韓国で普及するスマートヘルスケア…医療費の大幅削減でも期待

ロボティア編集部2018年10月9日(火曜日)

韓国で、深刻さを増す「超少子高齢化問題」。8月末、韓国の統計庁が発表した「2017 人口住宅調査」によると、昨年の総人口5142万人のうち、65歳以上の高齢者は全体の14.2%(711万5000人)。一方、14歳以下は13.3%(663万2000人)にとどまり、2016年に史上初めて高齢者と子供の数が逆転して以降、その差が拡大し続けている。韓国の行政機関の一つでもある食品医薬品安全処(以下:食薬処)は、先月発刊した「スマートヘルスケア医療機器技術・標準戦略報告書」において、高齢化によって増える社会医療費を減らすため、スマートヘルスケア産業の政策支援の強化を求めた。さらなる個人用のヘルスケアデバイスの開発や市民生活への普及を狙い、国をあげてサポートする必要性を主張している。

近年、GoogleやAmazonなど、大手企業がこぞってスマートヘルスケア産業参入を表明。リアルタイムでの血糖値管理や遺伝子分析、疾病予防、手術ロボット開発だけでなく、最新の検査機器やがんの発見技術など、さまざまな研究結果を発表している。2013年には20社あまりに過ぎなかった関連業社はいまや120社に増え、開発された関連アプリケーションは2000個を越えた。AI(人工知能)を活用したヘルスケア商品は、スマホ世代の若者や特定疾病患者だけでなく、高齢者や障害者など、いわば社会的弱者の生活サポート業務に乗り出し、活用ニーズの幅を広げている。アプリやロボット、ウェアラブル機器などはその形態を問わず、食事から心理的なケアにいたるまで広範囲なサポートを実現させる。

マイクロソフトが開発した、腕時計型ウェアラブル「Project Emma(プロジェクト エマ)」は、パーキンソン病特有の手の震えのパターンを学習させ内蔵の小型モーターを振動させながら、患者の震えと反対方向に振動をおこす。これによって手の震えを相殺し、書き込みや絵を描くなどの手作業を可能にした。ほかにも、Googleが発表したスマートスプーン「LIftware(リフト・ウェア)」など、数々の「震え」を改善させるウェアラブルが近年多様に登場。その便利さは、特定の患者だけでなく、高齢化による一般的な症状に悩む人たちの生活をも助けるAIヘルスケア技術として、少しずつ日常に普及しつつある。

2014年にソフトバンクが開発した世界初の感情認識ヒト型ロボット「ペッパー(Pepper)」も、福祉施設や療養施設で活躍の場をますます広げている。高齢者たちの話し相手をしながら、健康診断を行い、体調面を分析。健康状態を管理するカウンセラーとしても活動する。また、「認知症対策」や「IT教育」など、それぞれの目的に適した様々なPepper用アプリも登場し、ますます機能性がグレードアップしている。例えば、認知症患者をサポートするPepper用アプリ「ニンニンPepper」がある。「おはよう!」とユーザーに声をかける目覚まし機能や、「今日は何曜日でしょう?」と曜日や時間を認識させるような対話をする機能、スケジュールに沿ってユーザーに服薬を促したり、ピルケースを撮影した画像をユーザーの家族に送信したりする機能などを提供するアプリである。

今年8月には、韓国のLG CNSがPepper用アプリ開発キット(SDK)を構築し、ソフトバンクに提供したと発表した。LG関係者は「アンドロイド用開発キットによって、世界のアンドロイド開発者らがロボット用アプリの開発に積極的に乗り出し、ペッパー用アプリがより多く開発されていくのではないか」と期待する。これによって、今以上にさまざまなニーズに合ったアンドロイド用アプリが開発され、そのアプリを用いて、未開拓市場での可能性が見込まれる。

韓国政府は、スマートヘルスケアを積極的に導入した場合、社会医療費は2025年基準で、7000億ウォン(約707億5700万円)以上が削減されると期待している。しかし現状では、個人情報を活用する使用範囲などに関する具体的な基準がないため、医療的な個人情報は、その施設以外の外部機関で活用することがほぼ不可能な状態にある。また、スマートヘルスケアが既存の医療機器と異なり、従来の規制方法の適用が難しいことから、今後も慎重な議論が見込まれていrて”横ばい状態”の長期化が懸念されている。

本稿冒頭で政策支援の強化を主張した食薬処は「病院内で得た医療情報は、外部システムとの連動が不可能なため、病院間でのデータ交換及び共有が行われず、スマートヘルスケア産業が停滞気味になりつつある。なによりもまず、個人情報保護関連法の改善が求められている」と指摘した。開発だけが先走り普及しなければ全く意味がない。セキュリティ対策や現関連法の改善、医療機器認証に対する根拠の確保など、国家主導のもとで行わなければならない環境整備が散在している状況だ。

Photo by Matthias Zomer