「人間はAIで代替できない」訴訟情報解析企業の創始者の意外な見方

ロボティア編集部2016年10月28日(金曜日)

「人工知能は、人間の能力を代替することはできないでしょう。ただし、法律家がより良い判断ができるように手助けし、紛争解決に決定的な役割を果たすはずです」

 ビッグデータアルゴリズムを利用して訴訟判決結果を予測する、いわゆる“リーガルアナリティクス=訴訟情報解析ツール”を提供する人工知能企業レックスマキナ(Lex Machina)の創設者ジョシュア・ウォーカー(joshua walker)博士は、韓国・最高裁が主催する「2016国際法シンポジウム」に登壇。「人工知能は人間の利便性を高めるための手段であるだけで、人間そのものを代替することはできない」と強調した。

 自身も特許専門の弁護士として活動していたウォーカー博士は、特許データ分析アルゴリズムを研究していた2009年に同社を設立。裁判所の判決情報など膨大なデータを使用して、判決結果を予測するサービスを提供開始した。なおウォーカー博士は過去に、米スタンフォード大学とカリフォルニア大学で知識財産法の講義も受け持っていた。

 これまで、数多くの特許事件などで正確な訴訟結果を予測してきたレックスマキナの創始者の言葉は、意外なものとなった。ウォーカー氏は続ける。

「過去に下された複数の結論を通じて未来を予測することは、人工知能にはやりとげることができないだろう(中略)同じ裁判官でも、同じような問題に異なる結論を下すことがある。人工知能が下す決断が、人間の意思決定を代替することはできないと思う」(ウォーカー氏)

 ウォーカー氏はさらに「人工知能の役割はデータを蓄積・分析し、人間がより良い最終予測をできるようにすること。また、法律家が紛争に集中できるよう、支援する役割にとどまるだろう」とも付け加えた。

 ウォーカー博士の考えでは、両者は対立するものではない。それよりも、人工知能と人間より大きな枠組みで、相互に補完しながら、それぞれの利点を生かし共存する形になるのではと予想する。

「人間は勝訴・敗訴の予測に没頭するのではなく、人工知能の助けを借りて、自分の知識を最大限に活用し、訴訟の争点に集中したほうがよい(中略)人間だけができることに専念する方が望ましい」(ウォーカー氏)

 一方、人工知能の適切な活用は、紛争を解決するのに決定的な役割を果たすともしている。

「人間は過去の予測モデルがあるとき、つまり、当事者間の紛争の結論が明らかだと知ると、不必要な訴訟提起で時間を無駄にしない(中略)人工知能は、裁判官や弁護士など法律家がより価値のある役割を果たすことができるように支援するだろう」(ウォーカー氏)

 訴訟分野に関わらず、人工知能は過去の膨大なデータの中から適切な事例を探し出すという役割をすでに果たしはじめている。今後、人間との共存がどのように進むのか。同分野のトップを行く専門家だけに、その言葉は示唆に富んでいると言えそうだ。

photo by santa clara law