夢物語でロボットは作れない...日本の学会とロボット研究

河鐘基2016年1月9日(土曜日)

 国内および海外の大企業が相次いで進出しているロボット産業。欧米、アジアの主要国も、国家的かつ積極的な後押しを表明しており、今後、グローバル市場における覇権争いは混迷を極めることが予想される。そんななか、日本のロボット産業の現状はどうなのか。また、これから先の未来はどうなるのだろうか。その疑問に答えるため、ロボティア編集部では日本のロボット分野の専門家たちにインタビューを敢行。今回は、日本ロボット学会 事務局長・細田祐司氏に話を聞いた。

-以下、インタビュー

>>>(前編)ロボット大国・日本の学会と産業ロボット研究

パックボット
photo by NASA

日本の学会では現在、産業用以外のロボット研究は進んでいるのでしょうか?

 2011年の東日本大震災以降に注目され始めたのは、防災ロボットですね。さまざまな団体が結成され、開発も進みました。防災ロボットを構成する要素技術は、研究テーマとしは一時代前のものですが、実戦でいかに確実に使用できるかという点が問われています。

 分かりやすい例で言えば福島原発事故が挙げられます。事故発生当時、政府はアメリカの支援により、軍事ロボット「パックボット(PackBot)」を導入しました。パックボットは最先端技術というよりは比較的枯れた技術を使用した物です。ただ、掃除ロボット・ルンバを作っているirobot社が、軍事目的で湾岸戦争などに10年間近く投入していたため、製品として鍛え上げられ完成度が高かったのです。また、実戦で使いこなせるスキルを持つオペレーターもいました。

 一方、日本では大学などを中心に防災ロボットを作ってはいたのですが、市場がなく、製品設計ができていませんでした。つまり、実用化研究開発が遅れていたのです。いざ震災が起きた際には「全然役に立たない」、「日本のロボットは何やっているんだ」という厳しい批判があがりました。

 当時、大学側ではこのような批判を受け、社会に実際に役立つようなものを作ろうという動きがでてきたのです。ベンチャーなども立ち上がり、社会的にも防災ロボットがクローズアップされ、学会や国プロなどでも、新規の技術開発の話が進みました。ただし、ロボット開発とともに重要な、ロボットをどうやって使うか、また扱う人材をどう育てるかという点はなかなか進みませんでした。

 少し話が遡るのですが、1999年の東海村JCO臨界事故において、事故後、同年には補正予算で防災ロボットを作ろうという議論になりました。2000年に、約30億円の予算を投じて、防災ロボットを作りました。これと共に約300億円の予算を投じて、その防災ロボットを使う防災センターを運用する計画でした。しかし、原子力プラントン安全対策のためのロボット装備は不要との声があり、最終的には、ロボットを運用する組織はできないまま、開発された防災ロボットはお蔵入りになりました。

福島原発
photo by geek.com

 その後に震災が起き、「なんであの時に作ったロボットが使えないんだ」との非難があがりました。ですが、当時の日本にはその防災ロボットを使える人材がいなかったし、ロボット自体も現場を想定してブラッシュアップされていませんでした。

 さきほど申し上げましたが、米国の場合、陸軍や海軍が徹底的に使いこなしている上に、現場での使用の知見に基づき改良が重ねられていました。その結果、例えば、建物の2階から投げ落とされても、ミッションを遂行できるタフさを備えています。

 大学だけで作られたものは、当然、製品として磨かれていません。企業が技術移管を受け、現場で鍛えて、何回も作りなおさないと、使えるものになりません。加えて、いくら技術開発しても扱える人材がいなければ無用の長物です。

 そんな危機感もあり、私どもロボット学会の方でも震災後に経団連の産業技術懇談会(COCN)で、防災ロボットの運用に関する施策を提言し、政府に対して答申する活動を続けてきました。例えば、福島で防災ロボットセンターを作り、そこで定期的にロボットを買い取って、訓練し、同時に使いこなす人材をプールする。実用化研究を続けて、使えるものにしていくという政策です。そこに政府がしっかりと資金を投じて、ビジネスとして回す必要があると考えます。経済が回れば、ロボットメーカーも対応できる。それには対応する組織が必要ですし、規制緩和も重要な課題となります。

 また防災ロボットは、基本的に遠隔操作型であり、無線操縦は必須条件です。ところが、日本では電波法の現在の枠組みの制約で信頼性の高い無線操縦が出来ませんでした。一方、米国は軍事用途に無線を使え、電波の許容出力電力が一桁くらい違います。しかし、現在、総務省も動き出していて、ロボット運用に向けた共用無線周波数帯域の確保の議論が進んでいます。

 そのように、経済的、人的、法的インフラを整備しなければ、ロボットの実用性能が向上するといことはありえません。学問的な話とは少し距離があると思いますが、大学で良くある「こんなものを作ってみました」というレベルでは、世の中に出ないし、役に立たないのです。産業ロボット以外のロボットにとって、世の中で使える環境をどのように整えていくかという点は大きな課題だと思います。

エンジニアリング_学生
photo by today.uconn.edu

―大学のロボット研究・教育の環境について、少し掘り下げてお聞きしたいと思います。欧米や日本では、大学の教育や研究の方針に違いがあるのでしょうか?

 これは私の個人的な意見ですが、ロボット工学はサイエンスの側面よりエンジニアリングの側面をもっと重視すべきだと思います。サイエンスは真理をつきつめることを目的とします。つまり、新しい原理、真理を発見することが目的で新規性が重要視されます。一方、エンジニアリングは役に立つものを開発することを目的としなければならないと思います。

 欧州的な考え方では、エンジニアリングはサイエンスの下だという階層主義があるように見えます。欧州的な教育制度を導入した日本でも、明治政府の頃から研究者に対してそのような評価を続けています。現在も、大学工学系の評価をサイエンスの物差しで測っていますが、もう少しエンジニアリングとしての価値を評価すべきではないかと思います。

 どういうところで影響が出てくるのかというと、大学ではサイエンス的な切り口でないと論文が評価されない場合が多い。そのため、実用化重視のエンジニアリングの論文を書いたとしても評価されにくいので、研究者としてはおのずと敬遠する傾向にあります。

 学会に寄せられる論文には、例えば「現在、***ロボットが市場に要求されている」などというまえがきが書かれている一方、実際にはそれほど要求されていないものがあります。つまり、社会的な需要、目的は軽く考え、自分の研究の興味で論文が書かれていることがあります。もちろん、画期的なブレークスルーの出現ためには、サイエンス的な好奇心というのは非常に大事なのですが……。工学的な目的は、世の中の問題を解決し、人々の役に立つことであり、どのように作るかの前に、何を作るべきかを考えることが大事だと思います。

 まず、社会にどのような問題があり、そのための最良の解決方法は何か、評価、分析して、最終的にロボットでなければならないという結論に至ったときに初めて開発が成り立ちます。そうしてこそ、事業として成り立つロボットになるのではないでしょうか。

 そこまで具体的な見通しがあってこそ、仕様ができます。夢物語ではロボットは作れず、少しでも不確定要素があると、仕様書は書けません。当たり前の話なのですが、その点がおざなりにされると開発の方向性を間違えてしまいます。そのためにも、エンジニアリングを学会で正当に評価していく必要があるかと思います。

DARPAロボティックチャレンジ
DARPAロボティックチャレンジの風景 photo by industryweek

―海外メディアは、日本政府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)を好意的に報じています。その点については、どうご覧になりますか?

 非常に重要な試みで、従来の大学等の研究を集中的に加速する試みです。ImPACTの位置づけは、資金や人材を集約させて、革新的で、飛びぬけた物を創ろうというものです。プロジェクトマネージャーに権限を集中するなど、思考錯誤を進めていると聞いています。

 米国と比較するなら、DARPAがやっている研究プロジェクトが近いかと思います。こちらは、軍事予算がバックにあるので、認められれば数百億円単位の研究開発費がつく。NASAの宇宙開発も似たような傾向にあります。

 少し余談になりますが、米国の大学教授の評価の基準は何かというと、いかに企業からお金を集めて、プロジェクトマネージメントができるかだそうです。大学から供与される予算のみでやる考えはあまりなく、ベンチャービジネスに近い発想で研究を進めているようです。そうやって、数億円単位の研究資金を集めて、実用的なものを生み出すというのがアメリカ流です。学会でも、エンジニアリングとサイエンスが同等に扱われている印象があります。一方、ドイツの産学連携等政策の例を除けば、欧州ではまだサイエンスの位が高いのではないでしょうか。

 アメリカでは、技術の先端性に加え実用的価値が大学研究者の評価基準になっていると思えます。同時に、ベンチャーキャピタル、軍、企業などの出資者や、投資の目利きがいるという幸せな事情があります。 

―裏を返せば、日本でも産学連携を強化する必要があるとのご指摘だと思うのですが

 日本のロボット産業にとって産学連携は大きな課題です。これまで、アカデミア中心主義といいますか、研究者が想定するモチベーション、イマジネーションで終始し、ある意味、社会とは隔たりのある研究を続けてきた傾向があります。それらの研究成果はすぐに商品化することが難しいので、産の方も受け入れられないという悪循環が生まれていました。その乖離は、現在も大きいと思います。

 現在、ロボット学会では、双方が歩み寄るためには何をすべきか、実行的な施策としてどうするべきか、一生懸命模索している最中です。学会誌でも、企業の方に論文を書いてもらえるように、従来の基盤技術分野に加え、教育論文、システム開発、実証試験の分野を増やしました。

 システム開発や実証試験の分野はサイエンスに馴染まないというこれまでの評価を見直し、実際的な有用性を重視するといった体制の見直しを図っています。学術講演会でも、産業向けの技術講座、意見交換のためのフォーラムを催したりして、産側に対してどのような価値を提供すれば良いかということを常に考えています。大学側も研究資金が必要なので、産学連携のリエイゾンを作るなどのアプローチをしています。

 一方で、産側については、まだ学を信頼しきれていない部分があります。投資にしても、人材確保目的の域を出ていません。長期的な視点に立ち、大学の技術力を自分の製品開発戦略に取り込んでいくという発想が必要になってくると思います。

ロボットの夢
photo by vivelesrobots-education

―人工知能をはじめとするソフトウェアや情報産業の方はすでに、人材確保や企業の投資が目まぐるしいという報道があります。

 実際、情報(IT)産業の場合、海外企業が日本の大学の研究室に資金提供する話が増えています。ただし、ロボット分野とは状況が異なります。まず、情報産業においては、半導体などの性能が1.5から2年毎に倍になる、ムーアの法則などが有名で、産業全体を支えるデバイス技術が、指数関数的に発展するとされています。そのため、ビジネス全体がスピード命という発想になっています。このため、大学の優秀な若手人材を集めることで成果があがる構造になっています。

 一方で、ロボットの機械技術はそう劇的に発展しません。そのタイムラグが、ロボット産業と情報産業の教育、研究分野に対する投資スタンスの差になっていると思います。

―ロボットは総合技術であるとよく指摘されています。情報産業が得意とする人工知能も、ロボットの発展に欠かせません。今後、人工知能などを含めた技術は、社会にどのような影響を及ぼすと思われますか?

 人工知能の分野は数十年にわたり挫折と流行を重ね、昨今、新たな段階に入ったと思います。画像認識や検索システムの高度な技術は大きな発展を遂げており社会で有効に使われ始めています。その点については、専門家に話を聞くのがベストだと思います。

 科学技術には正と負の側面があり、個人的には人工知能についても気になる点がいくつかあります。まず、人工知能を搭載したロボットが世の中に普及すれば、バラ色の未来が待っているという意見があります。3K業種など単純労働はロボットがこなし、人間は創造的な仕事に就くことができる。つまり、人間を創造的な存在に昇華させるのがロボットの役目だというわけです。

 しかし、すべての人が創造的な仕事をしたいのかというと疑問です。創造的な仕事しない人は価値がないと言われる社会が到来することもありそうな気がします。ある作業を地道に淡々とやることが好きな人もいるでしょう。そのような人達が「そんなことやる必要ない、いつも斬新で創造的でいろ」と言われれば、幸福とは言えないと思います。

 また、創造力の発揮を求めるのは、ある一面では、効率化、利益の拡大を求める側の理屈のようにも思えます。人工知能の発展により生み出された価値を社会に再配分するシステムが構築されなければ、経済格差の拡大などの社会問題につながる可能性もあるかと思います

自動走行車 

最後に、産業ロボットや防災ロボット以外の分野について、開発・研究がどうように進んでいるか現状を教えてください。

 まず代表的な分野としては、自動走行が挙げられるかと思います。2020年位までに実用化を目指すということで、日本の自動車各社も一斉に動き出しています。カリフォルニアでは、州法で無人自動車を走らせることができるようになっています。一方、日本の場合は道路交通法を改正しなければなりません。現実的には、海外で実用化が始まり、その圧力で国内の法整備が動き出すのではないかと思います。自動走行の技術自体は、30年以上前から研究されてきた技術ですが、学会では実用化のためにどうすればよいかという議論に発展している状況です。

 医療用ロボットについては、ダヴィンチのような手術支援ロボットが、アメリカのベンチャーや、大学で盛んに研究が行われています。日本でも大企業を中心に開発が行われていたのですが、最終的に人が死亡した際のリスクが取れないということで断念したという経緯があります。そのため、同分野はビジネス的に米国に負けていると言えます。ただし、大学の研究は日本でも活発に行われています。マイクロマシーン技術、再生医療と関係した部分は非常に進歩しています。

 また、高齢化については二つの側面から議論がされています。一つは、年をとった人も働ける社会を作るべきであり、その支援手段としてロボットを使えないかというものです。すなわち、パワーアシスト、スキルアシスト、センシングアシストなどマンアシスト的な要素を持った技術を開発して、高齢者の社会参加を促すという方向です。

 二つ目として、働けなくなった人たちを支援するロボットの開発が進められています。こちらは、価値が生まれにくい分野ですので、企業主導のビジネスとして成立させるのは難しく、国が予算を組んで関与する必要があると思います。同様に、防災も国が支援をすべき分野に入ると思います。いずれにせよ、それらに必要な技術のベースは大学で研究が進められていますが、具体的な実用化施策とともに普及を前提とした研究開発をより促進する必要があるでしょう。

細田祐司

 細田祐司氏。日本ロボット学会事務局長。日本ロボット学会は学問領域の進展を目指し、研究発表と技術交流の場を専門家に提供することを目的に、1983年1月28日に創立されました。2014年12月現在、正会員、学生会員の数は約4,100名、賛助会員数は68団体となっています。

 事業の概要として、学術論文とロボットに関連する最新の状況の解説記事の特集を収録した「日本ロボット学会誌」、欧文誌 “Advanced Robotics”の発行、「日本ロボット学会学術講演会」、「ロボティクス・シンポジア」の主催,ロボティクスに関する新しい分野や基礎的な内容を対象としたセミナーなどの企画・開催、論文賞,実用化技術賞,研究奨励賞等の賞を設けることでロボットに関わる分野の学問・技術の奨励、そしてロボット関連の研究専門委員会の活動の支援を行っています。また、国内外の学会等と協力してシンポジウムなどの開催も行っています。IROS、RO-MAN等の国際会議もこれに含まれます。

河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。