世界でもっとも黒い色・ベンタブラックが光を吸い込む

ロボティア編集部2016年5月31日(火曜日)

 世界で最も“黒い色”に関心が集まっている。通称「ベンタブラック(Vantablack)」と呼ばれる、ブラックホールのような黒だ。生産技術専門メディア・マニュファクチュアリングネット(Manufacturing.net)は、光をほぼ完全に吸収し、宇宙のブラックホールと同じくらい黒く見える「ベンタブラック」という新物質が注目を集めていると報道。今後、宇宙観測や国防分野で有用であると言及した。

 ベンタブラックは、英ナノテクノロジー企業・サリーナノシステムズ(Surrey NanoSystems)が開発した物質だ。カーボンナノチューブを製造する低温工程で作られ、現存する色の中で最も黒いとされている。

ベンタブラック3
photo by surreynanosystems.com

 ベンタブラックの可視光線吸収率は99.96%。通常、黒の吸収率は95~98%程度だそうだ。数字だけではいまいちピンとこないが、はたしてどれほど黒いのか。一度、上の写真を見てほしい。これは、ベンタブラックでコーティングされた彫刻。人間の目で見るとほとんど平面に見える。人の目は光の反射によって物体の凹凸を区分する。反射率の高い明るい色であればあるほど、凹凸を明確に区別することができる。一方で、反射率が低い、暗い色ほど凹凸を区別することが容易ではなくなる。つまり、極端な黒は凹凸がなく平面に見える。

 サリーナノシステムズの最高技術責任者(CTO)である、ベン・ジェンセン(Ben Jensen)は氏、「ベンタブラックの色がどれだけ黒いか…たとえば、しわくちゃの銀箔紙にベンタブラックでコーティングすると、質感が全く感じられないほど」と話す。また、このような現象は機械にも同様に起こり、吸収する光のスペクトラムを計測する分光器(spectrometer)でも測定することができない」と紹介した。

「ベンタブラックは目に見える可視光線だけでなく、赤外域まで吸収するので、このような現象が起こる(中略)レーザーポインターの光さえベンタブラックに出会うと消える。この超微細炭素構造体はほぼすべての光を吸い取る」(ベン・ジェンセン氏)

 取材陣に「このベンタブラックが衣類に活用されればどうなるか」と、冗談交じりに問われたジェンセン氏は「レース部分や縫い目など特徴がすべて見えなくなり、ドレスを着ている人の頭と手足がまるでブラックホールから出てきたように見えるだろう」と回答している。

ベンタブラック4
photo by abcdefghijklmn-pqrstuvwxyz.com

 そんな冗談はさておき、科学界がベンタブラックの誕生に関心を傾ける理由は、その用途が非常に広範だからだ。まず、天体観測用の望遠鏡に使われれば、これまで解決できなかった乱反射の問題を一挙に解決することができると期待されている。

 遠く離れた星を観測するときの最大の障害は、周辺の光による乱反射だ。その問題を解決するために望遠鏡の内部を黒く塗るという作業が行われてきたが、不要な光を吸収するには限界があった。乱反射による光の反射率は高性能な望遠鏡でも7%程度、米航空宇宙局(NASA)の望遠鏡も1%水準だといわれている。しかし、ベンタブラックを使用すれば、反射率を0.04%程度にまで減らすことができるというのが専門家たちの意見だ。

 ベンタブラックは、軍事兵器や国防分野にも活用されるのではないかと注目されている。例えば諜報衛星の表面をベンタブラックでペイントすれば、完璧な諜報活動が遂行可能になる。なお、ベンタブラックは高い熱伝導率を備えていて、銅の7.5倍、鋼鉄の10倍ほどの数値になるそうだ。