マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生が全自動ミニロボットレストラン「スパイス(Spyce)」を開発し話題だ。
「私たちのビジョンはファーストフードの意味を変えること」
学生たちはスパイスキッチンの開発の動機についてそう話す。「ファーストフード=ジャンクフード」という概念を覆そうというのだ。スパイスキッチンは、新鮮な食材を使用、素早く料理を作り出すことができる。冷蔵庫、自動食器洗い機、ガスコンロを備えており、ロボットシェフ(クッキングポット)が食材を調理し皿に盛る。
MIT在学中の学生4人で構成された開発チームは、スパイスキッチンをひっさげ、「レメルソンMITアンダーグラウンドプライズMIT(Lemelson-MIT undergraduate prize MIT)」で1万ドルの賞金を獲得した。なお同賞は米大学の飲食関連テクノロジー部門で権威ある称号となる。現在、スパイスキッチンはMIT校内のダイニングホールで実際に稼働し、料理をサーブしている。今後、連邦農務省(USDA)と連邦食品医薬品局(FDA)の承認が完了すれば、ボストン近郊の大学で試験的に設置される計画だ。
スパイスキッチンは、スマートフォンアプリや機体に設置されたタッチスクリーンを通じて料理が注文されると、5分以内に食事を提供する。現在、ロボットが調理できるメニューは5つで、エビジャンバラヤ、チキン・ベーコンスイートポテト・ハッシュ、ウィンターベジエマック・アンド・チーズ、チリライムビーフとゴマライス、ココナッツカレーとクスクスなどとなる。ふたつの料理を同時に調理することも可能で、注文者の好みに合わせて材料、ソースなどの量を調節することもできる。
なお、材料は人間のスタッフが補充。スパイスキッチンは、自動的に適正量をクッキングポットに移動させ、材料を混ぜたり熱を加えて調理する。料理をオーダーした人は、ボウルをクッキングポットの下に置き待つだけ。料理が終わったらボウルに料理が注がれる。なお、ポットは自動的に食器洗い機に移され、きれいに洗浄される。
スパイスキッチンを開発した学生チームは、ファーストフード業界に革新を起こすだろうと確信しているようだ。人材がいなくとも、新鮮で良質な料理を、安い価格で提供できるようになるからだ。また、ロボットは事件・事故なく調理時間を正確に厳守、また温度を正確に維持できるという点で、人間のパフォーマンスを上回る可能性がある。
ちなみに、チャーハン、パスタ、パッタイ、カレーなど、食材を一度で炒めることで完成する種類の料理は、いずれも調理が可能だという。ロボットは全体で20平方フィートのスペースを必要とする。それでも、既存のレストランの平均面積の半分にとどまる大きさとなる。
世界ではスパイスキッチン以外の料理用ロボットも開発されている。昨年には、英モリーロボッティクス・アンド・シャドウロボットカンパニー(Moley Robotics and Shadow Robot Company)が、全自動キッチンを披露した。同社が開発した料理ロボット「モリー(Moley)」はロボットアームを利用し、2000種類以上の料理を作り出すことが可能だ。
日本・スプレッド社はレタスをロボットで栽培、収穫する世界初のロボットファームを開発した。もし、それらをすべて組み合わせれば、全自動で食糧や料理が供給される未来も遠くないのかもしれない。
ただ動画を見る限り、スパイスキッチンは単に「料理ができる」という水準にとどまっているという風にも理解することもできる。例えば、盛り付けの繊細さや丁寧さはほとんど皆無だ。料理の奥深さや固有の食文化をどこまで理解・再現できるかが、今後の課題となりそうだ。
それでも、ロボットレストランに触れた学生たちの目の輝きは、キラキラと好奇心に満ちている。また、料理のスペシャリスト×ロボット工学の専門家というタッグが達成されれば、今後さらなる発展を遂げる可能性は十分にある。いずれにせよ、スパイスキッチンが提供する料理の味がとても気になる。