食のIT&技術革命「フードテック(foodtech)」がやってくる

ロボティア編集部2016年5月23日(月曜日)

 「フードテック(foodtech)」という言葉が広く普及しつつある。これは、食品関連サービスと情報通信技術(ICT)が融合した新しい産業分野を指す言葉だ。昨今、そのフードテックは食料の生産から加工、そして食卓に並ぶ瞬間まで全過程の技術に取り入れつつある。

 なかでも、「分子調理法(分子ガストロノミー)」は、そのフードテックの代表的な事例のひとつとなる。

 食材を分子単位まで研究・分析することから名付けられたこの調理法では、食材の質感や調理過程を分析。粉砕したり、泡にすることで、味や香りを失わないまま調理を行う。調理器具としては、おなじみのものから最先端の技術を取り入れた機器まで利用する。

 分子調理法を使用して、思いがけない原料から肉類を作り出すこと可能だ。例えば、米スタンフォード大学生物学教授であるパトリック・ブラウン(Patrick O. Brown)氏が設立したインポッシブル・フーズ(impossiblefoods)社は、植物で肉や卵、チーズなど動物性の食品を再現している。同社はこれまでに、植物性の材料だけを使用し、見た目も感触も味も本物そっくりなハンバーガーを作り出した。

フードテック_インポッシブル・フーズ2
インポッシブル・フーズ社の食品 photo by impossiblefoods

 サンフランシスコのハンプトン・クリーク(hamptoncreek)社は、10あまりの植物を用いたマヨネーズ、卵、クッキーの生産を専門としており、カリフォルニア州のビヨンド・ミート(beyondmeat)社もまた、大豆製の骨なしチキンとビーフ・クランブルを販売している。

 さらに、オランダのマーストリヒト大学(Maastricht University)研究チームは、2013年に牛の筋肉組織の幹細胞を育て、米粒ほどの人工肉組織を数千個作り出した。そこへ白色の筋肉細胞である色素タンパク質を加えて人工肉を完成させた。

 こうした企業の多くは、「現在売られている食肉や乳製品を生産するための既存のシステムは、全く持続可能ではない」と警鐘を鳴らしている。つまり、彼らのフードテックの技術は、資源の過度な利用と環境への悪影響を減らすために開発されたことになる。実際、食肉生産量と消費量は2050年までに70~80%の増加することが見込まれている。それらを抑えるために、世界的に食肉の代替物の需要が急速に高まっている。

フード3Dプリンタ_ナチュラルマシーン
3Dプリンタで出力したサラダ photo by naturalmachines

 一方で、フードテックは、調理技術の面でも注目を集めている。英モーリー・ロボティクス(Moley Robotics)社は昨年、世界初の自動調理キッチン「ロボティック・キッチン」を開発した。同製品はキッチンの壁から調理を行う2本のロボットアームがのびており、ほかにも、シンク、レンジ、オーブンなど調理器具がセットになっている。

 操作はいたって簡単だ。タッチスクリーン、またはスマートフォンからレシピを選択して指定する。その後、所定の位置に材料や調味料をセットして、スタートボタンを押すだけ。するとロボットアームが自動的に料理をこなし、美味しい料理を作ってくれる。ロボットアームは一流シェフのテクニックや調理順序をすべて記憶しており、見た目はもちろん、味もそのままコピーして作り出すことができるのだという。もちろん料理だけでなく皿洗いや、後片付けも自動化されている。

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 同社はすでに調理可能な48個のレシピをホームページに公開しており、来年には一般向けの販売を目指している。

 現在、フードテックの技術のなかには、「3Dフードプリンター」を使い料理を再現するという流れも現れ始めている。当初、使用されていた食材は、チョコレートや砂糖など限定されていたが、現在ではかぼちゃのピューレやヨーグルト、パスタやパンなど、さまざまな料理も“プリント”し調理することが可能となっている。