垂直農場、食用昆虫、ロボットキッチン...フードテックと食の未来

ロボティア編集部2016年9月17日(土曜日)

 フードテック(Food Tech)とは、食品(Food)と技術(Technology)を掛け合わせた言葉で、食品の生産・保管・流通・販売など関連分野における最新テクノロジーや手法を指す。この言葉がカバーするのは、農産物の生産、食品供給、製造、および管理、食品・レストラン検索、注文と配達、消費、ソフトウェア、ハードウェアなど、食品産業に関連するあらゆるビジネス領域だ。

 フードテックという言葉はまた、バイオエネルギー(bioenergy)、バイオマテリアル(biomaterial)、機能性食品(alicament)、代替食品、農業と情報通信技術が融合した知能化された農場「スマートファーム」や、IoTとキッチンが融合した「スマートキッチン」など、食と関連した先端テクノロジー分野も包括する。

 世界的に見た時、ベンチャーキャピタルなどによるスタートアップへの投資規模は、前年比2014年78%、2015年44%増加しているが、そのなかでもフードテック関連のスタートアップへの投資は、それぞれ166%、92%とより高い増加幅を見せている。

 フードテックのなかでも特に注目を集めるのが、知能化された農法(smart agriculture)による、食材生産や代替食品の開発だ。食材生産のスマート化は、農産物の各種栽培情報と環境データを収集・分析して、効率的な農業経営を行うこと。一方、代替食品の開発は、新しい形の農法を開発し、既存の食品や原料を代替する新たな食品を開発することと言い換えることができる。

 その文脈で、農産物の栽培に必要な要素や過程を最適化・自動化し、生産性と効率性を高めるスマートファームへの投資と関心が高まりを見せている。これには具体的に、農産物の栽培施設の開閉、温度・湿度・二酸化炭素などの内・外部環境を各種センサーを使用して調整、スマート機器を通じてリモート制御するテクノロジーなどが含まれる。

 現在では、無人ヘリや農業用ドローン、無人トラクターとコンバインハーベスター(複式収穫機=穀物を収穫・脱穀・選別する農業機械)、除草・防除ロボットなどを活用した、スマートファームの完全自動化もテスト段階にある。

垂直農場_フードテック
photo by Vincent Callebaut Architects

 また、栽培空間の効率的利用、都心農業など新しい形の農業の在り方も模索されている。例えば、エアロファームス(AeroFarms)は、既存の農地スペースではなく、都心にあるマンションのような形態の「垂直農場(Vertical Farms)」を運営している。この垂直農場の生産性は、一般栽培の30倍、温室栽培の6倍高いとされる。一方、フレイトファームス(Freight Farms)は、古いコンテナをアップサイクリング(upcycling)し、太陽光ではなく、LED照明、センサー、水耕栽培などを活用して、レタス、ブロッコリー、ハーブなどを栽培する都心農業を実現した。

 2015年、米国ではそれら屋内農業(Indoor Agriculture)関連のスタートアップに合計7700万ドルが投資されている。ちなみに、前出のエアロファームスは、2000万ドル規模のシリーズB投資を誘致したそうだ。

 代替食品の開発はどのように進んでいるのか。現在、安全な食材を使用した健康維持、家畜の排泄物など環境汚染と飼育に伴うコスト増加、食糧不足などの問題を解決するために、代替食品の開発が進んでいる。

 昨今、代表的な代替食品として浮上しているのが、食用昆虫(edible insects)だ。現在、その数は1900種以上と推定されている。食用昆虫が注目を浴びる背景としてはまず、昆虫の栄養的価値が見直されつつあるという点がある。加えて、農場におけるコスト・二酸化炭素排出量の削減などにも寄与するという試算のためだ。

 ここ3〜4年の間に、米国では25上の食用昆虫関連スタートアップが生まれている。「Exo」、「Chapul」、「Six Foods」など「コオロギパウダー(cricket powder)」の販売量は、2014年に1万パウンドから、2015年には2.5万パウンドまで増加しているという。なお、それら食用昆虫は、消費者の拒否感を解消するために、粉末やクッキー、バー、油などの形で提供されており、Amazonなどオンラインショッピングで購入が可能だそうだ。

 また植物性原料を加工し、肉に見立てる技術も注目を集める。ハンバーガーのパティと人工チーズを開発したインポッシブル・フーズ(Impossible Foods)、牛肉・鶏肉の質感および味を大豆と野菜で再現したビヨンド・ミート(Beyond Meats)、「ソイレント(soylent)」など“完全栄養食”を開発するローザ・ラボ(Rosa Labs)などへの投資も続いている。

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 科学的レシピの考案、食品の安全性を検査するための機器開発、厨房の利便性向上のためのスマート化・ロボット化も進む。

 まず、科学的レシピの考案という側面で代表的なのは、分子ガストロノミー(molecular gastronomy)の勃興だ。これは、既存の食品の本来の味を守りつつ、最適な温度、溶解、吸収、浸透など化学作用を通じて、食材を新しい形態と質感に変化させる料理学となる。最近は、分子ガストロノミーとVR技術を組み合わせ、“低カロリー食品で豪華な食事を取った気にさせる”バーチャルダイエットプロジェクトも始まっている。

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photo by Project Nourished

 また食の安全への関心が高まりつつある昨今、食材を検査する機器も次々と開発されている。例えば、食品の傷み具合を測定する「スマート箸(Smart Chopsticks)」、食物菌の存在を測定する「インビジブル・センチネル(Invisible Sentinel)」、農薬、抗生物質など化学成分を測定する「オーガニック・フード・セフティー・チェッカー(Oragnic Food Safety Checker)」などがある。

 加えて、料理プロセスの効率を向上させる様々な機器の開発も進む。代表的なのは3Dプリンタだ。3Dプリンタ専門企業バイフロウ(byFlow)とフードインク(Food Ink)はすでに、3Dプリンタでつくられた料理のみを提供するレストランをオープンしている。また、バルセロナの高級レストランランであるラ・エノテカ(La Enoteca)でも3Dプリンタを使用した料理が一部提供されている。

 最近では、まな板、皿、電気ポット、食卓、冷蔵庫など調理用品にもインターネットが接続され、IoT化が進んでいる。人の代わりに調理を行うロボティク・キッチンも登場しはじめた。

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 フードテックの発展は、私たちの食の未来をどう変えるのか。願わくば、楽しくておいしい未来になることを祈るばかりだ。