手術支援ロボットを使った心臓手術で患者が死亡した事件で、手術担当医師がトレーニングをおろそかにしていたという指摘が出ている。
海外メディアによれば、2015年にニューカッスルにあるフリーマン病院で、手術支援用ロボット「ダヴィンチ」が補助した心臓弁手術を受けたStephen Pettitt氏(69歳)が、手術後、臓器不全を起こし最終的に死亡した。その後、警察などの調査により、死亡事故の全体像が浮き彫りになってきた。
同事例を調査した検死官は、主席外科医師であるSukumaran Nair氏やその同僚に対して、ロボットシステムを使いこなすリハーサルをより積むべきだったと指摘。患者が死亡した後、Nair氏らはフリーマン病院のロボット使用コーディネーターであるPaul Renforth氏に電話をかけ、「非常に悲しい」と「手術が計画通りに進まなかった」と打ち明けたという。それに対し、Renforth氏は「(Nair氏らが)手術前により多くのリハーサルをすべきだった」と話したという。
一方、調査の結果、手術チームを支援する仕事を引き受けていたロボット専門家たちが、スタッフに伝えることもなく、手術中にいなくなったという事実も明らかにされた。なおダヴィンチの使用を支援する専門家らは、製造元であるインテュイティブサージカルではなく、エドワーズライフサイエンスという企業の職員であった。
なお、エドワーズライフサイエンスからは、ロボティア宛てに以下のように説明があったので追記しておきたい。
「この度お亡くなりになられたPettitt氏のご家族に、心よりお悔やみを申し上げます。エドワーズライフサイエンスが派遣した専門家が当時手術に立ち会っていた理由は、手術の前半で使用された弊社の2つの製品に関するサポートが目的です。それらは心臓手術の際に用いられる、管状の製品です。弊社が派遣した専門家は当該製品が問題なく留置され、機能したことを確認したのち、外科医の同意のもと、手術室を後にしました。なお弊社の社員である別な担当者は、その後も手術室の様子を確認できるモニタールームに最後まで留まっていたことを確認しております。弊社エドワーズライフサイエンスは自社製品以外の製品トレーニングや、製品使用時の指導を行うことはございません。」
エドワーズライフサイエンスから提供されたより詳細な情報によれば、正中切開(胸骨正中切開とも呼ばれる)という一般的な開胸手術の手法であれば、視野もスペースも十分に確保でき、さまざまな治療用の管やクリップ状の器具を使用できる。一方、小切開や肋間開胸と呼ばれる、いわゆる「低侵襲手術」は、それらが困難な場合も多いという。そのため、大動脈を開胸部でクリップ状の器具で挟んで遮断するのではなく、太ももの付け根の血管から管を挿入して心臓の近くまで進めて、そこでバルーンを膨らませて大動脈を遮断したり、心筋保護のための措置も、患者の首のあたりから挿入した管を通じて行うということが必要になるという。エドワーズライフサイエンスが専門家を派遣していたのは、そのように使用される自社製品の稼働を確認するためだったという。
はたして、問題を起こした本当の理由はなんだったのか。さらに詳細な調査が待たれている。
なお、グループ系列病院のロボット手術の責任者であるNaeem Soomro教授は、病院ではすでに2500回以上のロボット手術が行われ、30人以上の外科医が使用方法を訓練されており、同分野においては国家最高だと認められていると話している。
英国のNHS病院(公的医療機関)には約60台の外科用ロボットがある。これまで、ダヴィンチは、患者の回復時間と合併症を大幅に減らしてきた実績を持つと報告されている。悲しい死亡事故の背景には、精密なロボットを扱う人間側のコミュニケーションミス、および油断や慢心があったと言えそうだ。
Photo by Brandon Holmes