ドローンの活用がいち早く進む韓国・釜山市、担当者に事情を聞く

ロボティア編集部2016年1月13日(水曜日)

 きたる1月28から30日にかけて、韓国最大級のドローン国際展示会「ドローンショーコリア2016(Drone Show Korea 2016)」が開催される釜山(プサン)。韓国第二の都市として名高い海洋都市では、昨年から市がドローンを導入し積極的な活用を始めている。

 なかでも注目を集めた活用事例のひとつが“海岸警備”だった。釜山市は韓国有数の海洋リゾート都市だ。夏になると、韓国全土や海外から観光客が押し寄せる。一方で、海と関連した事故も多く、市の職員たちはそこにドローン活用の活路を見出した。釜山市職員として「ドローンショーコリア2016」の運営に携わる基幹産業科主務官ホン・ギウォン氏は言う。

「観光には海雲台という有名な海水浴場があります。その付近では、海流が発生したり、岩場が多く人命事故も少なくありませんでした。その危険を監視するという目的でドローンを導入しています」

 釜山市がドローンを海岸警備に採用したのは2015年7月。が、その導入が提案されたのはわずか1か月前、6月のことだったという。ホン氏は続ける。

「ドローンを実際に使ってみようという計画は、昨年の6月に提出されました。もともと、釜山大学に航空宇宙工学科があり、そこでドローン研究・開発が進められていました。ただわたくしども市としては、『ただ作っても意味がないのではないか』という考えがあったのです。やはり現場で活用してこそ、開発にも拍車が進む。そこで、提案して導入という流れにいたりました」

 採用決定までの期間が1カ月という、そのフットワークの軽さには少し驚かされるのだが、さらに驚くべきはその活用の裾野がさらに広がっているという点だ。釜山市ではすでに山火事を監視する部署でもドローンを活用している。また、警察と消防でも取り入れる方針だそうだ。

「警察や消防の方の話は直接聞いてもらえると一番正確だと思うのですが、すでに活用を念頭においているようです。特に消防の方は火事が起こった際にドローンを飛ばして、現場の状況をいち早く確認するような用途で使うと聞いています。それ以外にも、活用の幅は徐々に広がっていく流れです。韓国では、釜山以外の自治体でもドローンに関する関心が高く、導入を進めようとしているところも少なくない」(ホン氏)

 なぜ釜山市ではドローン導入に積極的なのだろうか。実は、韓国の航空産業の地域分布を見ると、釜山近郊にある慶尚南道泗川市(晋州)が、その60~70%を占める。また、釜山自体も20%ほどを占めるといわれている。「大規模な事業者も多く、その航空産業密集地として基盤を利用すれば、ドローン産業に強みを活かせるのではないか」と、市の方では考えているそうだ。

「大韓航空のテックセンターが金海国際空港にあるのですが、そこでは飛行機を整備したり、無人航空機などを生産しています。敷地も広大で66万㎡くらいあります。それら強みをドローン産業にも活かしたい。また今後の釜山市の方向性としては、クラスター(集積団地)を作って産業を育成していく構想です。他の産業もそうですが、商圏や航空産業が集まらないとシナジー効果を発揮しにくいため、そのような方向を設定しています。ただ問題として、釜山は大都市ですのでクラスターを作る土地をどこに選定するかという問題があります。郊外では再開発などが進んでいる状況なのですが、ドローン産業自体が初期にあるので、そこにポジションを確保して入り込んでいくというのは難しい状況にある」(ホン氏)

釜山大学が作ったドローン
釜山大学が作ったドローン photo by 釜山大学

 導入を足早に進める釜山市においても、産業育成という段階になるとその未来像はまだはっきりと見えていないようだ。韓国にはそれ以外にもドローン活用のための課題がある。それは、日本や世界各国でも話題となっているドローン関連の法整備の側面だ。ドローン関連の規制案は2016年~2017年頃に定められる方向で準備中にあるという。釜山市では現状の法律の範疇でのみドローンを活用している。

「法整備は政府が整備する問題となりますが、現在の段階では規制が多いというのが正直なところ。高度150メートル以下しか飛ばせませんし、また機体が見える範囲でしか使用できません。その他にも、都心地での飛行や、ドローンから水を撒くなどのオペレーションもダメです。機体の重さも12kg以下とされています。現在、大韓航空などいくつかのモデル事業者が選定されており、今後、商業用に使用する際には認可を受けなければならない方向に向かうと思います。市としては現在、現行の法体系の中でのみ活用している状況です」(ホン氏)

 なお、韓国国土交通部は昨年10月29日、「ドローン活用新産業分野の安全性検証試験事業」の参加者を選定するための評価委員会を開催、その場での代表事業者を選定した。代表事業者はKT、大韓航空、現代ロジスティクス、CJ大韓通運、レンテックコミュニケーションズ、ソンウエンジニアリング、エスアイエス、エイアールワークス、ユーコンシステム、航空大産学協力団、江原情報文化振興院、慶北大学産学協力団、国立山林科学院、釜山大部品素材産学連携研究所、韓国国土情報公社など15団体だ。

 選出された事業者にはオペレーションの許可が与えられており、江原寧越郡寧越邑徳浦里、釜山市海雲台区中東、大邱市達城郡求智面、全羅南道高興郡高興邑姑蘇里の四か所でテスト飛行を行うことができる。

ドローンショーコリア
ドローンショーコリア2016ホームページ

「釜山で韓国最大のドローン国際展示会を開催するのも、ドローンを市を取り巻いた産業として育てていこうという文脈からです。釜山がドローン産業に力を入れていることをアピールして関心や企業を誘致したい。今年のドローン展が成功するかどうかは分かりませんが、盛り上がり次第で今後の方針も決めていきたいと思っています。なお、日本からは千葉大学の野波健蔵教授も招待させていただいています。日本ではドローン産業が韓国よりも進んでいると聞いていますが、釜山市も積極的にアピールしていきたいと思います」(ホン氏)

 ここからは筆者の個人的な意見となるが、日本企業と韓国企業がコラボして世界のビジネスを席巻した例は少なくない。ドローン産業においてもお互いの長所を利用し合えば、欧米や中国に勝つという未来も現実的になってくるのではないだろうか。

 グローバル市場で世界の空を飛びまわるであろうドローンとそのビジネスに、国境云々を言うのはもはや的はずれかもしれない。が、両国のドローン事情に触れていると、ついそんな未来を描きたくなる。

photo by rayhue.tistory.com