マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が、ロボット税の導入を主張したことに対して、米ボストン大学の経済学者ジェームズ・ベッセン(James Bessen)氏が反論した。
ベッセン氏はボストン大学法学部教授で、技術革新と特許に関する研究者として知られている。ソフトウェア開発者としては、「ベストインフォ」というソフトウェア企業を創業し、1993年にインターグラフに売却。「特許の失敗(Patent Failure)」などの著者として知られ、ホワイトハウスや連邦取引委員会(FTC)など、米国政府が政策を発表する際には、その著作がたびたび引用されている。
そんなベッセン氏は26日、米経済専門メディア「フォーチュン」に寄稿。ロボットによる自動化が雇用を奪うとしたビル・ゲイツ氏の主張に一部反論した。ベッセン氏は、ここ数十年、製造業の自動化で雇用が消えたのは正しいと、ゲイツ氏の主張を認めている。例えば、1950年代に米国の鉄鋼労働者は50万人だったが、現在では10万人にまで減り、繊維労働者数も40万人から1万6000人に減少した事実があるからだ。ただ一方で、ベッセン氏はロボット税の導入が、新たな雇用の創出をむしろ遅延させるとして警鐘を鳴らした。
ベッセン氏の主張の骨子は、「機械が人間の仕事を常に奪う訳ではない」というものだ。例えば、1810年に存在した織物労働者の98%は、1910年の時点で機械に置き換えられたが、全体的な繊維労働者の数は増加したという例がある。
200年前、服は非常に高価で、ほとんどの人は一着しか服を持っていなかった。ところが、自動化により衣類の市場価格が下落。人々はより多くの衣類を購入し始めた。ついに綿織市場は飽和状態に達するが、それ以降は価格が下落せず、消費者の購買意欲を引き寄せなくなった。そのため“最終的に自動化”によって1950年代以降、繊維労働者の雇用者数が減少せざるをえなかったという分析を示している。つまり、雇用減少のもっとも大きな理由は“需要”にあり、自動化による影響は決定的な要因でないというのが、ベッセン氏の指摘となる。
ベッセン氏によれば、IT産業の発展も雇用者の増加に貢献した。1980年代にバーコードスキャナが導入され、レジ係の仕事が自動化されたが、レジスタッフの数は増加した。また電子文書は、2000年代に法律事務職員(パラリーガル)の仕事を自動化したが、法律事務職員の数は増加している。これらの雇用成長は毎年1.1%に達した。
加えてATMは、銀行の窓口業務を代替したが、米国では銀行の窓口業務従事者(テラー)の数は年平均2%増加してきた。というのも、銀行はATMのおかげで、比較的低コストで支店を拡張することができた。支店が増えることで、ATMと窓口業務従事者がともに増加したという訳だ。
ベッセン氏は、自動化が製造、物流、流通、トラック運転など特定分野で仕事を消失させる可能性もあるが、産業全体として見たときに雇用を増加させるだろうと指摘している。今後20年間、ロボットと人工知能が加速度的に発展・普及したとしても、雇用数の変化はそれらテクノロジーというよりも、需要によって左右されるとし、テクノロジーはむしろ不均衡な需要を是正する効果があるので、雇用を引き上げると主張している。
一方でベッセン氏は、ビル・ゲイツ氏らが提案する「労働者の再教育の必要性」については同意している。ロボットと人工知能が経済的な不平等を拡大させ、多くの労働者が新しい技術を身に付けるために負担を強いられるという点については異論がないようだ。加えて、労働者の一部だけが新しい技術を身につけるので「技術格差(skill gap)」が拡大するとも予想している。
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