ドローン専門メディア運営者に聞く「2016年ビジネス最新動向」

ロボティア編集部2015年12月21日(月曜日)

 ドローンが普及しはじめ、ビジネスにおいても幅広く活用されようとしている昨今。しかし、実際の現状はあまり詳しく報じられていない。そこで、ロボティア編集部ではドローンビジネスを展開する企業に取材。今回はドローン用・データ管理クラウドサービス「DroneCloud」を展開するCLUE代表・阿部亮介氏に話を聞いた。なお、CLUEではドローン専門ニュースサイト「DRONE BORG」も運営している。最新ドローンビジネス事情も伺った。

-以下、インタビュー

―2015年、日本でもドローンの認知度が一気に高まってきました。CLUEでは、かなり早い段階から専門サイトを立ち上げたり、クラウドサービスを展開されたりと、活発に活動されていますが、そもそもどういうきっかけがあったのでしょうか。 

 起業したのは2014年8月だったのですが、当初は女性向けのファッションシェアリングサービスを展開していました。ある程度ユーザー数が伸び、本格的に資金調達を考えていたところ、ベンチャーキャピタリストの佐俣アンリ氏と出会いまして、その時の議論が大きなきっかけに。「もっとでっかいことをしよう」と声をかけてくださったアンリ氏に感銘を受け、今後世界で急拡大するドローン産業に事業転換することを決めました。 

 まずはじめにニュースサイトを立ち上げたのは、海外のドローン活用事例についての情報収集やビジネスモデルを検証したいという目的がありました。もともと、僕自身、学生時代は航空宇宙工学を専攻していたため、ある程度は技術的なバックエンドがあったのですが、ビジネスモデルについては何も分かりませんでした。そこで、海外のドローン関連スタートアップのビジネスモデルですとか、活用事例を勉強しようと考えたんです。

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Drone Borg キャプチャー画像

―私もDRONE BORGを見ながらドローンについて学ばせてもらっています。CLUEでは世界中の情報集めてらっしゃいますが、ドローンビジネスにおける日本と世界の差をどう分析されますか

 まずビジネスの大きな流れとして、今年2~3月の段階では、日本は世界から大きく取り残されていた状況だった思います。そもそも、ドローンそのものがあまり認知されていなかった。4月に起こった首相官邸墜落事故の後から、ようやく消費者の間に知られてきたという印象です。一方、欧米ではかなり早い段階から注目されはじめていて、ドローン関連の話題も豊富に取り上げられていましたし、多くの会社が事業化に至っていました。

 現在、機体を中心としたハードウェア面では中国、特に深セン地域が強みを見せています。一方、サービスレイヤーではヨーロッパ、ソフトウェアやクラウドではアメリカがそれぞれ強みを見せています。産業の優位性など得意分野の棲み分けはすでにはじまっていると思います。海外ではドローン関連スタートアップへの投資額が大幅に増加してきており、5~10年スパンで見ていけば、巨大な産業になると分析しています。

―CLUEでは11月9日にドローン用・データ管理クラウドサービス「DroneCloud」をリリースされています。数多あるドローンサービスのなかで、かなり的を絞ったものだと思うのですが、同サービスに踏み切った理由はどこにあったのでしょうか? 

 サービスをリリースする前、ニュースサイトを運営しながら、さまざまな事業を検討してきました。その中で、農業や建設など、個々の産業・業務に特化した事業も検討しました。そのような“縦掘り”の事業展開はニーズが捉えやすく、早期に収益化できる一方で、単体の産業に特化してしまうとどうしてもマーケットサイズが小さくなるという問題がありました。

 一方で、“横に展開”するプラットフォーマー的なプレイヤーはあまりおらず、アメリカ、しかもシリコンバレーに数社ある程度です。そこで、横軸を抑えられ、スケーラビリティが高い事業モデルはどのようなものなのかという観点で事業を検討しました。それで行き着いたのが今の商業利用に特化したモデルです。 

 これまで、商業用ドローンが大きく普及してこなかった理由としては、各国の法整備が十分に進んでいないことが要因として大きいと考えています。米国のFAAでもガイドラインが本格的に定まっていませんでしたし、ある程度、業務活用できていたのはドローン関連の法整備が早くから進んでいたカナダやヨーロッパなど限られた地域だけでした。それでも、今後、各国の法整備が進むのは確実です。

 今後、商業用ドローンが世界各地で普及し、巨大な産業に成長していくのは間違いないでしょう。そこで、ドローンを商業利用する様々な産業の方が利用できる、汎用的なプラットフォームを作ることを目指そうと考えました。

 DroneCloudはプラットフォームを構築するためのワンピースと位置づけています。あくまでも大きな事業構想の一部です。クラウド部分は長期的な競争優位性を担保するために極めて重要なため、しっかりと利便性を高めていく一方で、今後はハードウェアなどへのつなぎ込みも行っていきます。

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photo by sf.co.ua

―ニュースサイトもそうですが、DroneCloudも世界をかなり意識されたサービスだという印象です。阿部代表は、もともとシンガポールのベンチャー企業で勤務されたことあるそうですが、やはりグローバル市場を強く意識されているのでしょうか

 はい。現在展開しているドローンビジネスは、世界で勝てるサービスにしたいと思っています。DroneCloudもすでに英語版でサービスを開始しています。もともと、僕自身は日本で起業する以前、シンガポールのベンチャー企業で働いていました。当時、オフショア開発のマネージャーとして、東南アジアに駐在する機会にも恵まれました。

 シンガポールには多くのベンチャー企業があるのですが、シンガポール国内の人だけではなく、外国人がシンガポールに来て起業するということも珍しくありません。加えて、シンガポールは国内市場がそれほど大きくないため、それらのベンチャー企業は最初からアジア全域ですとか、グローバル市場を想定してサービスや製品を作るということが多かった。

 そのシンガポールでの経験を、今回のドローンビジネスにも活かしたいと考えています。グローバルで通用するプロダクトは、最初からグローバルを前提に設計がなされています。DroneCloudもそういったことが意識されて開発が行われています。

―シンガポールや東南アジアで仕事しながら印象深かった点は

 ベトナムで働いていた時、現地の若者が仕事をしている姿を見ながら感じたことがたくさんありました。正直、彼らは日本の人々に比べれば所得もそれほど高くないのですが、みんな楽しそうに働いているんです。

 日本の同世代の方々と比べると、そういう未来に対する希望とか、日々を楽しむというところに差があるような気がしました。将来に対しての期待値がとても高く、国自体が前向きとでも言えばよいでしょうか。

 当時は、僕自身も東南アジアで起業したいと考えていて、日本で起業するということにはこだわりをもっていませんでした。しかし、そういう姿を見ながら、日本のために経済貢献したいという気持ちになり、日本で起業する決心をしたんです。

Matternet
photo by Matternet HP

―これから先、ドローンビジネスはどのように発展、活用、もしくはカテゴライズされていくと思いますか

 国ごとの規制の状況や、資金調達の環境も異なるので一概には言えないのですが、個人的な意見としては、大きく3つの方向があるかと思っています。ひとつは、モノを配送する仕事、すなわち物流です。もうひとつは、測量などデータ収集。このふたつはすでにビジネスとして立ち上がってきている部分です。

 最後のひとつは、空中で作業するドローンの市場が伸びてくるのではないかと。ロボットが地上で行ってきた作業の領域が、空中に拡張されるイメージです。例えば、ロボットアームなどを装着したロボットが、電柱の補修作業を行うなどですかね。

 現在の世界市場におけるドローンビジネスのプレイヤー分布をみると、配送分野はハードウェア要素でコストメリットが効いてくる中国が強さを発揮してくると予想されます。一方で、ドローンが担う「ラストワンマイル」とも言える物流市場は非常に巨大なため、アメリカの「Matternet」や「Amazon」などもこのマーケットを狙っています。

 データ取得、処理に関してはアメリカやシリコンバレーなど、IT産業で力を培ってきた国や地域から大きなサービスがでてくるかと思います。というのも、それらの国や地域はデータ分析やクラウドの専門性を持った人材が多いのでアドバンテージがあります。

 データを収集、処理するソフトウェアは日本でも作っているのですが、アメリカの場合はクラウド上で使える戦略を取っています。ビジネス的なノウハウによるスケールメリットの追求、人材の豊富さなどを考えると、やはりアメリカが有利かなというのが個人的な意見です。

 一方、日本は従来、センサーやカメラ、もしくはアームなど精密機器が他国と比べて優位性を誇っています。これから先、ドローンが空中で作業するようなビジネスが立ち上がってくれば、日本も強みを発揮できるのではないかと考えています。

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photo by DroneDeploy

―ニュースメディアを運営しながら得た情報の中で、おすすめのドローンサービスはありますか

 正直、世界には奇をてらったドローンサービスはたくさんあります(笑)。個人的に気になっていて、今後、特定分野で独走しそうな企業としては、ドローンデプロイ(DroneDeploy)が挙げられます。同社は11月中旬からクラウド上でのデータ加工サービスを提供しています。

 そのデータ加工サービスでは、写真を数十枚撮影してアップロードすれば、3Dマッピングを無料で作れるとか、NDVI(正規化差植生指数)など植生分布、生育状況を解析できたりする。また、ソフトを買ってインストールするような商品ではなく、クラウドサービスなので、他の製品に比べて安価なのも魅力です。

 おそらく、画像解析、画像加工の領域ではトップランナーになっていくのは確実。アメリカ・シリコンバレーらしい王道の戦い方をしていて、製品のクオリティーも高いです。

―CLUEでは今後、どのようなビジネス展開を考えていますか?

 まずはクラウドやソフトウェアの領域で戦っていきます。将来的にはあるタイミングでハードウェアの部分にも携わっていく予定です。常に世界でどう戦っていくか、という視点でプロダクトをブラッシュアップしていきたいと思います。

 誰もやったことがない道を進もうと考えると不安でもありますが、同時にワクワクもします。今後も日本発のドローンビジネスを世界に展開するという意気込みでやっていきますので応援いただければ幸いです。

(取材・文 河 鐘基)