【地方創生×空撮】ドローンエモーション田口厚代表インタビュー

河鐘基2016年6月8日(水曜日)

 日本でも徐々に増えつつあるドローンを使った空撮ビジネス。価格競争や撮影ジャンルの多様化が進むなか、地方創生×ドローン空撮という切り口で、ビジネスをしかけようという企業がある。ドローンエモーションだ。代表を務める田口厚氏に話を聞いた。

※以下、インタビュー(太字はインタビュアー)

―田口氏はドローン関連のメディアなどに積極的に寄稿、またスクールなどでも講師としてご活躍される傍ら、ドローン事業の立ち上げ支援などに従事されてきたと聞いております。5月にはドローンエモーションという会社を立ち上げられたということなのですが、設立の経緯をお聞かせいただけますか。

 ドローンエモーションは、ビジネスブレークスルー大学の教授で、IT企業の会長を務める大前創希氏と、スマホゲーム企業・コロプラ役員兼エンジェル投資家の千葉功太郎氏、株式会社クリエイティブホープの支援のもと設立されました。そもそも3人ともドローンに愉しみや魅力を感じており、ドローンビジネスの可能性や事業化を検討していました。そんな折、ドローン関連のイベントで互いを知る間柄になりまして。議論を重ねた末、実際にビジネスを展開することになりました。

―ドローンエモーションでは、どのようなビジネスを展開される計画なのでしょうか。

 ドローンエモーションとしては、主にふたつの方向からドローン事業を展開していきたいと考えています。まずひとつは、地方創生を活性化させるための、ドローン空撮サービスです。現在、日本を訪れる外国人観光客の数が増加傾向にあり、並行して日本のインバウンド需要も高まっています。そこで弊社としては、地元の有名な観光名所、また知る人ぞ知るスポットの魅力をドローン空撮動画で発信したり、まだ世間に知られていない“隠れた観光名所”の掘り起こしを行いたいと考えています。

 インバウンド需要が増えるなか、地方自治体の方でも地域振興に積極的に取り組もうとされています。ただ、地域を具体的にPRしていくという段階で、どのような形が望ましいのか悩んでらっしゃる担当者の方々が多い。そこでわたくしどもとしては、ドローン空撮サービスと、その活用方法を提案させてもらおうと考えています。

 現在の空撮ビジネスは、撮影したデータを納品して終了というケースがほとんどです。ですが、弊社としてはSNSで発信しやすい画質や尺、静止画などに整理して納品しつつ、SNSのアルゴリズムについて担当者に情報をお伝えしたり、運用マニュアルの制作アドバイスまでサービスとして提供したいと考えています。

 一方、ドローンを使った空撮や動画配信を自分たちで全てやりたいという自治体もあるかと思います。そのような需要に応えるために、“出張ドローン研修サービス”も用意しています。

 私の方でこれまで、JUIDA認定スクールの講師をさせていただいたり、広島でSEKIDOの講習を手伝ったり、DJI CAMPの中身を拝見させていただきました。様々なドローン教育コンテンツを見てきた経験から、現状のドローン教育に足りない点や、自治体で独自運用する際に必要な知識・ノウハウをまとめ、研修サービスとして提供したいと思います。具体的には、3日程度の集中講義&実技で、運用のマニュアル制作のサポートまでしようと構想中です。

 ドローンエモーションの事業におけるもうひとつの方向性としては、ドローン動画、つまりコンテンツを制作するオペレーターと、ユーザーを繋げる素材販売フィールドおよび、マッチングサービスを展開していきたいと考えています。

 ここ数年、ドローン関連の様々なイベントに参加させていただいたのですが、そこでプロシューマーレベルのオペレーターの方々と親交を深めさせてもらい、いろいろなお話を聞かせてもらうことができました。そこで知ったことのひとつに、ドローンのオペレーターの方々に定期的な仕事がないということがありました。ドローン空撮動画は非常に魅力的なコンテンツであるし、オペレーターの方たちの腕も確か。非常にもったいない気がしてならなかったのです。

 また、会社を設立する以前、空撮を発注する立場、つまりユーザーの立場になることもあったのですが、価格や撮影クオリティーもまちまちで、実際に完成品を見るまで結果がどうなるのか分からないという悩みがありました。

 ドローンエモーションとしては、同じような悩みを抱えたオペレーター、またユーザーの需要を満たせないかということで、素材販売やマッチングサービスを用意していくことにしました。

―観光PR用動画にドローンを使うという試みは以前からあったかと思うのですが、それを地方創生という文脈と結び付けるというのは、ビジネスとして非常に具体的だという印象です。もう少し、今後のプランについて詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか

 はい。地方創生、もしくはマッチングサービスにおいて、やはり肝となるのは空撮コンテンツの質や方向性だと考えています。ドローンエモーションでは、単に空撮したり、オペレーターを集めるというのではなく、日本の四季や歴史など一定のテーマを設定したうえで、ストーリーがある空撮コンテンツを制作、またマッチングするサービスを展開したいと考えています。

 日本の四季が美しいことは、すでに海外の方々に広く認知されています。加えて、最近では日本人も驚くような“日本の歴史好き”が、外国人の方のなかで増えてきています。一方、日本の美しい城の動画はすでにありますが、歴史という視点から魅力を伝える動画はほぼありません。

 例えばですが、青森県の弘前城は100年に一度の曳家(ひきや)による大修理の真っ最中です。通常、弘前城といえば、桜や天守閣、花筏(はないかだ)などの風景が有名です。単に美しい空撮動画を撮るとすれば、その風景をドローンで撮影すれば済みます。

 しかし、100年に一度という曳家による修理事業中の状態や、普段は見ることができない岩木山と天守閣が同一画角に入る風景は、歴史的な視点から見てとても貴重で魅力的です。

観光PR7段目
photo by ドローンエモーションHP

 現在の弘前城の天守閣は近代に復元されたものではなく、江戸時代に築城されたものです。天守にかぎらず、堀や石垣などの城郭も、ほぼ当時のもの。伝統によって守られてきた城跡なのです。

 弘前城を大切にし、シンボルとして未来に残そうとする弘前の人たちの想いや、歴史的価値を伝えることこそ、弘前という街や、そこに住む人の魅力を伝える最適な手段だと思うのです。実際、弘前市はこの修理事業を魅力として発信し、地元民や観光客で天守を引張る参加型の曳家や、天守と岩木山を見ることができる展望台の建設などにより、集客数を増やしています。日本を訪れたいと考えている外国人の方に、そのような歴史的な魅力が感じられるコンテンツを届けたい。現在、同じような考えをもった歴史家の先生とも協力して、コンテンツ制作を進めています。

 少し話を整理すると、日本の四季や歴史と絡めたインバウンド需要を、ドローン動画を使って喚起することがビジネスの大枠となります。クライアントは地方自治体で、年間通じて、地域に通わせてもらいながら情報発信に関わらせてもらいたいと考えています。また、ドローンエモーションを運営する中心メンバーはウェブ畑出身です。さきほど説明させてもらったように、SNS上での運用など、撮影した動画をいかに配信していくという側面までサポートさせてもらうというのが全体的な計画となります。

―石川県で撮影された動画を拝見させていただきました。日本の風景の美しさを垣間見ることができるようなコンテンツだったのですが、同様の動画はすでに多く撮影されているのでしょうか

手取峡谷_ドローンエモーション1

 はい。現在、多方面からお話をいただき制作を進めています。石川県のPR動画は、地元の代理店の方、そして東京の映像ディレクターの方とタッグを組んで撮影させてもらいました。動画に出てくる場所は、地元の代理店の方も知らなかったスポットで、チームで見つけて撮影させてもらいました。

 最近では、さきほど歴史のお話をさせていただきました弘前城も、弘前公園と国交省の許可を取って撮影させていただきました。

 また弘前城の付近には、禅林街という知る人ぞ知る地元のスポットがありました。歴史の先生からぜひ撮影するべきだと強く推薦されまして。最初はあまり乗り気ではなかったのですが、実際に撮影したらものすごく魅力的なんです(笑)。まっすぐな道の両脇に、33軒のお寺があり、街道の最終地点にも大きなお寺がある。禅林街は観光地としてはそれほどメジャーじゃないのですが、こんな場所があるのだなと、撮影しながら感慨にふけりました。こちらは、地元の警察に道路使用許可をいただいて、いわゆる車両の“迂回コントロール”もさせてもらいました。各担当部署に申請書や迂回路の計画を提出して、撮影時間は1~2時間となりました。

―撮影機体は何を使用されているのでしょうか?また、撮影時には複数台飛ばすこともあるのでしょうか?撮影時または撮影許可を得る上での注意点、現場での体験についてお聞かせいだけますか

 現在、主にDJIの「ファントムシリーズ」で撮影をさせていただいております。最近、発売された「ファントム4」も使っています。たまにファントムシリーズよりも一回り大きな「インスパイア1」を使うこともあるのですが、機体サイズによる機動力を考えるとファントムシリーズを使うことが多いですね。

 実際の撮影で複数台飛ばすこともあるのですが、3台以上になるとペアリングが上手くいかなくなったり、撮影に支障をきたすことが増えるので、なるべく避けるようにしています。

 やはり、ドローン空撮については許可をしっかり取るということが大事だと思います。未許可の撮影は、ドローンに対する世論の悪化を招きますし、私どももそこは徹底したいと考えています。

 そういえば、NHKで「真田丸」がはじまる前、上田城の撮影にも行ってきました。当時、事前にしっかりと許可を取って、お城を管理されている方の立ち会いのもと撮影を行いました。ただ、その撮影を見かけた方からの誤解で通報が行ったのでしょう。すぐに警察が来まして。長野県では善行寺の事件(ノエルと名乗る少年が善光寺にドローンを墜落させた事件)があったじゃないですか。それと関係しているのかもしれませんね...。ちなみに、真田信幸が江戸時代におさめていた松代城にも撮影に行ったのですが、そちらも警察の方が来られました。

―長野県の地元の方の反応は「善光寺コンプレックス」とでも名付ければよいのでしょうか。やはり、無謀な空撮や落下が世論や社会に与える影響というのは非常に大きいのかもしれません。当時、法律が整備されていなかったとはいえ、あのような事件がドローン空撮の市民権獲得の障害になっているという点は否めなそうですね。

 現在、テレビ局の方でも空撮動画を使いたいという需要が高まりつつあります。ただ、コンプライアンスの観点から、無許可の映像は使わないという方針を徹底させています。当然ですが、許可の申請をしっかり、また効率的に行うというのは、ドローン空撮ビジネスにとって必須でしょう。

 なお、しっかりと事業計画さえ提出すれば、基本的に許可はおります。窓口もいろいろありますが、スタンスは同じ。「史跡のアーカイブ化、観光PR動画制作など、有益なことに使う」ときっちりと説明して、手順や計画をお伝えするということを徹底させれば、それほど難しいことではありません。

―日本のドローンビジネスに対する提言、またドローンエモーションの今後の抱負についてお聞かせください。

 昨年、私の方でも、ドローン関連ビジネスを立ち上げるために多くの方と話し、情報収集させてもらいました。現場ではドローンに関する夢や希望は非常に多かった。対照的に、実際にビジネスを立ち上げるという前提に立った時、具体的に落とし込んだ話がなかなか見えないというのが私の印象でした。

 個人的には、そこをどうにか突き詰めてビジネスとして実現したかった。ちょうど、現在の設立メンバーたちとの交流もはじまったのですが、動画にはストーリーが必要だ!という点で一致しました。そこからアイデアを練り上げて、地方創生に寄与する観光客誘致など、大きなストーリーにドローン活用しようという目標を定め、ビジネスとして動き出すことにしました。

 今後は地域の魅力を詰め込んだ動画のメッセージを、どれだけ多くの人に広げることができるかという、本来の目的を意識して、コンテンツの質を上げていきたいと思います。ドローン空撮動画の多くは、「キレイ」とか「スゴイ」に終始している感が...。そこにとどまらず、空撮動画による地域の魅力拡散や、観光客誘致のノウハウを実証実験を通して蓄積していきたいです。現在、福岡県にある東峰村と実証実験を進めることが決定済みです。また、編集まですべて含んだクオリティーの高いソリューションを提供したいと考えています。

 同時進行で、ドローン空撮オペレーター自体のレベルがあがるような、競争の要素を盛り込んだ素材販売フィールドを作っていきたいとも考えています。つまり、国や自治体の安全基準をしっかり守った動画を、ユーザーが視聴・評価、かつ購入でき、評価が高いオペレーターに発注がくるような仕組みづくりです。

 個人的にはドローン動画を見せた時に、感動してもらえることがすごくうれしかったという原体験があります。ドローンエモーションという社名にも「ドローンが生み出す感動を提案する」というテーマが込められています。今後、ビジネスをさらに具体化してくことで、日本のドローン産業の活性化に資するこというのが、わたしどもの大きな目標です。

河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。