世界的権威に聞く「ロボット×ディープラーニング最前線」

ディープラーニングを使って、ロボットの動きをより人間に近づけようとする尾形氏の成功的な研究事例はその他にもある。それぞれ形や状態が異なるタオルを畳む技術、サラダを盛り付ける技術がそれにあたる。通底しているのは、いずれもディープラーニングを使って、データを学習させさせれば環境モデルや制御などのプログラミングせずともロボットが勝手に動作を覚えて実行していくという点だ。

「産業用ロボットにディープラーニングを適用する研究が進み、私個人としは技術的に実用化も視野に入ってきている段階だと考えています。とはいえ、メーカーや企業の中で、ディープラーニングに対する姿勢は割れているというのが現状。その理由としては、そもそもディープラーニングなど機械学習が再現する動きの精度が100%ではないということ、またブラックボックスが生まれてしまうという特徴があります」(尾形氏)

ロボット大国という名称を冠する理由になった日本の産業用ロボットは、高品質、つまり限りなく100%に近い精度を発揮することを競争力のひとつとして、国際市場で支持を集めてきた。しかし、ディープラーニングは95%ほどの精度は担保できるものの、多くの場合、完全に100%にまでは至らないという性質がある。

そもそも、「教えられたことを忠実にやる技術」ではなく、「試行錯誤を繰り返して正解を学ぶがため、他のケースにも柔軟に対応できる技術」なのだ。前者と後者は本質的に異なる技術だが、現在の日本のロボットメーカーは、どちらかというと前者を徹底することで覇権を勝ち取ってきたという成功体験に支えられている。そのため、ディープラーニングについて懐疑的な関係者も少なくないという。もうひとつが、ブラックボックス問題だ。

「これまでの産業用ロボットのプログラムは、人間が考えうる限界のなかでつくられてきました。しかし、ディープラーニングはデータを集めてくるとアルゴリズムが生まれるという性質のもの。すなわち、人間の認知限界を超えた膨大なデータを学習して能力を発揮するということがメリットなのですが、一方で入力次元が数千、数万、数十万あり、数億、数十億というネットワークのなかでアウトプットが吐き出されます。その関係性を理解する手立ては、今のところ人間にはありません。そのため、何か機械やロボットに不具合があった際には、人間が理解できないブラックボックスになると困るという訳です」(尾形氏)

まず、精度の問題に関しては、「ロボットは必ずしも一度で成功する必要はないタスクも多い.数度やり直しをさせることで、精度を100%に近くするという考え方が重要」と尾形氏。
また「ブラックボックスの問題に関しては、ホワイトボックス化する技術の開発とともに、ブラックボックスであることを受け入れていくことも重要でないか」と説く。

河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。