米国の賃金労働者の賃金が、生産性の向上に比べて低評価される現象の背景に、「自動化による副作用」があるという研究結果が報告された。
同研究結果は、サンフランシスコ連邦準備銀行の経済学者・Sylvain Leduc氏、Zheng Liu氏の共同研究によるもので、賃金労働者の労働生産性が高まるのとは対照的に賃金引き上げが追いつかずにいる主な原因として、人工知能(AI)や産業用ロボットなど自動化の影響があると指摘している。
CBSニュースなど海外メディアは、従来の作業を人工知能など自動化技術が代替することで企業が賃金交渉において有利となり、労働者の生産性と賃金上昇のギャップがますます広がっていると、研究結果をベースに伝えている。
本来であれば、労働生産性が高まると賃金の引き上がり、結果的に生活の質が高まるというサイクルが起こると考えられているが、米国の労働分配率は2000年代から約7%ポイントも下落しているという。なお労働分配率とは、雇用者報酬を国民所得で割ったもので、生産活動によって得られた付加価値のうち労働者が受け取った割合を指す。
研究結果は、自動化に対する賃金労働者の心理的不安も、労働生産性と比例して賃金引き上げが実現しない理由に繋がっていると指摘する。賃上げ要求の結果、「仕事を失うかもしれない」という不安が頭をよぎり、引き上げ要求そのものを阻害しているという指摘だ。
研究者は、人工知能や産業用ロボットなど自動化設備のコストが過去に比べて安くなることで産業全般に広がっており、そのような環境においては、賃上げを要求すると解雇に繋がるという労働者の不安が高まり、生産性に見合った賃上げ要求を避ける傾向が現れていると指摘する。
自動化のコストダウンにより労働者の交渉意思が削がれる現象については、まだ新しい言葉として定義されていない。自動化が工場という舞台から飛び出し、社会全体に広がろうとしている現在、「自動化と人間の葛藤」、また「自動化によってもたらされた人間と人間の新たな葛藤」の命名=可視化が急務となりそうだ。
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