ユバル・ハラリ氏「人間がAIより感情で優位という保証はない」

ロボティア編集部2016年4月29日(金曜日)

 世界30以上の言語に翻訳出版されたベストセラー「サピエンス(Sapience :A Brief History of Humankind)」。同書著者、またイスラエル・ヘブライ大学のユバル・ハラリ(Yuval Noah Harari)教授が、韓国・ソウルを訪問。29日には「人工知能との共生の道」というテーマで講演会を開催した。

 その講演会でハラリ教授は、人工知能(AI)と関連した社会の変化を予想。30〜40年後には人工知能などの先端技術が、現在のほぼすべての職業から人間を押し出し、感情が必要な分野でさえ、人間の優位性が維持されていない可能性があると指摘した。

「(未来的に)経済システムにとって何の助けにならない人間が量産されるが、それに合わせた社会政治モデルがない。人間がAIより優れた能力を発揮する(感情に特化した)雇用分野が生まれると信じられているが、すでに顔の表情を読んだり、言語選択の分析で、人工知能が人間よりはるかに優れた能力を示している」(ユバル・ハラリ教授)

 ハラリ教授は、感情も生存の必要性に応じて生まれた複雑な「生化学的アルゴリズム」に過ぎず、「そのアルゴリズムが、人工知能より優れているという保証はない」という。

「福祉社会であるためAIが人間の労働を代替する時代が来ても、人間が飢えて死ぬことはないだろう。ただ、仕事を通じて生の意味を求めてきた人々は、心理的に悲惨で不幸な人生を生きることになる可能性がある。これを回避するためには、科学者だけではなく、哲学者、歴史学者、心理学者の言葉を聞くことが必要だ」

 ハラリ教授はまた、AIなど科学技術が爆発的に発展した未来において、子供たちの教育が根本的に問い直されることになるとした。

「現在の世代は既存の教育では(世界の変化に)対応できないと知る、歴史上初の世代になる。(中略)既存の学校教育は、子供たちが大きくなった時にはほとんど無駄になる。正規の授業ではなく、休憩時間に遊びながら学ぶことの方がまだ使い道がある」

 さらに、その教育問題に関する解決方法および政策の不在についても指摘。「かつては10歳の子供でも、自分が大きくなったときに世界がどのようになるか尋ねれば、賢明な答えをすることができたが、現在は今の世界とは全く異なるものとしか答えようがない状況だ」とし「何を教え、準備しなければならないのか、わからないという問題が浮上している」と指摘した。

 ただハラリ教授は「知性」と「意識」は別物だとも指摘。高度なコンピュータソフトウェアや囲碁世界王者イ・セドル氏を打ち負かしたalphaGo(アルファゴ)の知能は高かったが、喜びも不安も感じることができない「意識ゼロの状態」だとした。

「今のところ知能が高いと概ね意識も高かったが、これからの世界はそのような等式が当てはまらなくなる」

 ハラリ教授は科学技術と世界平和の未来についても言及。次のように話している。

「人類は脅威的な技術であっても、平和的に扱ってきた経験がある。私は核兵器が発明されていなければ、第3次世界大戦が起こっていたと考えている。しかし核兵器の恐ろしさのために、人類は平和をより追求した。同様に人工知能(AI)技術についても、“恩寵”に変える能力が人類にはあると思う」

 ハラリ教授は、そのような「大転換」の時期には、大きな悲劇が繰り返されてきたが、悲劇という結末だけ待っている訳ではないとも語る。

「私たちは技術を選択する必要がある。(逆に)技術に私たちの操縦桿を握らせてはならない。そのためには、まず私たち自身が何者であり、最終的に必要なことは何なのかを知る必要がある」

 現在、世界ではAIを始めとする科学技術の発展が、人間に「存在論的疑問」を投げかけていると言われて久しい。つまり、「人間とは何」、また「人幸福とは何か」「人間が目指すべき社会」はなどの問いが、改めて問い直されているということになる。ハラリ教授もまた、世界の専門家や未来学者と同じく、きたるべき世界の姿を案じる人物のひとりのようだ。