人間をはるかに超える能力を持ち、人間では到底不可能な大量のデータ読み込みを実現するIBMの人工知能ロボット「ワトソン」。今年に入り、すでに英会話アプリへの活用が決定している。
IBMの次なるターゲットは介護分野だ。米ライス大学の電気工学、コンピュータ工学および心理学の学生や研究者らとともに、ワトソンをベースに高齢者介護向けに改良したIBM多目的介護ロボットアシスタント(IBM MERA=IBM Multi-Purpose Eldercare Robot Assistant)の原型を完成させた。ワトソンを基にしたロボットの開発に関しては、今回が初の試みである。
ライス大学はペンシルベニア州ピッツバーグ市内にてロボットの製造に関与する40の学術機関のひとつ。同大学は13日、米国防総省より8千米ドル(約91億2千万円)、州政府、学術機関、非営利組織を含む200以上のスポンサーより合計1億7300万米ドル(約197億2200万円)の資金調達を受けたことを大学公式サイトにて発表した。
「IBM MERA」は事実上のワトソン2世だ。ワトソンを支える技術を装備しており、その振る舞いはIBMクラウドや、ソフトバンクの人工知能ロボット「ペッパー」内蔵のインタフェース上で制御される。さらに、ライス大学のスケーラブル・ヘルスラボ(Scalable Health Lab)」の研究者らと共同開発した「カメラバイタルス(CameraVitals)」を搭載。人間の顔を動画で撮影・記録しながらバイタルサイン(生命徴候)を導出する。
「IBM MERA」の開発における最終目標は、医療従事者、介護者および高齢者の3者間のコミュニケーションの妨げとなり得る壁を取り除き、高齢者がケアに関する意思決定をしやすい環境を生み出すことだ。そこで、認知科学的アプローチが目標達成のカギを握ると考えた研究者らは、IBM MERAおよびそのAIロボットを支えるIoT技術に加え、認知処理技術の構築を最重要課題とした。
現在、空気中の二酸化炭素や一酸化炭素などを測定するセンサーを通じて、「誰が部屋の中におり、部屋の中でどのくらい過ごしているか?」が判る段階まで研究が進んでいる。「空気や移動、音、匂いなどを検知するセンサーが介護者との連携にどう関与し、結果として高齢者の生活の質(QOL=Quality of Life)の改善へと貢献し得るのか?」に着目しつつ、新たなステージへと突入した。
IBMの研究部門と協働するイタリアのヘルスケア関連企業、ソーレSole社(Sole Cooperativa)社長ロベルタ・マッシ(Roberta Massi)氏は、「新システムの開発の裏には、高齢者にはできるだけ長く安全かつ自立した生活を送ってもらいたいという思いがある。新システムでは人間の日常行動や人間を取り巻く環境への理解に主眼を置いており、高齢者にとっての潜在的なリスクを特定し、それぞれに合ったケア法を提供することが可能となる。それによってQOLが改善され得るだろう」と海外メディアの取材に対しコメントしている。
IBMは昨年9月、AIロボットによる動的環境での対象物の理解および没入型経験を促す開発者向けプラットフォーム「プロジェクト・インツ(Project Int)」を公開したことを発表。朝起きてから床に就くまでの1日におけるコンテクスト理解を促す認知システムの構築に注力している。
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