インテルがなぜ「ドローン事業に熱をあげるのか」を整理してみる

ロボティア編集部2016年5月27日(金曜日)

 インテルとドローンの縁のはじまりは、約2年前まで遡ることができる。2014年、インテルが開催したコンテスト「メイク・イット・ウェアラブル・チャレンジ(Make it wearable challenge)」で、自撮りドローン・ニクシー(Nixie)が優勝。そのニクシーを開発したチームは、優勝賞金50万ドル(約5480万円)と、コンシューマーエレクトロニックショー2015(CES 2015)の基調講演に招待されるという特典を得たのだが、インテルはそのCES 2015からドローンへの並々ならぬ関心を示しはじめる。

 CES 2015でインテルは、ニクシーの紹介にとどまらず、自社の「リアルセンス(RealSense)」技術を搭載したドローンを披露した。リアルセンスとは、高精細カメラや赤外線センサーなどを活用して、コンピュータが周囲のものを3次元的に認識する技術を指す。リアルセンスを活用すれば、顔認識を活用したセキュリティデバイスや、人の動作に反応するゲームなどを開発することが可能。インテルはそのリアルセンスをドローンに応用し、障害物回避機能を実装し、会場で披露した。

 当時のインテルのドローンは、ドイツのスタートアップ、アセンディング・テクノロジー(Ascending Technologies)が開発を担当した。両社はその後も協力関係を維持。今年1月には、インテルがアセンディンテクノロジーを買収するにいたっている。

 インテルとドローンを語る上で、アセンディング・テクノロジーと同じくらい重要な企業がある。撮影用ドローン「Q500」で知られる中国企業・ユニーク(Yuneec)だ。2015年8月、インテルはユニークへの投資を宣言。その金額はなんと6000万(約65億8000万円)ドルだった。インテルCEO、ブライアン・クラーザーニッチ(Brian Krzanich)は、その投資について次のように述べている。

タイフーンH
ユニーク社ドローン「タイフーンH」photo by youtube

「私たちは、ドローンが人間の生活を大きく変えるだろうと考えています。それが、商品の配送であれ、災害現場のナビゲーションであれです。(中略)そして、インテルの技術が基になったユニークのスマートドローンは、ものすごい可能性を持っていると思っています。(中略)私たちは、スマートに接続された世界が来ることを信じています。そしてそのような世界を作るための最善の方法のひとつは、すべての人に、そしてすべての場所にドローンが存在すること。インテルのロードマップにあるドローンは、世界を変化させ、ドローン産業に革新を起こすでしょう」

 なお、インテルはユニークに資本を投資するだけではなく技術提携も結んでいる。インテルとユニークが共同開発した新製品「タイフーンH(Typhoon H)」は、数ヶ月以内にリアルセンスを組み合わせたバージョンをリリースする予定となっている。さて、そもそもなぜインテルは、数あるドローンメーカーの中から、ユニークをパートナーとして選んだのか。

 ドローン業界で先頭を行くDJIは当時、インテルがユニークに投資する以前にすでに、シリコンバレーのベンチャーキャピタル、アクセル・パートナーズ(Accel Partners)から7500万ドル(約82億円)の投資を誘致していた。インテルとしてもDJIに投資できただろうが、より大きな影響力を行使することができるだろうユニークを選択したことになる。

 加えて、ユニークが中国企業であったというところも大きいかもしれない。中国市場をしっかりと確保しなければ、ドローン企業として大きな成長は望むことは難しい。というのも、中国は消費、製造、インフラ、政策支援などドローンを取り巻く環境が、その他の地域に比べて圧倒的に優位だ。イアメリカやヨーロッパにも可能性のある企業はあるかもしれないが、インテルとしては中国企業に投資するのが合理的と判断した。

 中国には現在、ドローンメーカーが乱立しているが、しっかりとした技術力を備えたところはそれほど多くないと言われている。しかしユニークは「Q500シリーズ」で、DJIに劣らない技術力を備えていることを証明していた。インテルとしては、それらの可能性を総合的に加味した上で、投資に踏み切ったと言えそうだ。

airware
photo by airware HP

 なおインテルは、アセンディング・テクノロジーとユニークのほかにも、エアウェア(Airware)、プリシージョンホーク(PrecisionHawk)など、複数のドローンメーカーに投資している。

>>【インタビュー】ドローンデータ解析を提供するプリシージョンホーク社

 なぜインテルはそこまでドローンに投資するのだろうか。インテルを支えてきた事業はCPUなどを筆頭にした半導体事業。なかでもPC関連製品が中心だった。ただ、モバイル時代になると「スナップドラゴン(Snapdragon)」などで有名なクアルコム(Qualcomm)が登場し苦境に立たされてしまう。

 インテルは先月にはついに、モバイルチップの生産中止を正式に宣言している。モバイル市場に突破口を見つけることを半ば諦めざるをえないという状況の一方で、多岐にわたり活発な投資を行い、新事業やビジネスの種を模索している状況だ。モノのインターネット(IoT)、コネクテッドデバイス(インターネットに接続している機器)、クラウドサービス(Cloud service)などがその代表例となる。ドローンも、そんなインテルの将来の計画のひとつとなる。

 ところで、先月4月には米連邦航空局(FAA)に政策諮問委員会が構成された。インテルのブライアン・クラーザーニッチCEOは、同委員会の代表を務めることに。”ドローンびいき”のクラーザーニッチCEOが就任したとなれば、米国のドローンの政策にも前向きな変化が起こるかもしれない。