新たな金融ビジネスの台頭、「フィンテック」とその特徴とは

ロボティア編集部2016年1月22日(金曜日)

 2016年、金融市場の中心的なキーワードとして「フィンテック(Fintech)」という言葉がよく取り上げられている。フィンテックとは何か?

 Finance(金融)の「Fin」とTechnology(技術)の「Tech」の合成語で、「金融とITの結合」を意味する。ただ、言葉だけ聞いても、ピンとこない方が多いのではないだろうか。これまでの金融サービスにはITと結合しものはほとんどなかったので、イメージしづらいのは当然かもしれない。

 このフィンテックという言葉は「金融のインターネット・モバイル化」と言いなおせば、理解が楽になりそうだ。つまり、金融サービスをユーザーの“手の中”で受けられる技術やサービスの総称と理解すれば想像しやすい。

 ユーザー側から見たフィンテックのもっとも大きな特徴は、その「手軽さ」もしくは「使いやすさ」という言葉に集約されるかもしれない。ネットで買い物を済ます時代になったとは言え、使いにくかったり、何十分もかかって結局取引が成立せず、やきもきしたことがあるユーザも少なくないはず。フィンテックは、そんな消費者の利便性を向上させる技術である。

 フィンテックの元祖と呼ばれるのはペイパル(PayPal)だ。クレジットカードで本人認証アカウントを作成すれば、その後はアカウントに接続するだけで手軽に決済することができる。また仮想口座にお金を入れておけば、売り手はそこにお金を徴収しにいくので、個人情報も安全。

 現在、そのようなペイパルに対抗すべく、アリペイ(ALIPAY)、アップルペイ(Apple Pay)、アンドロイド・ペイ(Android Pay)、サムスンペイ(Samsung Pay)、カカオペイ(Kakao Pay)、LINEペイなど、全世界で決済サービスが鎬を削っている。

 フィンテックの第二の特徴は非対面仮想取引。つまり、相手と顔を合わせなくても取引ができるというものだ。非対面取引に慣れたユーザーや消費者が増えれば、金融会社はオフラインの店舗ではなく、モバイル金融サービスに比重を傾けざるをえなくなる。さらに手数料がからないインターネット銀行が増えれば、従来の銀行もデジタルバンク化が避けられなくなる。

 第三に、ユーザーや消費者の直接取引、すなわち個人間(P2P)取引が増加する。モバイルプラットフォームの性格上、いつでもどこでも資金と需要者がマッチングされるからだ。

フィンテック_レンディングクラブ
photo by Lending Club

 第四に、ユーザーや消費者が多くの金融情報を握ることになるので、金融商品やサービスの選択権が強くなる。つまり、金融会社に対する消費者側の主導権が強化される。

 世界の金融市場では、すでにフィンテックが大勢を占めている。シリコンバレーはもちろん、ニューヨーク・マンハッタン、イギリス・ロンドンでは、銀行や投資会社が先を争ってフィンテックメーカーに投資を行っている。ドイツ銀行(Deutsche bank)はすでに500社以上のフィンテック企業に投資したとしており、シティバンク(‎Citibank)も米国、欧州、アジアなどで有望なフィンテック企業を発掘するに努力を傾けている

 中国では電子商取引企業として知られていたアリババが、決済サービス「アリペイ」を活用して、ファンドひとつで約10兆円を集めたことが話題になっている。現在、アリババ、テンセント(Tencent)など、IT企業が銀行業に続々と進出している状況だ。

 また中国では、個人間の融資を仲介するP2P融資ブームが起きている。中国には、中国P2P融資会社が約3160社あり、貸付額は1カ月あたり約2兆円、年間で25兆円規模になるとも言われている。2014年に、話題となった世界ナンバーワン消費者金融サイト「レンディング・クラブ」を圧倒するほどの躍進ぶりである。

 これらのグローバル的な傾向は、新たな金融システムの到来を示唆するもので、既に世界的な金融会社の多くは、フィンテックつまり、金融のインターネット・モバイル化を通じてこの「新しい金融システム」に適応すべく準備していると考えられる。リテール(個人や中小企業を対象にした小口金融業務)から撤収・縮小している外国銀行が、フィンテックの技術を導入しデジタルバンクへと変貌を遂げ、改めて市場攻略を目指す日も遠くないかもしれない。

 フィンテックに対する消費者側の否定的な認識も徐々に軟化しつつある。特に、インターネット銀行や、クラウドファンディングへの期待は日毎に高まっている。というのも、今後、非対面取引や指紋、虹彩など生体認識技術が本格的に発展、普及し始めれば、ベンチャー企業や中小企業にも新たな資金調達手段が用意されるからだ。

 今後、金融機関が共同で利用するフィンテックプラットフォームが作られ、そこに集まったビッグデータ(巨大情報)を活用するようになれば、ロボットが資産を管理するロボアドバイザーや、新たな保険商品の開発にも転機が生まれると予想される。

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