トランプの誤算!?…雇用減少の理由は移民ではなく「ロボット化」だった

ロボティア編集部2016年11月15日(火曜日)

共和党大統領候補ドナルド・トランプ氏の当選に揺れるアメリカ社会。そのトランプ氏がアメリカ国民に語った公約には、不法移民の退去、貿易協定の破棄・再交渉などが含まれる。

 トランプ氏は、米国製造業の雇用減少が、メキシコや中国など他国との貿易、また移民によって生じていると主張。自由貿易に反対し、保護貿易主義の立場を取り、米国人に雇用を取り戻すと明言することで、大きな支持を得ることに成功した。しかし、こうした考え方は正しいのか。ポートランド・プレス・ヘラルド(Portland Press Herald、11月2日付)などが報じた記事によると、必ずしもこうしたステレオタイプな見方は当てはまらないようだ。

 当のアメリカ国内では、移民や自由貿易が米国内の労働者(主に白人)の雇用を奪っているというテーゼに対して異論が相次いでいる。その主要なテーゼ、また研究結果の内容の焦点とは、「高度に進んだ自動化が雇用を奪っている」というものだ。

 アメリカの製造業部門の雇用は、1979年に頂点を記録して以来、700万件以上減少している。ただ一方で、米国商務省の集計によれば、2015年には原材料などいくつかの費用を除いた製造業の売上高が1兆9100億ドルとなり、2014年の2倍以上に増えたともいわれている。これは、金融危機直前の年、2007年に打ち立てた“最高値”にわずかに届かないレベルであり、中国について世界2位の規模となる。

 いわゆる“自由貿易反対派”は、中国が2001年に世界貿易機関(WTO)に加入して以来、米国市場に簡単にアクセスできようになり、米国の製造業の雇用が消えたと主張している。実際、米国内では繊維業、家具製造業など、労働集約型の産業の雇用が減り、生産性も賃金が低い他国に押されている。繊維業の場合、生産性が2000年に比べて46%下落。雇用も62%減少、36万6000件が消滅した。

 しかし最近では、中国の台頭よりも、工場の自動化が製造業の雇用の減少により大きな影響を与えているという分析結果が相次いでいる。

 例えばボール州立大学(Ball State University)傘下の産業・経済研究所の研究結果は、昨年、米国における雇用減少の理由として、「取引」などが全体の原因の3%に過ぎず、ロボットなど、技術開発が88%を占めるとした。また、シンクタンク・ランド研究所(the Rand Corp)のハワード・シャツ(Howard Shatz)氏は最近、AP通信とのインタビューで、そのような状況について「少ない人でも多くの量のものを作ることができる時代になったため」と指摘している。

 自動車会社ゼネラル・モーターズ(GM)の場合、1970年代には従業員が60万人を超えていた。現在は、その時点の3分1水準だが、乗用車とトラックをより多く生産している。鉄鋼などその他の原材料の製造業を見ても、雇用は1997年より42%減少、26万5000件が消失したが、生産性は38%増加している。デューク大学のアラン・コラード-ウェクスラー(Allan Collard-Wexler)教授と、プリンストン大学のヤン・デ・ロッカー(Jan De Loecker)教授も、昨年の雇用は外国との競争や販売不振で減少したのではなく、新技術の登場のためだと主張している。

 今後、人間の雇用に影響するであろうロボット化=自動化はさらに進むことは確実視されている。米経営コンサルティング会社・ボストンコンサルティンググループは、25個の主要な輸出国で最近2〜3%ずつ成長している産業用ロボットへの投資が、2025年まで毎年10%ずつ成長すると予想している。

 同グループはまた、ロボット1台の維持・運営にかかるコストが、2005年には18万2000ドルだったが、2014年には13万3000ドル、2025年には10万3000ドルまで下がるとも予想。一方、2025年には、人件費が米国22%、日本25%、韓国33%と、それぞれ削減されると推測を示している。

 世界的な新素材開発会社・ケナメタル(kennametal)の米国支社で、CEOを務めるロナルド・デフェオ(Ronald M. DeFeo)氏は、工場の自動化に2億〜3億ドルを投資。従業員1万2000人のうち1000人を削減した。

「生産の自動化で人員削減があった。今後も削減がありえる(中略)会社が望む自動化、人件費の削減が可能だ」(デフェオCEO)

 彼はまた、ドイツのケナメタル支社工場を訪問した際、スタッフが製品をいちいち包装するのを見て、ドイツと北米の工場に1000万ドルをかけてロボットを設置。そのような措置により、コスト削減と、人材の削減・再配置がともに進行していると説明する。

 とはいえ、中国などのアジア各国で人件費が上昇したため、ロボット技術を利用した工場の自動化が拡散し、米国の労働者たちが“恩恵”を受けた面もある。米大手企業は、1990〜2000年代に世界各地の低賃金地域に生産拠点を拡大したが、その事業の在り方を再考するようになった。いわゆる“リショアリング”だ。工場の自動化技術が発展することで、あえて人件費が安い中国やアジア地域に拠点を構える必要性が減った。

 最近、アメリカの大企業は自国に拠点を改めて構え、ロボットおよびエネルギーの節約に投資を加速させている。

 米国の繊維企業・ユニファイ(Unifi)の場合、6年前に比べて従業員が200人以上増え、現在、合計1100人がノースカロライナ州の自動化された工場で働いている。ただし、ペットボトルを原料としたリサイクル繊維「リプリーブ(Repreve)」を生産するその工場では、以前に人が行っていた運搬を倉庫ロボットが担当。またロボットアームが不良品を選別しているという。

 同社のトーマス・コードル(Thomas Caudle)社長は「原材料を海外から輸入していたが、サプライチェーンに支障が生じると、突然の倉庫が空になり、売るものがなくなる(中略)もう企業は、アジアというかごに卵を一度に保管しない」とコメントしている。

 海外に拠点を構えると、各国が抱える事情やリスクから自由ではいられない。一方、国内で高度な自動化を達成すれば、国内で安心して製品を開発できる上に、人件費も削減できる。コードル氏が言わんとするのは、おおまかにはそのようなことだろう。

 米国内の雇用の減少の本当の理由は何なのだろうか。ナショナリズムで国民を鼓舞し、移民や他国から仕事を取り戻すとしたトランプ氏だが、その要因を見誤れば、当然、その“解”も間違うことになるかもしれない。いずれにせよ、高度なロボット化=自動化というファクターは、今後の米国経済、そして世界経済を語る上でも欠かせないものとなりそうだ。

photo by Wikipedia