ロボットバブル前夜の中国で補助金目当てのダミー会社が乱立

ロボティア編集部2016年5月4日(水曜日)

 中国では、ロボット産業の過熱の裏で“陰”が見え隠れしはじめている。中央および地方政府が支給するロボット産業関連の補助金を得るために、ダミー会社が乱立しはじめているというのだ。太陽光、風力に続き、最近では電気自動車産業が補助金に依存したバブルを生んでいると懸念されてきたが、同じような危機がロボット産業の足元で芽吹きつつある。

「中国では、ロボットの企業が一日にいくつも設立される。すでに、中国を除く世界のロボット企業と合わせたものよりも、その数が多い」

 上記のコメントは、中国メディア・経済観察網が伝えた、中国現地のロボット企業関係者の揶揄だ。中国では、ロボット企業数が集計機関ごとに千差万別の様相呈している。まず、中国工業情報化部が調査した資料によると、社名にロボットというキーワードが使用された会社は3400社余りにのぼる。一方、中国ロボット産業連盟が発表した資料によれば、スタートアップ企業などを除いた、一定以上の規模を満たしたロボット企業は、わずか800社にしか満たないという。

 中国機器人網CEO、チャオ・ヨン(趙勇)氏は、「中国で昨年(2015年)に販売された(産業用ロボット)7万台のうち、外国製が85%を占めており、中国の800社以上のロボット企業の売上高は、平均300万元(約5000万円)に満たないと推定される(中略)また、一部統計では、数千のロボット企業があるとされているが、実質的にロボット関連の売上高がない企業がほとんど」と指摘している。

 中国で有象無象のロボット企業が増え始めている背景には、中国政府がロボットを戦略新興産業として育てるため、補助金を注ぎ込んでいるという事情がある。

 去る4月26日、中国の工業情報化部、国家発展改革委員会、財政部などは共同で、ロボット産業発展規画(2016〜2020年)を発表した。これは、中央政府が示した初のロボット産業発展5カ年計画となる。

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 これに対して、上海証券報は「1兆元(約16兆円)台の市場のダンスが始まった」という表現で期待感を示した。日本でも、人工知能関連技術を政府が後押しするという方針発表を受け、関連株が上昇を見せているが、中国では似たような現象がロボット分野で起きつつある。

 また、その勢いあてられて、「今年、中国が日本を抜いて世界最大の産業用ロボット保有国になるだろう」(フィナンシャル・タイムズ)という見通しも出てきている。加えて、人口の高齢化と人件費の上昇で、ロボットの需要が大きくなることも、ロボット産業が成長する社会的背景として取りざたされている。

 ただ問題もある。特筆すべきは地方政府の過剰な政策だ。2015年末現在、深セン、広州、重慶など36都市が、ロボット産業を主力産業として育てると発表した。中央政府が中国独自ブランドの産業用ロボットおよび、サービス用ロボットで、2020年までに目標として掲げた売上高は、広州市が掲げた目標(1000億元=約1兆6000億円)の、半分に満たないと経済観察網は指摘している。

 深センの場合、2020年までにロボット産業の規模を2000億元(3兆2000億円)までに高めると公言している。そのほかにも、広州をはじめ重慶、南京、湖北省などがそれぞれ1000億元、上海は500億元(8000億円)を目標として掲げている。

 熱に浮かれた政策は、過剰な補助金支出へとつながる。深セン市は、2014年から2020年まで、毎年5億元(約82億円)の予算を個別に編成し、ロボットとウェアラブル機器、スマート機器産業を支援している。東莞市も、2014年から2016年まで年間2億元(約32億円)の補助金を用意し、労働者をロボットで代替する「ロボット換人」プロジェクトを進行中だ。また、広東省は去る4月18日、傘下の市にロボット発展基金3億6000万元(59億円)を支援するとした。

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 補助金が潤沢になれば、補助金目当てのダミー会社も増える。実際、会社を分社して登録したり、ロボット研究所と協力して既存の部品を組立・変形させ、「イノベーションを達成した」という過剰な報告をする企業が現れているという。

 さらにひどい企業もある。とある企業はロボット製造業者にロボットを注文。どのように設置すればよいか問われると「市政府の官僚たちが来たときに動いていれば問題ない。どのように設置するかはあまり関係ない」と回答したという事例もあったそうだ。政府官僚にアピールできればそれでよく、実際にロボットを販売したり製造する気はあまりないということだろう。また、地方官僚が技術についてあまり見識がなく、現地調査もしっかり行われていないという問題があると経済観察網は伝えている。

 中国では地方政府の補助金のおかげで、ロボット産業が“大躍進”を遂げているという報道・評価が多いが、実際はそれほど楽観的ではないのかもしれない。中国政府は、2020年までに国際競争力を備えた大型ロボット企業3つ、ロボット産業クラスター5つを造る計画を明らかにしているが、地方政府間の実りのない過当競争により計画が難航する可能性も否定できない。

 中国当局はそのような実情を受け、ロボット産業に規範を作る政策も整える意向だ。ただ、来年の秋に中国最高指導部の人事が入れ替わるとともに、地方指導部の大規模な人事異動が行われるという説が出回っており、ロボットで業績作りに奔走する地方政府の過剰政策に拍車がかかるとのではという予測がある。

 中国は補助金で新興産業ブームを起こすには成功したが、実体のないロボットバブルが生まれる可能性も否定できない。いわゆる“玉石”を選別する具体的な施策が、中国の新興産業育成策の成否を左右するカギになると見られている。