英国ではウェールズ大学病院にて重症のてんかん患者を対象に実施したロボット手術が注目を集めている。脳神経系領域におけるロボット支援手術としては、ウェールズ地方初であると地元メディアは報じている。
てんかんと診断された場合、大抵は医師より処方される抗てんかん薬で発作をある程度抑えることができる。ところが、症状が重く、抗てんかん薬が効かない場合には、手術が検討されることがある。
今回手術を受けたのは、ウェールズ南部のニース・ポート・タルボットに住む31歳の女性である。その女性のてんかん既往歴は20年。発作は毎日出ており、それゆえ外出もろくにできず、ひどい時には1日6回も発作に苦しむことがあったという。
注目のロボットは、工学・科学技術のパイオニアであるレニショー社(Renishaw)が開発したもの。ステレオ脳波記録法に準拠したニューロメイト定位ロボットだ。カーディフ大学のウィリアム・グレイ(William Gray)教授の手術補助役として、患者の脳内に埋め込まれた電極や、MRI画像を用いて、プローブの位置を正確かつ継続的に記録したり、脳内を流れる電気信号を測定したりしながらてんかんの誘発部位を特定した。
通常、てんかん手術に要する時間は4時間程度である。今回のロボット手術にかかった時間はわずか55分であり、手術時間の大幅な短縮に成功した。
術後1週間における経過は良好であり、患者によれば手術を受けてから発作に苦しむことはなくなったという。今回の事例をもって最も厄介なケースにおける治療の可能性が示唆されたほか、手術時間が短い分、感染のリスクが低いことから、てんかん治療の光明となり得る。脳内を流れる電気信号の測定と同時に、異常が発見された脳部位への直接的な処置を実現可能にすることが当面の目標だ。
脳神経系疾患への最新技術の適用の試みは、スウェーデンのルンド大学でもなされている。同大学のヘンリク・ヨンテル(Henrik Jörntell)氏は、イタリアの聖アンナ高等師範学校バイオロボティクス研究所のカロジェロ・オッド(Calogero Oddo)氏と共同で人工の感覚機能付きの義指を開発。義指がどのような感覚を持つのかを探る一方、触覚のバーチャル体験時において、健康な脳内で神経がどう作用し、脳がどう情報を解析するのかに着目しつつ、アルツハイマー病や脳梗塞などの病気治療への応用を想定した研究を進めている。
脳神経系疾患には原因不明であるがゆえに、治療法が確立されていない病気も少なくない。人間の医師にとってほぼ不可能な脳神経系領域にロボットやAIなどの最新技術が介入することで、治療法に活路が見出されていくかもしれない。