米コーネル大学教授ガイ・ホフマン(Guy Hoffman)氏らのチームが行った、興味深い実験がある。それは「ロボット警備員が人間の犯罪抑止に効果があるか」を調べたものだった。とはいえ、実験自体はそれほどシリアスではない。むしろ、少しユーモラスでもある。
研究チームは、学生が集まる部屋のテーブルにクッキーを置き、「予備用(食べるな)」という紙を貼っておいた。そして、その見張り役として、米ロボット企業ボサノヴァ(Bossa Nova)社製のロボット・モビ(mObi)を配置。経過を見守ることにした。モビの外見は決して怖くはない。それでも、部屋を監視するふたつの目がついている。
結果、実験を通して実証されたのは、ロボットでは犯罪を抑止する力は弱いということだった。ロボットが見張っている部屋にやって来た人のうち、クッキーを食べたのは7%。ロボットも人も誰もいないときは8%の人が食べたので、ロボットは盗み食いをわずかに減らした程度にとどまったという結論だ。一方、テーブルに人が1人座っているときは、2%しかクッキーを食べなかった。
ホフマン氏は「日常にロボットがいるとき人はどう振る舞うか」に関心があり、「医療や教育、行政、軍隊など、倫理的行動が大きな課題となる場における、ロボットの存在を議論している」という。
今回の実験で使われたGoProの隠しカメラには、学生たちがロボットに対してどのように接するかが映っていた。多くの学生は、ロボットの性能を試そうとしたり、またロボットが人の盗み食いを止められるか試そうとした。ある学生にいたっては、「クッキーを失敬するから、ロボットを後ろ向きにしてくれ」と友達に伝え、その友達は「ロボットなんだぜ。わかんねーよ。クッキー頂こうぜ」と言うシーンを録音されてしまった。
なお、今回の実験結果は、先月ニューヨークで開催されたIEEE(米国電気電子学会Institute of Electrical and Electronics Engineers)ロボットと人間のインタラクティブコミュニケーションに関する国際シンポジウムで、ホフマン氏らが公表している。
米タフツ大学(Tufts University)のマティアス・シュウツ(Matthias Scheutz)氏は「人間はロボットに見られることはありえても、ロボットに抗議されたり、訴えられたりすることを考えていない」とし、結果について当然だと指摘している。またニュージーランド・カンタベリー大学(University of Canterbury)のショーン・ウェルシュ(Sean Welsh)氏も基本的には同意見で、「クッキーに手を伸ばした人にロボットが顔を向け、ダメという表情で抗議の音を出したらどうか」と、研究の条件を加えることを提案している。
一方、実験チームの一員である、カーネギーメロン大学(Carnegie Mellon University)のジョディ・フォアリッジ(Jodi Forlizzi)氏は、「ロボットのルックスや振る舞い方をほんの少し変えるだけで、人がロボットを見る目は大きく影響される。ロボットに、紺の制服やバッジつけ、警備員の格好をさせるだけでも役立つのでは」と意見を語った。