国連の推計によれば、ASEAN諸国の人口は2015年に6億3300万人であり、今後10年は年平均1%程度で緩やかに増加すると予測されている。その内、65歳以上の高齢者人口は同3700万人で、今後15年間に年平均4%を上回るスピードで増加。2030年にはほぼ2倍の7200万人となり、10人に1人が高齢者である社会を迎えるという予測だ。アジア諸国の高齢化傾向が強まることで、ICT技術を取り入れた関連産業が勢いにのると分析されている。
香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポスト(SCMP)は、大手生命保険会社・泰康人寿(Taikang Life)が先月、上海に43億元(約663億円)を投じて、有料老人ホームをリニューアルしたと報道した。
約3000人の老人を受け入れ可能な同施設のひとりあたりの一ヶ月分の賃貸料と食費は、少なくとも6800元(約10万5400円)で、日本の年金平均額の半分以上と言える。
昨年6月、先立って北京でオープンした施設は、既存のアメリカの老人ホームにならって設立された。泰康人寿は2019年まで広州と杭州をはじめ、他の6つの都市にも老人ホームを建設する計画だ。
中国は今後10年以内に60歳以上の人口が3億以上になると見込まれており、日本に並ぶアジアを代表する高齢国家となる。そのため昨今では、高齢者ための様々な商品が続々と登場している。
なかでも最も早く動いた産業は、保険である。保険業界は、平均寿命が年々延びている社会に合わせて、年金の適用範囲も延長している。大手保険会社であるマスミューチュアル生命や、香港を拠点とするアジアの保険大手AIAグループではすでに、自社の生命保険や年金などの適用範囲を、100歳から最大120歳まで延長した。なお、昨年の日本女性平均寿命は87歳程度。近年では、年+数%の増加の流れが続いている。
また、アジアでは老人介護施設の設置に加えて、スマートシティ化も活発だ。タイでは、東部のチョンブリ県センスク(Saensuk)地区に、初となる高齢者介護施設を建設する。現在センスク地区の住居者・旅行者46000人の住民のうち、15%がシニア層の一人暮らし、または介護が必要となると予想されている。
同事業は「センスク・スマートシティ(Saensuk Smart City)」プログラムとして2014年から構想されてきた。2018年に完工予定のこのプロジェクトには、アメリカのデル(Dell)社とインテル(Intel)社が協力し、IT技術供与やビッグデータ分析、IoTなどの技術を組み込んだ、IoT Cityイノベーションセンターを構築するとしている。
タイ現地のメディア・バンコクポストによると、この施設のコンセプトは「事物インターネット(IoT)で運営されるスマートヘルスケア」となる。住居者は、着用した手首で歩数計、睡眠パターン、日々の行動パターンの計測を行う。施設に従事する介護士は、手首バンドをブルートゥースで連動させデータを共有。受信した各種データと分析資料を通じて、遠隔で健康チェックする仕組みだ。
一方で、高齢化だけでなく、少子化に伴い人口減少まで懸念される日本でも、シニア産業に積極的な取り組みが見て取れる。IT大手であるDeNAは今年8月、千葉県のイオンモール幕張新都心で、自動運転バスを利用した交通システム「ロボットシャトル(Robot Shuttle)」の運用を開始した。ロボットシャトルは、フランスの「イージー・マイル(EasyMile)」社が開発した自動運転車両「EZ10」を活用。「EZ10」は12人乗りの電気自動車で、前後に取り付けられたカメラや、GPSなどを利用して、予め入力した地点間を自動運行する。乗客が手動でドアを閉めると、自動で目的地に向かって移動する仕組みとなる。
このように、ロボティクスやAIを利用した技術は、高齢化と人口減少に伴う労働力不足の減少という側面だけではく、社会を豊かにし、さまざまな問題を解決する策として浮上している。つまり、商品を配達するドローンや、無人で運行されるバスによって、地域経済の形が変わりつつあるということでもある。
アジア全体で急速に進む高齢化。もはやアジア諸国にとっては「将来的課題」ではなく、「緊急課題」。政策的対応に取り組む必要に迫られている。
photo by China Mike