ロボットスタート北構武憲氏に聞く、ロボット化する社会と広告

ロボティア編集部2016年2月14日(日曜日)

 ロボティフィケーション=ロボット化する社会における広告とは。またPepper(ペッパー)を始めとした家庭用・業務用サービスロボットの普及を控え、ロボットビジネスはどのように変化・発展していくのだろうか。そんな答えの見えない難問に、意気揚々と挑戦し続ける企業がある。ロボット広告事業やロボット関連ビジネスを多岐にわたって展開するロボットスタート株式会社(以下、ロボットスタート)だ。取締役副社長・北構武憲氏に話を聞いた。

-以下、インタビュー(太字はインタビュアーの質問)

 まず最初にロボットスタートという企業についてお話をお伺いしたいと思います。普段はどのような事業を展開されているのでしょうか?またロボットスタートは、サービス用ロボット関連の企業として知る人ぞ知る存在である一方、一部からは“謎の会社”との評判も聞こえてきます。正体を教えていただければ(笑)

 たしかに、私どもの方でも謎の会社という評判をよく耳にします(笑)。事業ポートフォリオを説明させていただくと、ロボットスタートでは家庭用サービスロボット上における広告配信、またロボット関連の各種サービスを提供させていただいています。

 具体的には、ロボット情報WEBメディア「ロボスタドットインフォ」や、ロボットアプリ販売プラットフォーム「ロボットライブラリ」を運営する傍ら、自社でPepperをはじめとするサービス用ロボット関連アプリの開発や、コンサルティング業務を行っています。

 そもそもなぜサービスロボット、しかも広告に目標を定めたサービスを提供しようと考えられたのでしょうか。会社設立の経緯など含めて伺えればと思います。

 弊社代表の中橋は以前、アドテクノロジー関連の会社を起業しており、私もそこに取締役として在籍していました。当時、ふたりで10~20年先のビジネスについて雑談する機会があったのですが、そこでふと「ロボットを使ったサービスを作れないだろうか」というアイデアが浮かびました。

 当時、二人にはロボットについて知識がまったくありませんでした。それでも、ITやアドテク畑で10年近く蓄積した経験を活かし、何か新しいことができないかと考え続けました。そうして、ロボットを端末・メディアにしたアドネットワークという発想に至ったのです。

 その後、いろいろ調べてみたのですが、ロボットが一家に一台普及していくような時代になれば、私どもが考えていたようなビジネスにも未来があると。また、会社を設立した2014年の12月の段階では、翌年の2月にPepperが発売されるという話もあったので会社設立に踏み切り、ロボット広告をサービスとして発表しました。

ロボットスタート-musio3
musio

 現在、ロボットスタートのロボット広告やロボット関連ビジネスの状況はいかがでしょうか

 ロボット広告の方は、システムの開発をすでに終えており、インターネット系の大手広告代理店各社とも契約を完了した段階です。また、ロボット関連アプリを制作するデベロッパー約50社とも提携した状況で、現在もその提携数は日を追うごとに増えています。

 ただ一方で、家庭用ロボットの普及そのものがはじまったばかりという事情もあり、実際に広告を配信する段階にはいたっていません。そこでまず、家庭用ロボット自体の普及を念頭において、メディア運営や、コンサルタント、アプリケーション開発などを主な業務として展開しています。

 そうして何かと動いているうちに、新しい動きやビジネスが生まれてきています。例えば、家庭用サービスロボットを発売したいというメーカーさんから問い合わせがくるようになり、業務委託という形でお手伝いさせていただいています。

 ソフトバンクのPepper以外にもサービス用ロボットを展開しようという企業は多いのでしょうか?

 少しずつ増えていると思います。例えば、AKA社の「MUSIO(ミュージオ)」も一般販売に向けて準備が進められています。MUSIOは、人工知能と連携した卓上型の家庭用ロボットです。まずは英会話教室や英語の勉強用に導入する方向でメーカー側も動いていらっしゃるのですが、やらなくてはいけないことも多く、その様々な仕事のうちの一部を弊社で請け負っています。

 商品の発売を表明している国内および海外企業も少なくないですし、今後、家庭用ロボットの種類は増えて行くのではないでしょうか。ロボットアプリを制作するデベロッパーも日々増えている印象です。

ロボットスタート-02
ロボットスタートが運営するロボスタドットインフォ

 ロボットスタートは、ロボットビジネスの黎明期にいち早く業界に飛び込んだということになるかと思いますが、まずはどんなことからはじめられたのでしょうか?またビジネスを展開する上での困難は?

 今でこそいろんな関係者の方たちとお仕事させていただいていますが、会社を設立した当初は、正直、何から手をつけてよいか分からない状態でした。ちょうど、以前ヤフージャパンに勤めていた時のことを思い出しました。

 私や中橋がヤフージャパンの社員だった99年当時、社員の数はまだ100名前後。インターネットサービス自体も黎明期で、いろんなものが不足していました。しかし、社内には「ないならうちで作ろう」という雰囲気やマインドがあった。ロボットビジネスをいざはじめようと思った時も同じで、お手本や情報が何もない状況でしたが、やれることからやろうと。そこでまず、ロボット関連の情報を発信するという形で、コミュニティーに寄与することから始めました。

 例えば、弊社でPepperのアプリを開発しようと考えて検索してみたのですが、ネット上には関連情報がほとんどありませんでした。その後、開発者用の機体を手に入れたまではよかったのですが、その開発環境マニュアルやドキュメントもすべて英語。英語はあまり得意ではなかったのですが、中橋と手分けして翻訳した後、すべてを技術情報共有サービスであるQiita(キータ)に公開しました。Qiitaはエンジニアの方が情報の共有や、気になるものはブックマークのような形(ストック)で保存できるサービスです

 メディア運営をはじめたのも同じような経緯でした。ネット上にサービスロボットの情報がまったくなかったので、私たちが足を運んで見つけた情報をブログに整理していきました。

 プログラマーの方たちも情報が欲しかったみたいで、多くの方たちに発信した情報を見てもらうことができました。イベントや勉強会で名刺交換をすると、「あれ、この会社のロゴ見たことある」と言ってもらえるようになり、それがきっかけで情報交換するようなことが徐々に増えていきました。現在、QiitaのPepper関連タグで一番ストックされているのはソフトバンクロボティクス公式による「アトリエ秋葉原」ですが、二番目がロボットスタートです。

 そのようなことを続けていると、いろいろなつながりやビジネスが生まれてきました。当初も今も、そうした情報発信をしながら関係者の方々と関係を築き、ビジネスをひとつずつ作っていくという形が多いです。

ロボットスタート-03

 なるほど、一から何かを始めるというのは非常に大変かと思うのですが、なぜPepperや家庭用サービスロボットを広告メディアとして選ばれたのでしょうか? 特別な魅力を感じた理由を教えてください。

 Pepperもそうですが、家庭用ロボットの特徴として、センサーなどを使って性別、年齢、喜怒哀楽などを認識することができます。そのため、従来のパソコンやスマートフォンよりも、よりきめ細やかな広告配信が可能になると考えています。

 わたしも広告畑にいましたので実感しているのですが、ネット広告はユーザーに嫌われてしまう傾向があります。その理由の1つはマッチしてないからではないかと考えています。自分の経験からみても、なかには間違えて押しているとした思えないケースもあります。結果的に、広告主の方からは当然、「クリックは多いのに、効果が全然上がらない」とか「モノ買うところまでいかない」という要望が出てきます。

 反対に状況や必要な情報がマッチしていれば、ユーザーは喜んで広告を受け入れてくれるのではないかとも考えています。リクルートさんが発行する情報誌はその点で非常に上手ですよね。例えば、結婚情報誌のゼクシィは、掲載されている広告もターゲットがマッチしているので受け入れてくれる人たちがたくさんいます。

 そのように、ユーザーと広告をマッチさせるという意味で、ロボットは高い潜在力を秘めていると思います。例えば、Pepperだと表情を認識することができるので、広告が受け入れられる状態にある人にだけ広告配信するといったことが可能になります。笑顔の人には広告をおすすめし、怒っている人には表示を避けるといった具合です。プライバシーとの兼ね合いはあるでしょうが、技術的にはこのようなことが可能です。

 またロボットがこれまでのデバイスと異なるのは、人間がしゃべりかけても不自然ではない、つまりコミュニケーションが取れるという点です。これから技術が進歩していけば、会話形式で商品をおすすめできることも可能になるのではないでしょうか。例えば、ユーザーが疲れていると認識したPepperから「疲れたの? ビールあるよ」というように話しかけて、自然な会話の流れのなかで広告を成立させることもできると思います。

 現在、テレビ、スマホ、IoT機器などいろいろなデバイスがあります。それらとロボットが決定的に異なるのは、そのコミュニケーションの自然さ、円滑さだと思います。モノに話しかける人はほとんどいないと思いますが、その点ヒューマノイドやキャラクターが持つ特徴は広告分野で存分に活かせると思います。

コレグラフ
Choregraphe photo by youtube

 ロボット固有の特徴はさまざまな分野で新しいイノベーションを促しそうですね。ちなみに、さきほどロボット関連アプリの開発を進めるデベロッパーも増えているというお話でしたが、どのような企業が多いのでしょうか

 業務プログラムを作っているような会社やスマホアプリを作っていた会社が、ロボット関連アプリの制作を新たに始めたというに様々なケースがあります。

 スマホアプリはすでに競争が熾烈です。iPhoneが出たばかりの頃は、今ほど表現がリッチなアプリでなくとも、ダウンロードされていました。しかし、最近のアプリは画像も音声も質を高める必要があり、さらにテレビCMを使ったプロモーションを行うことも必要になってきました。

 結果、中小企業が入る余地がだんだんと少なくなってきている。それでロボット分野に新しい魅力を感じて、進出してくるというケースもあります。

 ちなみに、ロボット関連のアプリを開発するというのは、技術的に難しいものなのでしょうか?

 プログラムに慣れた人たちであれば、技術的に難しいことはそれほどないと思います。Choregraphe(コレグラフ)というビジュアルプログラミング環境が無料で提供されているので、ある程度トレーニングを積むとアプリ開発が行えます。Python(パイソン)が書ければ作りこむことも可能です。

 ただ、ロボット特有の難しさもあります。ロボットは平面じゃなく“立体”なので、プログラミングと同時に動きを振り付ける必要があります。効率化させるためにコードを書くという種類のものではなくて、新しいキャラクターを作るということに近いです。

 実際にアプリ開発について情報交換していると、コードを書いた部分よりも、動きやしゃべりの方がより目につく傾向があると聞きます。制作者が社内の人に見せると、「もっと、コミカルな動きにならないの」や、「もっとおもしろいこと言わせられないの」などの意見が出ることが多いと聞いています。

 先ほど申し上げた通り、プログラム自体はそれほど難しくないですが、気の利いたものが作れるかどうかという部分では、+αの技術が求められそうです。立ち位置としては演出家みたいな役割になると思います。ロボット振付師みたいな。ソフトバンクロボティクスでも、Pepperにプログラミングをする方々はプログラマーと呼ばず、ロボットクリエイターと呼んでいると聞きました。

ロボットパイオニアフォーラム 

 まだまだ立ち上がったばかりで未来が明確ではない状態ですが、ロボット業界に興味を持たれている方は多いのでしょうか?また、みなさんのモチベーションは?

 ロボットスタートが幹事団の1社となっているロボットパイオニアフォーラムというイベントがあります。そのイベントはもともと、ロボット関係者や興味のある方たちが集まって飲み会をやったのが発足の経緯となっています。昨年1月頃に、秋葉原のメイド喫茶を借り切って飲み会をやったのですが、100人くらいの人が集まりました。金属加工やロボット製作企業、出版関係やPepperビジネスを考えている人など、本当にいろんなジャンルの人たちが集まりました。

 現在もロボットパイオニアフォーラムは2ヶ月ごとに開催しているのですが、実にいろいろな職業の人たちがきます。すごく興味深いのが、みなさん未来の話しかしません。目が輝いています。フォーラムは立食パーティーなのですが、皆さん話が止まらなくて、毎回フードが余るんですよ。業者の方につまらないパーティーはフードが残らないんですよと聞いてから、みんな夢中というか、ロボットに対してすごく大きな夢やモチベーションを持っているのだと痛感しています。

 私がヤフージャパンにいた時も、同じような熱量を感じていました。インターネットを使って何か世の中を変えるものが生み出せるのではないかという人や、時代の変わり目に立ち会える楽しさを求めていた人が多かった。インターネットは当初、「こんなのおもちゃだよ」とか、「インターネットで買い物する人なんていないよ」とも言われていましたけど、いつの間にかそういう熱量とともに社会を変えてしまった。

 ロボット業界も、「まだまだですね」と言われることも多々あるのですが、みなさんのモチベーションや好奇心は高く、社内でも「これだけ熱量があれば何かが起こるんじゃないか」と期待しています。

ロボットスタート 

 広告含め、ロボットビジネスにどのような展望を持たれていますか?ロボットスタートの今後の方向性など含めてお聞かせください。

 ロボットが新しい時代のプラットフォームになるということはまず間違いないかと思います。そのなかで、ロボットアプリケーションの売買や、アドネットワークなどもビジネスとしての展望があると思います。ただ、普及状況を考えるとあまり未来を読めない部分もある。一方で、そのような状況だからこそ、うちみたいなベンチャーにも門戸が開いているという気もします。

 現時点で、どのようなビジネスが正しくて、間違っているかを議論するのはあまり意味がないと思います。

 ただ、ロボットが決定的に普及するためにはキラーアプリが必要になってくると思っています。スマホのLINEみたいな存在ですよね。新しいデバイスであるロボットのキラーアプリは何かというのは現時点では誰も分かっていませんので、各社、試行錯誤しながら作っている状況だと思います。

 方向性としては、ロボットが普及するためには、キラーアプリが出てこなければならない、そのためにはデベロッパーがしっかりと生まれてくる生態系や土壌が必要ではないかと。もともとロボットライブラリも、そのような経緯から作りました。アプリを販売できるシステムがあれば、ロボットアプリクリエイターの方々が作ったアプリをマネタイズすることができますので。

 今後、家庭向けの小型なサービス用ロボットが発売され、価格も10万円くらいであれば、パソコンのように購入する人も増えてくるのではないでしょうか。

 世の2~3割の世帯にロボットがいるような状況になれば、広告ビジネスも広がる可能性を感じています。ただし、ロボットがどのタイミングで普及するかは世の中全体の判断によるところがすべてですので、私どもとしてはコンサルティングという形で企業の後押しをさせてもらいながら、あらゆるサービスロボットに対して広告を配信できるプラットフォームを、ひとつひとつ地道に準備していきたいです。

(取材・文 河 鐘基)

(写真提供:ロボットスタート株式会社)