世界的権威に聞く「ロボット×ディープラーニング最前線」

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少し補足する必要があるかもしれない。従来の産業用ロボットは、人間がその動きをこと細かくプログラムすることで稼働してきた。例えば、工場の生産ラインがあるとして、流れてくる部品や材料の形やスピードなど外部環境をすべて人間が一定に揃えた上で、さらに正確にモノを取り上げたり、吸い付けたりできるよう、1から10まで人間がロボットの動きを制御(プログラミング)していた。

また従来の産業用ロボットは、柔らかい、もしくは形が異なるモノを同時に扱うことがほぼほぼ不可能だった。人間のように、現場で柔軟かつ即時に状況を判断し、モノの性質によって対応すること困難だったのだ。そのため、自動車や家電など大規模な設備投資が行える大企業にとっては生産性を高めるツールになりえたが、ピッキングや仕分け、化粧品や食料品など、扱う対象の形が一定ではない産業では戦力足りえなかった。

しかし、ディープラーニングの登場は、そのような産業用ロボットの“常識”を覆そうとしている。産業用ロボットが視覚や触覚、力覚を持ち、より人間のような判断や柔軟な作業が可能になろうとしているのだ。もちろん、人間より力持ちであるというロボットのアドバンテージは変わることがない。加えて、極端な例を言えば、豆腐と大根が一緒に流れてくる生産ラインでも持ち上げたり、握る力をそれぞれ最適化したり、段ボールに雑然と詰め込まれた対象物を自律的に判断して仕訳けたりすることができるようになろうとしている。

しかも、ディープラーニングの最大の特徴は、環境のモデリングや認識システムのプログラミングを大幅に省略できること。データを大量に与えることで、ロボット(もしくは機械)自ら最適な判断の基準、もしくは動きを“生み出す”という特徴がある。

「産業用ロボット分野におけるディープラーニング研究は、これからまさに始まろうとしている段階です。しかし、その注目度は年々高まっています。先ほど申し上げたICRAの参加者はここ数年、約2000人で推移していました。しかし、2019年は2倍の4000人ほどまでにいたっています。そもそも、ロボット学会関連のカンファレンスは1000~2000人が参加したら『すごい!』とされていたのにもかかわらずです」(尾形氏)

同分野に参画する研究者が増えるにしたがい、論文数というアカデミアの視点でいえばロボット大国・日本の地位も変化を遂げ始めていると尾形氏は状況を説明する。

「2019年時点で日本の論文数は第7位となっています。ここ10~20年前までは、日米がツートップ。ここ数年でドイツが入ってきて三者三つ巴という感じでした。しかし、昨年頃から中国が台頭して2位に。今回、日本はスイスや英国にも抜かれて7位となってしまったのです。これは日本の研究力が落ちたという見方もできるのですが、私個人的には周囲の国の研究力が伸びたという認識。産業への応用という意味では日本にアドバンテージが残っている側面もあるのですが、とかくアカデミアの世界では地殻変動が起きているのが実情です」

河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。