インテルが買収した自動運転技術イスラエル企業「Mobileye」...シャシュア CEOとは何者か

ロボティア編集部2017年12月12日(火曜日)

インテルは今年3月、イスラエル企業「モービルアイ(Mobileye)」を150億ドルで買収した。これは、インテル買収合併案件では2番目の規模であり、イスラエル企業の歴代M&A事例としては最も高い金額となった。なお、過去のイスラエル企業買収事例としては、米IT企業シスコが20イスラエルのソフトウェア企業「NDS」を50億ドルで買収(2012年)したのが最大。インテルのブライアン・クルザニッチCEOは、モービルアイの高額買収について「インテルが、自動走行車産業で必要よとなる技術を生み出すリーダーとして浮上した」と、評価している。

1999年にイスラエルで設立されたモービルアイは、自動走行車の中心的な技術となる「先端運転支援システム」(ADAS)を世界に先駆けて開発した企業だ。 ADASは、車線を離脱したり、歩行者や前方車両との追突の危険性があった際に警告してくれる「インテリジェント安全装置」である。モービルアイのADASは、前方車両との追突警報は最大2.7秒前、歩行者の場合は最大2秒前に通知してくれる。同技術は、自分の車両と対象の速度、車間距離などを正確に認識・分析できるため実現可能となっている。

現在、モービルアイのADASは、ゼネラルモーターズ、BMW、現代・起亜など、世界27の主要自動車メーカーに供給されている。そのため、MITテクノロジーレビューは昨年、「世界で最もスマートな企業6位」と同社を評価した。

モービルアイは、イスラエルの産業生態系まで変えたと言われている。現在、イスラエルでは、スタートアップ7000社中450社が自律走行車関連の技術を研究している。 GM、フィアットなどは自律走行車の研究開発(R&D)センターを建設。また、すでにR&Dセンターをイスラエルで運営しているベンツは、研究者を追加投入する計画だ。現代・起亜も2018年初めに、オープンイノベーションセンターを建設する予定となっている。そのように、自動車メーカーがひとつもないイスラエルは、モービルアイの成功により、自律走行車の「技術中心地」として浮上することになった。

全世界が注目するモービルアイの飛躍的な成長は、ヘブライ大学のアモン・シャシュア(Amnon Shashua)教授によって牽引されている。モービルアイ共同創業者である彼は現在、モービルアイCEO・CTO、インテル上級副社長を務めている。

1960年生まれのシャシュア氏は、イスラエルのテルアビブ大学で数学とコンピュータサイエンスを専攻。その後、ノーベル賞受賞者を多数輩出したことでも有名なイスラエルのワイツマン科学研究所で修士号を取得、そしてMITでも人工知能・認知科学研究で博士号を取得している。コンピュータビジョンの分野の権威であり、1988年以降、約100編のコンピュータビジョンおよび人工知能関連の論文を発表している。

シャシュア教授はモービルアイを設立する4年前となる1995年に、「CogniTens」という企業を創業した。部品・完成品の精度を測定する3次元光学測定システムを開発する会社だ。なおCogniTensは、2006年にスウェーデン企業「Hexagon」に売却された。またシャシュア教授は、モービルアイに注力していた2010年にも、「OrCam」という会社も立ち上げている。同社は人工知能およびコンピュータビジョン技術を活用し、視覚障害者専用の視覚補助装置を開発する企業。シャシュア氏は現在も同社CTOを務めている。メガネのように見えるOrCamの視覚補助装置は、視覚障害者が文章やモノに手をかざすと、カメラやセンサーがその動きを認識し、文章を読んだり、モノが何なのか教えてくれる。

そのようにいくつかの企業を創業・運営してきたシャシュア氏の挑戦は、現在も続いている。最近では、「2021年には人間がハンドルを掴まなくとも、自動走行車が道路の上を走るようになるだろう」と断言。わずか4年後には、自動走行車の時代が開かれると予言している。

米国自動車技術協会(SAE)によると、自律走行技術の発展は大きく5つのステップに分けられている。ステップ1は、同じ速度を維持する「定速走行機能」など、ドライバーの考えや意図が運転に反映されることを支援する技術レベルである。ステップ2は、部分的な自律走行を実現する段階。危険な状況を感知して知らせる技術などが含まれ、すでに普及しているADASなどがその代表例となる。

次いでステップ3は、突発的な状況においては運転者が介入するものの、高速道路など一定区域で自律走行が可能な段階とされている。現在はこの段階まで自律走行車の技術が進んでおり、最近発売された「アウディA8」は、高速道路で時速60㎞以下で走るとき、運転者がハンドルを掴まずとも自律走行が可能となっている。同車両には、カメラで撮影した画像を分析して車線を認識したり、障害物を回避することを支援する視覚認識装置「EyeQ 3」が搭載されている。これはモービルアイの製品で、過去にはEyeQ 1(2004年発売)、EyeQ 2(2008年発売)が、ADASを実装するために使用されている。そして来年発売予定のEyeQ 4は、日産車に搭載され、時速135㎞でも自律走行が可能な、ステップ3の自律走行車を開発するために活用される計画となっている。

シャシュア教授は、2020年までにEyeQ 5を披露し、翌年にはBMWと共同で「完璧な自動走行車」を発売する考えだ。特別な状況でのみハンドルを握る必要がある高度な自律走行(ステップ4)を超えて、すべての状況で自律走行が可能な「完全自律走行(ステップ5)を目指すということである。

「コンピュータビジョン能力だけだったEyeQ 1〜3とは異なり、EyeQ 4・5は、ニューラルネットワーク技術を適用して、状況を判断する能力に備えるだろう(中略)技術的な課題は、計画通りに着実に克服しつつある」(シャシュア氏)

シャシュア氏は、4年後に完全自動走行が可能となることで、運送市場や都心環境にも大きな変化が伴うとしている。また運転する必要がなくなるため、自動車を「所有」するという感覚が「共有」に急速に傾くとも。加えて、車両共有サービスの普及により、大規模な駐車場が必要なくなることで、既存のスペースがさまざまな目的に活用されるとも指摘している。

シャシュア氏は2021年までに完全な自律走行車を出すと発表した席で「フィニッシュラインに最初に到着する人の技術が、標準になるだろう」と語った。現在、関係者の多くは、そのフィニッシュラインに最も近い人物として、シャシュア氏の名を挙げている。

今後、道路状況、交通信号など、地域ごとに異なる周囲環境にも適応できる自律走行技術を開発するのが目標とするシャシュア氏は、いずれ“自律走行車の父”と呼ばれる日が来るのだろうか。

Photo by Mobileye