顔認証技術を応用し先天性疾患をAI診断...一部で人間の医師を上回る精度

大澤法子2017年12月26日(火曜日)

顔認識技術「Face2Gene」を活用した胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)の新診断法が米国小児科学誌『Journal of the American Academy of Pediatrics』(電子版)の最新号に紹介された。

胎児性アルコール・スペクトラム障害とはアルコール関連の神経発達障害の総称を指す。妊娠中における母親による常習的な飲酒習慣により引き起こされる胎児性アルコール症候群(FAS)、部分FAS、アルコール関連神経発達障害(ARND)がこれに含まれる。胎盤を通じて胎児がアルコールの影響を持続的に受けた結果、特徴的な顔貌や頭囲の縮小、発達遅延、中枢神経系の機能不全を招き得る。

胎児性アルコール・スペクトラム障害のうち、FASや部分FASは妊娠中の飲酒の有無に関する情報を聞き出さなくても診断可能である。一方、アルコール関連神経障害の診断に際しては妊娠中に飲酒をしたかどうかを母親から聞き出さないと診断できない。そのうえ、顔貌の異常について微妙かつ不明瞭であるがゆえに、判別しづらいのが現状である。アルコール関連神経障害診断用の認知機能テストなるものが存在するものの、テスト自体が複雑であり、なおかつ信頼性に欠けるというデメリットがある。

そこで、「AI×遺伝子」に取り組む米ボストンの人工知能関連企業のFDNAは、自社開発の顔認識ソフトウェア製品「Face2Gene」を胎児性アルコール・スペクトラム障害治療向けに提供することを提案。同ソフトウェアに組み込まれたAIは遺伝子レベルで起こり得る異形成の特性をすでに学習済みであり、希少疾患や、治療困難とされる遺伝子疾患の治療法の確立の面で期待が持たれている。当初は高価な3Dカメラを揃える必要があったが、システムの改良により、標準仕様のカメラで撮影された写真で顔を認識できるようになったという。

被験者は胎児性アルコール症候群疫学研究データベースに登録されている5歳から9歳までの子供。FAS患者36名、pFAS患者31名、ARND患者22名、さらにこれらの胎児性アルコール・スペクトラム障害を呈していない対照群として50名の子供が含まれた。被験者の子供の出身国は南ア、米国、イタリア出身と様々であった。

写真については対面診察時に正面または斜めの角度から撮影したものを使用。いずれの研究グループの子供にも、コンピュータベースの顔認識システムによる診断を受けてもらい、あらかじめ既往歴を知らされていない、先天性異常に詳しい2名の専門医とではどちらがより正確な診断を行えるかを検証した。

受信者操作特性(ROC)曲線下の面積を調べた結果、胎児性アルコール・スペクトラム障害の診断精度については、コンピュータベースの顔診断システムも、人間の医師も同程度であったという。疾患別に見ると、特に人間の医師による判別が困難とされるARNDでは、人間の医師を上回る正確さで判別可能であることが証明されている。

なお、アルコール関連神経障害と診断されず、適切な治療を受けないまま成長した子供はやがて心の病を発症し、アルコール乱用・依存症の問題を抱えるようになる。今回の発見が胎児性アルコール・スペクトラム障害の早期発見・介入を促す一助となり、子供を取り巻く社会問題の解決につながることを期待したい。

photo by FDNA

大澤法子

記者:大澤法子


翻訳者・ライター。1983年、愛媛県生まれ。文学修士(言語学)。関心分野は認知言語学、言語処理。医療・介護分野におけるコミュニケーションに疑問を抱いており、ヘルスケアメディアを中心に活動中。人間同士のミスコミュニケーションに対するソリューションの担い手として、ロボット・VRなどがどのような役割を果たし得るかを中心に追及。

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