医療用マイクロロボット普及の鍵「人体に無害な電池」の研究進む

ロボティア編集部2016年9月17日(土曜日)

 体内に入り、内側から人間の病気を診断・治療する医療用マイクロロボット。その開発に向けて、最大の難関となっているのが動力源だ。

 マイクロロボットは電池で動くが、その電池は通常、リチウムなど人体にとって毒性のある物質でつくられている。そんななか、米化学学会の年次集会では、米カーネギーメロン大学(Carnegie Mellon University)のクリストファー・ベッティンガー(Christipher Bettinger)氏が、食べられる、人体に害のない電池を紹介した。

 ベッティンガー氏ら研究グループが開発した電池は、メラニンでできている。メラニンはヒトの皮膚や髪の毛、目や脳に存在する黒っぽい色素。シミのもとになるというイメージが強く人体にとって悪いものと考えられがちだが、肌を紫外線から守る大切な働きをする。同氏によれば、電池のプロトタイプの寿命は「約16時間」で、その後「無害な成分に分解される」という。

「自分がつくった電池を一つ食べたことがあるよ。一生、毎日食べても大丈夫だね」(ベッティンガー氏)

 電池はコウイカの墨の抽出物を材料にしている。「ペースメーカー、神経刺激装置、一定時間ごとに薬剤を投与する器具、血糖値モニター」の電源にも使用できるという。

 メラニンを使用したエレクトロニクスの実験は、1970年代から行われてきた。これらの実験でノーベル賞を受賞した者もいたのだが、その存在はほとんど忘れられていた。そのメラニンがふたたび注目を集めはじめたのは2000年代後半。メラニンの1種が電子伝導体であることが証明されたためだ。

 関心の高まりを受け、ベッティンガー氏はメラニンで半導体チップを開発した。そこでベッティンガー氏は「メラニンはトランジスターには向かないが、電池をつくる上ではすばらしい材料になる」と感じたという。

医療用ロボット_メラニン電池
photo by gxldroom.com

 2013年、ベッティンガー氏ははじめて、メラニン電池のプロトタイプを開発。その時の電池の寿命は5時間だった。それから3年の研究を経て、寿命は3倍になった。現在は大手製薬企業など、共同開発の話がいくつか持ち込まれている状況だという。

 カリフォルニア大学バークレー校で物質科学の研究を進める教授フィリップ・メザースミス(Phillip Messersmith)氏は、「メラニンでバッテリーを作ることはとても面白く、有望なアイディア(中略)持続可能な動力源、持続可能な材料という意味からも、生物素材を使う案は非常に有望だ」と期待感を示した。

 一方、米メリーランド大学(University of Maryland)生物工学の教授グレゴリー・ペイン(gregory Payne)氏も「非常に重要な研究」と評価している。

 ただこのメラニン電池の研究について、ベッティンガー氏は「まだ予備の段階」とする。というのも、メラニン電池の毒性反応はきわめて少ないと考えられるが、安全性を証明する臨床試験はまだ行われていないからだ。

 体内に入るマイクロロボットの動力源として期待されるメラニン電池だけに、その安全性は気になるところだ。メザースミス氏はメラニンの毒性について一致した見解はないと言及。「消化器に使用しても重大な問題は出ないと思うが、結論はまだわからない」と指摘している。

 一方、ペイン氏は「メラニンは体内に比較的多く存在する物質なのに、その機能がほとんど解明されていないのが不可解(中略)脳内のメラニンについての懸念のひとつは、分解に時間がかかる点だ」とコメントを残している。なお、メラニンはさまざまな形で存在し、食べられる電池をつくるのに不利なメラニンもあるそうだ。

 ペイン氏は加えて「(化学者)はメラニンについてまだ議論している。(中略)メラニンの構造を明らかにするのは簡単じゃない」と説明。電池を複製して大量生産できるかは保証できないとしている。それでも、サンタト氏は「メラニン電池は必ず改良できると思う。今は分子工学の時代なのだから」と未来について明るい見通しを語っている。