがインフィニウムサーブの導入に署名しており、それ以外にも、今年のうちに積極的にサービスを展開できるよう取り組んでいます。私たちは、クライアントが我々と同じように、ロボットに情熱的であることに感謝しています。

 日本からの問い合わせも、すでにいくつか受けています。日本はロボティクス分野に対する関心が高いので、今後さらに多くのクライアントや投資家と仕事できる機会を楽しみにしています。

―インフィニウムロボティクスに投資しているのはどのような団体および個人でしょうか

 最近、私たちはシンガポール政府から資金調達を行いました。それ以外は、自己資金です。

 UAS市場は、それ自体が多くの形態の産業を持っているため、アプリケーションやコスト削減のメリットが豊富です。そのため、投資する側からしても関心の高い分野です。インフィニウムロボットは、グローバル展開に焦点を当てたシリーズAラウンドを終了しました。現在、いくつかの潜在的な投資先と議論中で、その詳細はまだ明らかにすることができません。

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photo by Infinium Robotics

―事業をグローバル展開するための戦略は

 インフィニウムロボティクスは、シンガポール、シリコンバレー、カリフォルニアに本社および支社を構えています。とはいえ、我々は創業以来、世界を念頭に置いてきました。それを確実にしていくためにも、今年は米国事業を拡大していきます。

―ドローン産業のなかで、成長や拡大の可能性が高い分野は、どのような種類のものだと考えますか

 私自身は、その答えは製品の種類に応じて変化すると思います。例えば、インフィニウムサーブは、シンガポールのように労働力不足が著しい国にとっては理想的です。ただし、同じ製品だったとしても、他の市場では魅力を発揮できないケースもあるでしょう。

 私はシンガポールと米国の両方に着目しつつ、さらに多くの国に働きかけようと考えています。市場拡大の可能性を模索するため、個々の市場に限定されない、より大きな市場に焦点を合わせて行きたいと考えています。

―インフィニウムロボティクスの競合は?また、他の企業がドローンビジネスに参入することに困難はありますでしょうか。私見をお聞かせ下さい

 現在、すぐに頭に浮かぶような競合企業はありません。我々は、競争は健全であると考えています。競争が我々を強くします。ドローンおよびUASビジネスに関しては、大きな誤解や誤りも存在します。正しいドローンビジネスにより多くの人々が参入することは、我々にとっても非常に良いことだと考えています。

河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。