AIサーバー世界トップ・Inspurの日本トップに聞く日本市場分析&進出戦略

ロボティア編集部2020年7月17日(金曜日)

シェア世界3位、中国国内トップのサーバーメーカー・浪潮集団(INSPUR、インスパーグループ)が、今年3月に満を持して日本に“上陸”した。主力製品として市場に投入するのは、中国国内でシェアトップを誇る「AIサーバー」だ。既成製品を圧倒する演算性能を誇るAIサーバーは「ミニスーパーコンピューター」とも呼ばれ、人工知能(AI)の社会実装や5G時代に欠かせない新たなデジタルインフラの礎となる可能性を秘めている。

世界有数のトップメーカーは、日本市場をどう捉えているのか。また、日本のAIサーバー事情とは。インスパー・ジャパンで代表を務める王遠耀(オウ・エンヨウ)氏に話を伺った。

※太字-インタビュアー

■新型コロナウィルスなどの影響もあり、人々がデジタルに触れる時間は相対的に増えています。また人工知能や5Gなど先端技術の社会実装のためにも、サーバーなどハードウェアおよびインフラの性能向上や拡充が急務という話もよく耳にします。そんななか、Inspurでは日本進出を本格化させるということですが、日本のサーバー需要をどう分析されているかからまずお話をお聞かせいただきたいと思います。

日本のマーケットはこの十数年間、横ばいで推移しています。台数でいうと45万~50万台くらいです。とはいえ、我々は今後、日本においてもAIサーバーなど、ハイスペックなサーバーの需要は高まっていくと考えています。

まず国内大手の富士通やNECなどメーカーは、自社でサーバーやシステムを開発・販売していますが、官公庁の受託など公共事業に参入している割合が高い。公共事業は国産品を使うことが決まっているという事情があるからです。

一方、民間企業で最も大きなユーザーは、検索エンジンを運営する会社、メッセンジャーサービスを運営する会社、ECサイトを運営する会社です。検索エンジンを運営する会社だけでも毎年、一万台以上のサーバーを導入します。機器の寿命による入れ替えの需要に加え、今年からは5Gネットワークに対応する新しいサーバーが必要とされると考えています。その次に続くユーザーは、オンラインゲームやウェブサービスを提供する大手ITゲーム開発及び配信する企業です。こちらの需要も、5G実用化ともに増えていくでしょう。

三番目のユーザーは動画配信・ストリーミング企業です。昨今、新型コロナウィルスの影響で需要が喚起されています。四番目は、ハイパフォーマンスコンピューティング、いわゆるスパコン(スーパーコンピューター)を必要とするユーザーです。例えば、自動運転システムを開発するトヨタやホンダなどの研究所では、シミュレーションのための最先端スーパーコンピューターの需要は増えていくでしょう。我々が強みを誇るAIサーバーのニーズも増えていくことはまず間違いありません。最後に、民間企業のファイルサーバーシステムの導入があります。こちらは現状、クラウド化が結構進んでいます。大規模なデータセンターを運営する企業からの受託など需要を見込んでいます。

■InspurのAIサーバーとはどのようなものなのでしょう。また、各国での導入状況や製品の強みなどあれば教えてください。

AIサーバーは、演算処理能力において既存のサーバーとは一線を画す新たなスペックの次世代サーバーです。つまるところ、ミニスーパーコンピューターと言っても差し支えない。ディープラーニングなど先端AI技術は、膨大なデータを扱い処理することではじめてパフォーマンスを発揮できます。同様に、現在注目されている最先端のデジタル技術の多くには高度な演算処理能力が必要とされますが、そこに最適化されたのがAIサーバーです。

中国ではAIサーバーシェアのうち、51%以上をInspur製が占めトップになっています。日本でも名の知れた大企業、ユニコーン企業などにも導入されています。アリババ50%、バイドゥ約50%、テンセントも去年まで約40%など、概ねどの会社もinspurの製品を使っています。まだまだシェアは伸びるでしょう。韓国では、NAVERやSK、カカオなど主要IT企業に導入されています。

我々は後発として日本に進出していますし、正直、まだまだ無名だと考えています。従来のサーバーのみであれば国内企業に勝つことは難しいと思います。しかしながら、AIサーバーに関しては、日本市場においても絶対的な強みがあると確信しています。まずInspurのAIサーバーは月間生産台数が数万台にのぼります。日本国内大手は月間まだ僅かの規模です。生産台数のスケールメリットは、AIサーバーの主要要素であるNVIDIAの最先端GPUなど部材調達にも有利に働きます。結果として、販売価格で弊社製品は他社の追随を許さないレベルにあります。

技術もさることながら、納期までのスピードも我々の強みです。我々のAIサーバーの納入期間は最短で1週間です。日本では実際に、今年4月末に大手ストリーミング会社に導入させてもらいましたが、スペックを決めてから6営業日で納品を完了しています。

■日本でAIサーバーを普及させていくことで考えらえるメリット、また課題などあればお聞かせください。

日本に低価格かつ高性能なAIサーバーが普及することで、AIを開発するベンチャー企業のエコシステムなどに寄与できると考えています。AI企業やスタートアップ企業のほとんどは、アイデアのある小さな企業です。補助金や投資が入る場合もあると思いますが、資金には限りがあるでしょう。中には、非常に洗練されたアイデアや技術を持っているのに、高性能なコンピューターを導入できない企業もあると思います。我々としては、販売だけでなく、外部パートナーと組んでレンタル業務なども行うことで、需要やユースケースをどんどん増やしていきたいと考えています。

一方で、日本は行政の規制が非常に厳しい。自動運転にしろ、フィンテックにしろ、まずAIそのものに対する理解や動きが遅いと感じることは少なくありません。それでも、データセンターなどを運営する企業が、AIクラウドなど次世代サービスに投資していこうという機運も生まれつつあります。AIや5Gに商機を見出しているIT企業も決して少なくありません。我々としては、そんな皆様のご期待に応えられる製品を市場に投入していきたいと考えています。

■たしかに、AIをはじめ最先端テックの利用動向が、AIサーバーなど新たなハードウェア・インフラの需要に直結しそうですね。本日はありがとございました。