マサチューセッツ工科大学(MIT)教授出身で、現在、リシンクロボティクス(rethink robotics)社の会長および最高技術責任者(CTO)を務めるロドニー・ブルックス氏が、人工知能ロボットが人類を脅かすという一部の懸念について「過度な考え」と述べた。ブルックス氏は「ロボットの父」と呼ばれるほど、同分野の権威でもある。
10月12日、韓国で開催された「2016ロボワールド」に参加したブルックス会長は、メディアの取材に対して「ロボットが人間レベルの認知能力を備えるためには、500年はかかるだろう(中略)ロボットは特定の定まった業務を上手くこなすことはできるが、人間のようにすべてのことを全体的に上手くこなすことは不可能だ」とコメントした。
「人がなでると反応する犬形のロボットがあるが、実際には、このロボットが撫でられることを認識している訳ではない。(中略)ロボットにあまりにも多くの期待を寄せるのは失望感を生むことにも繋がる。あくまでも、機械は機械であるの方がよい」(ブルックス氏)
リシンクロボティクスは、韓国の空気機器メーカー・TPCメカトロニクスと提携。今月から、韓国市場にコラボレーションロボット「ソーヤー」を供給する。ブルックス会長は「韓国は最も大きく、重要なロボット市場のひとつ。ロボットを売る企業として韓国市場に進出するのは当然のこと」と述べている。
これらの発言の背景には、韓国の少子高齢化の問題などがある。韓国社会は、高齢社会の入り口にあり、出産率などの低下も著しい。母数や全体数は異なるけれども、人口や労働力減少という社会的課題においては、日本と似たような状況にある。また現在、韓国は製造業従業員数一人あたりのロボット台数が、世界的に見ても突出している国だ。
「現在の工場の仕事の約10%が自動化されているが、今後は15〜20%水準に増えるとみてい(中略)韓国で良い製品をたくさん売りたい」(ブルックス氏)
コラボレーションロボットは、熟練プログラマーが必要な産業用ロボットとは異なり、簡単な教育を受けた現場担当者が簡単に操作することができるうえに、安全性も優れている。今後、これまで自動化が進んでいなかった他の製造業分野でも、導入することが可能になると注目を集めている。
一方、コラボレーションロボットの普及は、人間の仕事を奪うことに繋がるのではないかという懸念もある。ブルックス会長は「先進国はもちろん、発展途上国でも、人々がますます工場で働かなくなり、人件費も上昇し続けていて、工場ではむしろ人を求めにくい状況だ(中略)コラボレーションロボットは、人が忌避する仕事を補完する役割をはたすだろう」としている。
ブルックス会長は以前、MIT人工知能研究所で従事し、多くの研究者・経営者を育てあげた。1990年に教え子2人とともに設立し、現在はその教え子が経営する「アイロボット(iRobot)」は、世界的な掃除ロボットメーカーとして有名だ。また、教え子のひとりでありシンシア・ブリジール(Cynthia Breazeal)氏は、コミュニケーションロボット「ジーボ(JIBO)」を開発している。
ブルックス会長は「多くの弟子が、小規模なロボット会社を創業しており、アドバイスをするなど支援している」と付け加えた。
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