きたる6月、フランスで開催されるUEFA欧州選手権2016(以下、ユーロ2016)で、ドローンによるテロを封じる作戦が用意されるという。
5月18日、ユーロ2016組織委員会・安全局のジアド・コウリー(Ziad Khoury)局長は、「ユーロ2016の期間中、競技場10ヶ所、24チームの練習場などに飛行禁止区域を設定して、ドローンテロを封じるシステムを稼働する方針(中略)ドローンを用いたバイオテロが発生することもあると判断し、そのように決定した」とメディアに明かした。
ユーロ2016は、6月10日に開幕し、フランス10都市で競技が行われる。出場国は24カ国、試合数は計51試合となる。フランスでは、昨年9月にパリで同時多発テロが発生。130人が死亡するという大きな悲劇に見舞われた。世界的な波紋も大きく、特に欧州を中心にテロに対する警戒心が一気に高まった。
当時、フランスとドイツ代表の親善試合が行われていたスタッド・ド・フランス近郊でも、爆弾が3つ爆発している。また、テロリストが爆弾付きのベストを着こみ、競技場に入ろうとしたところ、その事実が発覚。その後、爆発させたケースもあった。当時、競技場には8万人もの観衆が会場にいた。現場はテロの様子が伝えられた後、大混乱に陥った。
「(ユーロ2016に対して)ドローン攻撃が準備されている情報はないが、最近ドローンの使用があまりにも普及しており統制する必要があった(中略)過去のスポーツイベントにはなかった方法で、作戦を実行する」(コウリー氏)
なお、ドローンテロを封じる作戦の正確な内容は公開されていない。ただ、作戦の方向性だけはにわかに明らかになっている。
「飛行禁止区域でいかなる飛行物体も飛ばせないようにし、仮にドローンが発見された場合は、GPS電波の受信を妨害、強制的に着陸させる」(コウリー氏)
このような方法でドローンを封じるための装置は、すでにフランス当局が保有しており、4月にはサンテティエンヌにあるスタジアムで実戦テストまで実施されたそうだ。
またコウリー局長は「ドローンが破壊され、人ごみに落下すればより大きな被害が発生する可能性がある」とし、爆発させることが作戦の優先的な目標でないことも示唆している。
一方で、AP通信は「フランス政府は現在、ドローンを破壊させる技術の研究にも資金を支援している(中略)ユーロ2016でどのような技術が、どのレベルまで適用されるかという正確な内容は、近いうちに決定されるだろう」と伝えている。
テロに比べると小さな懸念かもしれないが、大規模なスポーツイベントと関連したドローンの使用については、その他の懸念もある。例えば、ドローンを使ってライバルチームの戦術を盗もうという試みが行われるというものである。
2014年に開催されたサッカーW杯ブラジル大会では、ホンジュラス代表との初戦を控えたフランス代表の非公開練習場に、ドローンが接近する事件が起きている。上空のドローンに気付いたフランス代表チームは、トレーニングを一時中断。ディディエ・デシャン監督は記者会見で、「盗撮されたことで、ホンジュラス代表にフランスの戦術が漏れてしまったのではないか」との懸念を表している。
一方、スポーツ界では、ドローンを使って空から俯瞰的に動画を撮影することで、戦術やフォーメーションを洗練させようという試みもなされている。有名なのは、2015年のワールドカップで快進撃を見せた、ラグビー日本代表の例だ。
チームを率いたヘッドコーチのエディ・ジョーンズ氏は「(ドローンによって撮影された)映像はとても鮮明だ。全員がどこにいるか、ボールと離れたときに何をしているか、一目瞭然だ」と話している。
ドローンが普及することが避けられない現在、スポーツ分野においては、テロや盗撮などを封じる運営体制づくりが、最優先事項であり必須だ。一方、それとはまったく別の文脈で、ドローンが持つメリットを最大限取り入れ、選手や競技の質を高めるために活用されることが望まれている。