精度85%以上…人工知能が顔相から「犯罪予備軍」見分ける

ロボティア編集部2016年12月12日(月曜日)

 観相士という言葉がある。韓国や中国に伝統的に広く存在し、人間の顔を見て対象の人柄、寿命、運命などを占う人々である。日本にも「観相」という言葉はある。だが、こちらは顔に限定されず、身体全体の特徴から対象を占う技術とされている。そのため、観相士という言葉を日本で正確に翻訳するとすれば「顔相士」となりそうだ。

 韓国や中国の観相士は、歴史上のエピソードにたびたび登場する。権力者や市井の人々の金運、仕事運、人柄、寿命を的中させたかと思えば、容疑者たちの顔を見ただけで迷宮入りしかけた殺人事件の犯人を割り出すなど、その活躍はさまざまな形で伝わっている。そこに科学的根拠があるかどうか分からない。が、実際にそういう人々がいて、歴史にその名を刻んできたという事実は広く確認されている。当の観相士たちによれば、人の顔には森羅万象が凝縮されているのだという。

 現在、その観相士たちが行ってきた「人間観察」そして「占相術」が、あるテクノロジーによって再現されつつある。Artificial Intelligence=AI、すなわち人工知能によってだ。ただ人工知能が期待されているのは、人間の顔から彼らの未来や運を割り出すことではない。犯罪予備軍、つまり犯罪者に特有の顔の特徴を見つけ出すという面で活用されようとしている。

 19世紀にイタリアにチェーザレ・ロンブローゾという医師、そして犯罪学者がいた。彼は、「犯罪人類学の父」と呼ばれ、「犯罪性は遺伝する。犯罪者は独特な身体的特性を持つ」と主張した。犯罪者は、非犯罪者よりもサルに近い遺伝子を持ち、飛び出した額や大きすぎる耳、長い腕のような身体的特徴があるとした。それを見れば、犯罪者を割り出せるというのだ。ただその仮説は、彼が死ぬ日まで証明されなかった。一方、20世紀初頭になると、英犯罪学者である監獄医であったチャールズ・ゴーリングは、犯罪者と非犯罪者の間に身体的特徴に差がないことを統計的手法で証明してみせた。

 時代は21世紀。当時、犯罪学者の中で行われた論争が、人工知能の登場とともに改めて再燃しつつある。

上海交通大学のフー・シャオリン氏ら研究者は、さまざまなマシンビジョンアルゴリズムを活用。犯罪者と非犯罪者の顔の特徴を分析した。そこで、ふたつの集団の違いを発見したという。研究チームは、18〜55歳の中国人男性1856人(いずれもヒゲがない写真)の身分証明書の写真を活用。それらのうち、半分は犯罪前歴がある人々だった。

 ふたりはまず、その写真のうち90%を使ってふたつの集団を区別できるように人工知能を訓練した。その後、残りの10%の写真で実験を行った。結果、人工知能技術(ニューラルネットワーク)は、89.5%の精度で、犯罪者と非犯罪者の識別を行った。

 研究チームは、“犯罪者の顔”として3つの特徴を見つけたとした。それは、犯罪者は、非犯罪者より、上唇曲率が平均23%より大きく、目の間の距離が平均6%より短い。また、鼻先と唇の両端をつないだ線の角度が平均20°ほど小さいというものだ。我々が聞くと、非常に突拍子もない根拠だ。しかし彼らは、この特徴を他の各種統計数値と合わせ「顔画像を用いた犯罪自動推論」という論文を公表した。研究チームはそれら成果を以って、「犯罪者の顔を自動的に推論する技術が有効であることを立証した」としたのだ。

 研究チームは、一般的な法違反者・非犯罪者よりも、犯罪者は顔の類似性が劣るとも説明している。つまり、犯罪者の顔は、一般人よりも共通の特徴をつかむことがより難しいということだ。どんなに多くの顔画像データを持っていても、犯罪者を的中させる確率が低い理由はそこにあると、研究チームは主張している。

 同研究には、まだ欠点も多い。標本に使用した顔画像データの数は、研究テーマの深刻さに比べてはるかに少なく貧弱だ。犯罪と顔相の関連を真に実証しようと思えば、年齢や性別、人種ごとに細分化された研究も必須になる。

 なお、昨年11月初めには、米ノートルダム大学のメル・マッカリー(Mel McCurrie)氏ら研究チームは、顔写真だけで、対象が信頼に足るか、権威的か、社交的か、ユーモアに富んでいるかなどを人工知能に判断させる実験を公開した。顔の特徴から、その人間性を割り出そうというものである。また米国では、2013年のボストンマラソン爆弾テロ事件を受けて、天才ハッカーが犯罪者を事前に逮捕するための“犯罪予備軍摘発プログラム”を開発しているとも報じられている。こちらには、米治安担当者の接触があるという噂だ。

 人工知能によって、人間の顔や身体的特徴が分析されクラス分けされる世界。もしそれが実現してしまうとするならば、そこには新たな階級社会が到来するかもしれない。

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