自閉症などの治療&能力向上にロボットが寄与する未来

ロボティア編集部2016年9月8日(木曜日)

 米疾病管理予防センター(CDC)の統計によると、米国の子どもの68人に1人が、自閉症スペクトラムに該当するという。自閉症スペクトラム障害(ASD)とは、従来の自閉症とアスペルガー症候群をひとまとめにした発達障害の一種。社会性(対人関係)の障害、コミュニケーションの障害、限定された物事へのこだわりなどの特徴がある。なお、自閉症は言葉の発達の問題や知的障害があるが、アスペルガー症候群はこうした問題を伴わない。

 デジタルツールを始めとするテクノロジーには、そのASDを抱える子どもたちのコミュニケーション能力や、自信を高める能力があると言われている。例えば、インディアナ州自閉症リソースセンターが公表した記事の中で、執筆者のクリスティー・ブラウン・ロフランド (Kristie Brown Lofland)氏は、ASD児は目から視覚的に学習するので、その学習においてテクノロジーが貴重なツールになりうると指摘する。

「テクノロジーはまさにASDの子どもたちを視覚的イメージにとっつきやすくするものだ。コンピュータグラフィックス(CG)はASDの子どもたちの目を引きつけ、子どもたちを長時間CGに集中させる」

 また、障害児教育に携わるキャサリン・デブロス(Kathryn deBros)氏は、ハフィントンポストの記事「テクノロジーはASDの子どもをどう救うか」で、社会への適応が難しいASD児にとって、テクノロジーは強力な支援ツールだと述べている。

「学校に行くことはつまるところ、社会性を発達させる方法を学ぶことに他ならない。テクノロジーはASD児と健常児の隔たりを埋めるのに大いに役立つ」

 アプリからロボットまで、テクノロジーを使ってASD児の学習を支援する方法がある。

photo by Autism Speaks

 自閉症患者の権利擁護団体Autism Speaksは、研究資金の提供や自閉症の啓発活動を行っているのだが、同団体によれば、ASD患者の25%は言葉によるコミュニケーションがほとんどできず、残り75%は言葉によるコミュニケーション能力が非常に低いとされている。ただアプリは、そのようなASD児の言葉によるコミュニケーション能力を高める効果があるという。

 言語病理学の専門家ジュール・シラグ(Jules Csillag)氏によれば、「ビジュアルシーンディスプレー(visual scene displays)」というアプリは、言葉を発するのが困難なASD児の成長に役立つという。「障害児教育に携わる先生たちが、テクノロジーをもっと気楽に使えるようになれば、ASD児に合った教材を作成できるようになる」というのが同氏の主張だ。

 次にテクノロジーは、ASDを抱えた子どもたちのSTEM(科学・技術・工学・数学の学問領域)能力を高める面でも威力を発揮する。米ワシントン大学(Washington University)のチームが2012年に行った調査では、大学に進学したASD児のうち、3割強はSTEM分野を専攻していた。

 ロサンゼルスのSTEMアカデミーは、幼稚園から高校3年までのASD、アスペルガー症候群、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の子どもたちのために設立された学校なのだが、こうした発達障害の子どもたちが、より多彩な経験をできるよう、STEM科目中心のカリキュラムを組んでいる。自宅で動画による講義を受け、教室では自宅で学んだことをもとに議論や演習を行う「反転授業」を実施する。また生徒はコンピュータ支援設計プログラムや、3Dプリンター、ロボットなどの協働プロジェクトに取り組む。

ロボットと自閉症
photo by twitter

 学生がプロジェクトに参加すると、持って生まれたテクノロジー関連能力が伸びるのはもちろん、同時に他の生徒や家族との触れ合いも増すという効果が現れている。

 同校に子どもを送る父兄のひとり、テリー・ホワイトサイド(Terry Whiteside)さんは、メディアのインタビューに対し、息子の変化について語る。

「以前は、あまり話そうとしなかった息子が、今は家に帰ると学校であった事を話してくれます」

 デジタルツールは、ASD児の社会性を変化させ、同時に自信をも高める作用がある。deBros氏は、ハフィントンポストの記事で、ASD児は教室の社会集団的側面に脅威を感じることが多いが、テクノロジーを与えられると変わるようだと指摘している。

 ウェブメディア・Mashableは今年の夏、豪アスペクト・ハンタースクールについての記事を配信した。同校は保育園から小学6年生のASD児だけの学校。同校の教師は、ロボット「Sphero」を使い、子どもたちに、自分の居心地のいい場所や、教室から外の世界に出ていくよう励ましている。結果、「子どもたちは勇気を出して不安を乗り越えているようだ」と、同校の副校長クレイグ・スミス(Craig Smith)氏は話している。

 なお、日本のロボット研究専門家も、ロボットが自閉症患者の治療や能力向上に役立った実例があると証言している。これらの例は、ロボットをはじめとするテクノロジーが、人間を良い方向に導いたほんの一例に過ぎない。今後、どのような効果が実際に報告されるのか。実例が増えていくことに期待が高まる。