サムスン電子は11日、安全性の問題から最新スマートフォン「ギャラクシーノート7」の製造と販売を中止すると発表した。サムスンは、ノート7のバッテリーから発火が相次いだことから、先月上旬に250万台のリコール(無償回収・修理)を発表。しかし、交換後の製品からも発火が起きたため、通信事業者に同モデルの販売・交換を停止するよう要請し、利用者には電源を切って使用を中止するよう求めていた。
これまでにサムスン電子は、ギャラクシーノートシリーズなどスマートフォンに適用された最新技術と、自社新サービスを連動させ、普及させる戦略を展開してきた。しかし、今回の事態を受け、注目されていた虹彩認証機能はもちろん、フィンテックやセキュリティ、クラウドにいたるまで、さまざまな事業において長期的なビジネスプランの見直しを余儀なくされている。
関係者によると、サムスン電子はギャラクシーノート7を皮切りに、ウェアラブル(着用型移動通信機器)事業を拡張し、新技術サービスの基盤を固めていく方針であったという。 すでに、ギャラクシーノート7との互換性を特徴とした、仮想現実(VR)用ウェアラブル「ギアVR(Gear VR)」が逆風にさらされている。
また、今月末に発売開始予定であるスマートウォッチ「ギアS3」も期待されていたが、一連のトラブルによって、割引対象商品になる可能性が高いのではという見方も出てきている。さらには、ギャラクシーノート7で一層改善されていた健康管理機能をプラットフォームとして、バイオヘルス事業の基盤を拡大しようとしたビジネスプランも、見直さざるを得ない状況だ。
以前より大きく注目されていた、虹彩認証機能やクラウド技術を利用したフィンテック市場への進出にも、当分は期待できそうにないという厳しい指摘が相次いでいる。そればかりか、ギャラクシーノート7には「ノックス(KNOX)」という独自のセキュリティソリューションを強化して、外部アクセスが不可能な「セキュリティフォルダ」を導入したが、こちらも同様に停滞は必至。成長産業であるクラウド分野の普及拡大を見越した「サムスンクラウド」さえも、トラブルの影にかすんでしまった。
サムスン電子無線事業部コ・ドンジン部長は、「開発に3年半以上を費やした虹彩認証技術は、単にスマートフォンをロック解除を目的としているのではなく、金融、セキュリティなどかなり大きなロードマップを持って進めている」と明らかにしている。 実際、サムスンは韓国・新韓・ハナ銀行などと連携し、署名などによる本人確認を虹彩認証機能で代替するサービスを準備していたのだが、これらの金融関連のサービスにも現在暗雲が立ち込めている。虹彩認識を基盤に、金融関連の決済とログインなどを一度に行うために、ギャラクシーノート7に導入した「サムスンパス」も、今後の普及の見通しは立っていない。
漢陽大学校シン・ミンス経営学科教授は、「(ギャラクシーノート7をきっかけに)拡大しようとしていたIoT、セキュリティなど、他の事業に融合されるはずだったプラットフォーム事業全般に歯止めがかかったことが、最も大きな被害と言える」と前置きした上で、「今回の危機をチャンスとにするためには、全体的に点検し直し、時間がかかっても他の企業と足並みをそろえて、今後を展望していかなければならない」と指摘している。
来年3月に予定されたギャラクシーS8など、今後発表される新しいプレミアムスマートフォンへの影響も計り知れない。 業界ではこれまで、ギャラクシーS8が自由に折ったり変形しにくい、つまり剛性が高いスマートフォンとして開発されるのではと予想をしてきた。ギャラクシーS8は、まだ検証されていない革新的技術を適用したとされているが、万が一、再度欠陥が発生すれば、サムスンブランドに対する信頼性を失墜させてしまうだろう。
バッテリー業界のある関係者は「リチウムイオンバッテリーは折って開いた場合、内部の圧力と密度が均一にならず、特定部位に集まる状況を打開できるかどうか、その判断は難しい」と話している。同様にディスプレイ業界の関係者も「すでにおり曲がるディスプレイの技術は、国内外で開発されているが、まだ検証が必要だ」と話しており、慎重な姿勢を示している。
一方、10年後を見通した時、他の新技術や新事業につながるひとつのプラットフォームとして、今回のトラブルが良いきっかけになるという分析も出ている。ウィ・チョンヒョン中央大学戦略経営学教授は「今回の事態で新事業に悪影響を及ぼしているというのはどこまでも過剰反応であり、かえってチャンスになるかもしれない。すでにギャラクシーノート7以前の様々なシリーズモデルが市場にたくさん普及してており、サムスンペイなどフィンテック分野には打撃がほとんどないだろう。加えて、虹彩認証など新技術の普及拡散に少し時間はかかるが、まだ普及初期なので、それほど打撃が大きいとは言い難い」と話している。
サムスン側の関係者によると「時間がかかったとしても、問題を正確に把握して行くのが最優先であり、今後、安全性強化のために、生産製品全体を徹底的に点検していく」と話している。
すでにブランドイメージの信頼問題や、売上の大幅下落が懸念されているが、なかには後継機の開発を急ぐのではとの見解も。開発技術を今後どのように展開させていくのか。今後のサムスンの対応に注目が集まりそうだ。
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