仮想通貨ブームの陰で各国が模索する中央銀行発行のデジタルマネー(CBDC)…その必要性と可能性とは

ロボティア編集部2018年1月16日(火曜日)

世界的な仮想通貨ブームの到来を目の当たりにし、各国の中央銀行の動きも加速しつつある。仮想通貨ブームが決済システムや金融市場に及ぼす影響が、無視できないレベルに達したという認識からだ。

とはいえ、国際決済銀行(BIS)や主要国の中央銀行は、ビットコインなどの仮想通貨を、貨幣というよりも、需要と供給によって価格が決まって取引される金融商品、もしくは資産と評価している。米連邦準備制度理事長のジャネット・イエレン氏は、「ビットコインは投機資産であり、安定した価値保存手段ではない」と述べたことがある。カナダ中央銀行のスティーブン・ポロズ総裁も、「仮想通貨は信頼に値する価値保存機能を備えていないため、通貨として見ることができない」と言及している。

そんななか、各国の中央銀行の関心は仮想通貨よりも、中央銀行が発行するデジタルマネー「CBDC(Central Bank Digital Currency)」に集中している。 CBDCはビットコインや、イーサリウム、リップルように、民間がブロックチェーンの技術を活用して発行する仮想通貨とは異なり、中央銀行が保証するデジタル貨幣である。仮想通貨の価格は市場で決定されるが、CBDCの価値は現行の紙幣や硬貨のように定められている。価格が頻繁に変わる仮想通貨は価値を定める手段や交換媒介にはなれないが、CBDCはそれら仮想通貨の限界を解決することができるとされている。

またCBDCは、中央銀行が発行する紙幣・硬貨(=現金)とは異なり、アカウント(account)やトークン(token)のようにデジタル形式で発行される。貨幣発行コストが大幅に削減されるだけでなく、決済と保存が便利であるという長所がある。スウェーデンは、すでにCBDC時代への移行を準備する「e-クローネ」プロジェクトを開始しており、オランダ中央銀行も「DNBコイン」と呼ばれる内部専用デジタル貨幣をつくった。

ドイツ連邦銀行は、仮想通貨が金融危機をもたらす可能性を指摘し、リスクを予防するには、中央銀行が直接デジタル貨幣の発行を検討する必要があるとしている。ドイツ連邦銀行のイェンス・ヴァイトマン総裁も、「ビットコインのような仮想通貨の登場は、将来的に非常に深刻な金融危機をもたらす可能性がある」とし「中央銀行は、安全で安定したCBDCをつくり管理しなければならない」と言及。米国、英国、ノルウェー、中国もCBDC発行の可能性を精査している。そして、米ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアム・ダドリー総裁は「FRBは独自のデジタル貨幣発行のためのアイデアを検討している」としている。

仮想通貨を「投機的金融商品」と定義したBISも、CBDC活用については積極的な立場である。BISは、「取引の効率性と危険性の両方を持つ仮想通貨が世界的なブームを起こす状況で、中央銀行は仮想通貨の発行・管理主体になるように準備しなければならない」とし「各国の中央銀行は、デジタル貨幣の安全性、効率性、透明性はもちろん、経済全般や金融システム、金融政策に与える影響をあまねく検討しなければならない」と述べている。

一方、PWCチャイナのパートナーを務めるChun Yin Cheung氏は、「中国が2018年にCBDCを導入する初めての主要国になるかもしれない」と分析している。仮想通貨の取引を禁止するなど、表向きはデジタル通貨に否定的な姿勢を見せている中国だが、CBDCやブロックチェーンのような技術には一貫して関心を寄せてきたという。戦略的には、一帯一路政策における中国と欧州など各国の協力関係を高めるために利用されるのではないかと、Cheung氏は個人的な分析を書き綴っている。

韓国銀行も最近になってCBDC研究を開始した。9日には金融決済局と金融安定局、通貨政策局、金融市場局など8つの関連部門が参加した「仮想通貨とCBDC共同研究タスクフォース(TF)」が結成されたと発表されている。韓国銀行関係者は、「技術が発達し、CBDCが新しい支払い決済手段として登場する可能性が大きくなっただけに、関連研究を行っていく」と述べている。

しかし、CBDCが本格的に発行されたからといって、現金を代替できるかどうかは不透明だ。CBDCが「キャッシュレス社会」に突入するための必要なセキュリティ・決済技術を発達させたと仮定しても、CBDC発行に応じて変化する中央銀行と金融政策の役割についての議論が先に行われなければならないからである。

英シンクタンク「公的通貨金融機構フォーラム」(OMFIF)が昨年に開催した会議では、CBDC発行の過程で鮮明になるであろう、中央銀行と一般の商業銀行の競合が重要な問題として議論された。アカウント形式のCBDCが発行された場合、家庭や個人が中央銀行に直接口座を持つことができるようになるので、中央銀行は「銀行の銀行」ではなく「すべての経済主体の銀行」になることになるからだ。

チェコ中央銀行の関係者は「CBDCが発行されれば、中央銀行は発券、通貨調整、支払い決済業務だけでなく、預金の受信、ローンなど、商業銀行の任務も遂行することになる」とし「この場合、過去の社会主義国が採択した『単一銀行(monobank)』体制に回帰するのかなど、さまざまな可能性が考えられる」と述べている。

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