世界販売は中止に!?ソーシャルロボット・Jiboの怪しい雲行き

ロボティア編集部2016年8月17日(水曜日)

 米MITの准教授シンシア・ブラジル氏は、2014年に世界初のソーシャルロボット「ジーボ(Jibo)」を公開した。ジーボは、世界中から大きな注目を集め、ファンディング(クラウドファンディングなど)を大きく成功させた。最終的にかき集めた金額は、約371万ドル(約3億7000万円)に達した。

 しかし、そのジーボ開発プロジェクトの進み具合が、問題視されはじめている。当初、ジーボの発売予定は2015年だった。しかし、完成度の問題でスケジュールが遅れ、1年ほど先送りに。今年4〜5月に発売が改めて予定されたが、8月を迎えた現在でも見通しが立っていない。

 去る8月10日には、ジーボに投資した人物のひとりが、開発企業に直接問い合わせた。その人物は、企業側とやりとりしたメールの内容を公開。問題に大きく火がつきはじめた形となっている。

 デンマークに居住するその人物は、デンマークにおけるジーボの発売スケジュールを問い合わせた。すると企業側は「デンマークでの発売予定はない」と返答してきたという。

 当初、クラウドファンディングサイト「インディゴーゴー」では、ジーボを世界中すべての地域に発送することを約束していた。が、それを反故にしたということになる。この問題が浮上すると、開発企業側は「北米(カナダ、米国)以外のリリースを無効にする。事前に注文したお客様には返金する方針」とコメントを発表した。なお、北米での発売スケジュールも10月に再延期されている。

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photo by twitter

 ジーボの販売が先延ばしになり、世界発売できなくなった理由は、大きくふたつだ。まず、音声認識の問題。標準的な英語とされた米国以外の英語圏に住む英語ユーザーの音声認識率が、期待値以下にとどまっているという。また当初、英語のほかにも日本語、韓国語などをサポートする予定だったが、その方針も現在のところ不透明となっている。

 第二にサーバーの問題がある。ジーボは米国にのみサーバーを置く予定だが、その場合、海外ユーザーは、使いにくさなど不利益を被るしかない。米国のサーバーを経なければならないため、時間差などが生じるからだ。また各国のサーバーを利用することについては、各国のプライバシー保護方針が異なり、対処が難しいという点がネックになっているという。

 そのような理由に対し、ユーザー側は怒りをあらわにしている。いわく「音声認識の問題は技術不足を示すもの」であり、サーバー問題は「2年前には予測できていた問題」だというのだ。もちろん、2年間も待たされて成果がでないことに対する不満も大きいのだろう。

 一部の関係者は、ジーボはすでに「失敗している」とも評価している。というのも、もしジーボが北米のみで発売されることになれば、アマゾン「エコー」や「グーグルホーム」と競合することになるし、技術的にも劣るというのだ。加えて、相次ぐリリースの遅延でユーザーの信頼を失っているという事情も不利に作用するしかない。

 批判はクラウドファンディングそのものにも及びはじめている。開発企業側が能力を超える技術仕様を提示したり、非現実的な低コストで話題を作る一方、肝心の製品発売が延期されたり、元の仕様とは異なる不完全な製品が販売されるケースが増えているからだ。多くの期待を集めたジーボだが、悪しき前例を作ってしまうのだろうか。

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 ちなみに、日本の金融関係者のひとりは「クラウドファンディングには、その他の問題もある」と指摘している。例えば、資金を出す側がどのような個人・団体か、正確に把握するのが難しいというものだ。

「正体を隠して資金を提供し、後になってビジネスにいちゃもんをつけてくる反社会的団体が実際にある。金融に携わる人々のなかには、そのような問題に直面したことがある人も少なくないはず。クラウドファンディングなど、フィンテックとして注目されるITビジネスのなかには、そのようなリスクを勘案していないケースが多い」

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photo by jibo.com

 このままジーボの開発が暗礁に乗り上げてしまえば、ソーシャルロボットとフィンテックという、世界的に注目されているふたつのビジネスの成長に、猜疑の目が向けられる結果になってしまうかもしれない。