シンガポールでは現在、政府および各官庁が主導し、さまざまな分野でドローンの活用が計画・実施されている。
まず、エルニーニョ現象による異常気象で、デング熱、ジカウイルスの感染が懸念されるなか、蚊の繁殖地を確認したり、駆除するためにドローンが活用されている。というのも、蚊の繁殖地は主に排水路など人間が近づきにくいところにあるため、これらを確認するためドローンの利用が効果的だからだ。シンガポール国家環境庁(National Environment Agency=NEA)によると、ドローンを活用することで蚊の繁殖地を特定するコストを削減でき、また駆除隊がウィルスに感染することを予防するなど安全確保にも効果をあげるだろうとしている。
また、シンガポールでは油流出事故や海難事故発生時に、事故現場の状況確認や情報伝達のため、ドローンを活用することを想定している。ヘリコプターや人工衛星を使用して状況を把握する既存の方法では、手順が複雑で、時間がかかってしまう。ドローンを活用すれば、より早く、正確な状況把握と対処が可能になるということで、期待が高まっている。
シンガポール海事港湾庁(Maritime and Port Authority of Singapore =MPA)は、ホープテクニク(シンガポールを拠点とするベンチャー企業)と協力し、海上で離着水可能な海上専用ドローン「ウォーター・スパイダー(The Water Spider)」を開発した。海事港湾庁は海上でのドローンの活用を拡大するため、油流出事故発生時に油の量を測定する機能や、化学物質の識別、遭難者の感知する機能などを開発中である。
シンガポール国土開発部(Ministry of National Development=MND)の傘下機関であり、都市計画および、歴史文化的遺産を保存する役割を担うシンガポール都市再開発庁(URA)は、スタートアップ・アベティクス(Avetics)と提携。ドローンによって撮影された航空写真を参考にし、歴史文化的建造物の3Dデジタルモデルを作成し復旧保存作業を進める傍ら、それらデータをインターネットで公開している。
建設部門でもドローンの導入が進む。食糧管理動物保護局(Agri-Food and Veterinary Authority of Singapore=AVA)、建築建設庁(Building and Construction Authority=BCA)、陸上交通庁(Land Transport Authority=LTA)など、多様な政府機関の建設現場の点検作業には、すでにドローンが必須とさえなりつつある。
これまでは各機関がそれぞれ、現場で点検作業を行っていたが、シンガポール土地管理局(Singapore Land Authority=SLA)が「ジオスペース(Geo Space)」というクラウドプラットフォームを用意し、すべての作業をドローンを使用して管理・遂行できるようにした。
具体的には、ジオスペースを通じてドローンの飛行経路を計画し、飛行前後のデータおよび写真や動画、3Dイメージなどのデータを各機関で共有可能に。結果、現場を直接訪れなくとも点検ができるようになり、時間とコストの削減に成功したという。重複点検による時間や人件費の削減、建設現場における度重なる作業中断のデメリットも抑えることが可能であるという。
一方、内務省(Ministry of Home Affairs=MHA)傘下の市民防衛庁(Singapore Civil Defence Force= SCDF)は、火災などの救助活動にドローンを採用する。市民防衛庁は、ドローンにGPRS(=General Packet Radio Service、「GSM」のネットワークを利用した パケットデータ通信技術システム)と、有害ガス検知器などの機能を搭載。“火災専門ドローン”に改造し、災害現場で救助隊に状況をいち早く伝える用途で活用する。煙や熱を探知する時間を短縮することで、迅速な人命救助が可能になるという。
シンガポール政府は、諸産業分野における生産性および効率性改善のため、ドローン研究を継続的に展開する方針だ。2015年はじめには、ドローンの活用度を拡大するため、UAS委員会を、交通省(ministry of transport =MOT)傘下に設立した。
UAS委員会は食糧管理動物保護局、国家環境庁、陸上交通庁、土地管理局、建築建設庁など多様な政府機関が協力する形で、ドローン活用方法の企画、検討、導入を担当する。並行して、各政府機関が個別にドローン活用方法を模索している。
昨年10月には、シンガポールポスト(郵便局)が情報通信開発庁(Infocomm Development Authority of Singapore=IDA)と共同開発した郵便配送ドローン「シンガポールポスト・アルファ・ドローン(SingPost Alpha Drone)」で、Tシャツの配達テストを成功させた。
ドイツのDHI、スイスのスイスポスト、フィンランドのイテラ(PostiGroup)などもドローンを用いた郵便配達の技術開発に取り組んでいるが、シンガポールポストとしては昨年のテストの成功が「世界初の成功事例だ」としている。
なおシンガポール交通省は今年2月、計画の詳細こそ明かさなかったものの、ドローンによる多様なニーズを満たすため、関連分野の政府調達の入札公告も積極的に掲載していく方針だと発表している。