ダニエラ・ラス所長が自動走行車の現在と未来を語る

ロボティア編集部2015年9月20日(日曜日)

無人自動車走行、ロボット開発の権威ダニエラ・ラス所長(Daniela Rus)が、外国メディアのインタビュー取材に答えた。韓国メディア「Chosun Biz」主催の「スマートクラウドショー」に出席するため訪韓した彼女は16日午後、ソウルで無人自動車の現在の未来についてメディアに話した。

無人自動車の未来が語られ久しい。日本また世界中の企業が本格的に研究開発に乗り出そうとしている。自動車業界が、最終的に目標とする無人自動車とはどういうものか。例えば、人間が呼べば自動で送迎可能で、自宅の冷蔵庫と情報をやりとりしながら帰り道に購入しなければならない食材、生活必需品などのリストを教えてくれる。乗車している人間を無事に目的地まで連れて行くのは当たり前で、人間に電子メールを読んだり、スケジュールを教えてくれる。自動車の中の人間は、走行中に安心して昼寝をすることができる。自動車が、人間の足の「延長」ではなく、自から考え走る「ロボット」になるのだ。そのため、無人自動車の研究の最終地点は、「ロボット」研究の分野に通じることになる。

米マサチューセッツ工科大学(MIT)のコンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL)のダニエラ・ラス所長は、世界最高のロボット専門家だ。昨年のダボス会議で、「ロボットの時代」というテーマで講演をした。彼女はまた世界最高の無人自動車専門家でもある。

ラス所長はCSAIL史上初の女性所長である。53年の歴史を持つCSAILは、ソフトウェアを共有する「オープンソース」という概念を初めて発明した。米国立科学財団(NSF)が若く優秀な科学者に授賞する「キャリアアワード」の受賞者でもあるラス所長は最近、日本のトヨタの人工知能ベースの自動車開発プロジェクトにも参加している。

ラス所長は「既に私たちは無人自動車の時代に突入した」と話す。無人自動車に必要なレーダー、センサー、カメラ、人工知能など30種類以上の技術はすでに、数十年前から開発が進んでいるものであり、現在ではこれらの技術を、自動車というひとつの枠に入れ込んで行く段階にあるという。最近発売された自動車に搭載されている「緊急時の自動ブレーキ装置」「走行時車間距離維持装置」などは、無人自動車技術の一部である。

CSAIL
米マサチューセッツ工科大学コンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL)

現在のロボットおよび無人自動車技術開発の段階はどのレベルにあるのでしょうか

ロボットというものは、TVに出てくるような人間の形をした特異なものだけを指すものではありません。私たちは、生活の中ですでにロボットを接しています。最近登場したロボット掃除機もそのひとつです。日本で流行しているペットロボットもそう。私たちが気付かないうちに、ロボットはすでに生活の中に入ってきており、その活動領域を広げています

無人自動車も同様です。無人自動車そのものを見れば、開発は初期段階です。米国運輸保安局は、無人自動車の発展段階を4段階に分けていますが、現在はまだ運転者がセンサーの助けをかりて運転するという第一段階にある。ただし、最終的な4段階目に至るための数十種類の技術は、すでに開発されています。これから必要なのは、緊急事態に対処できる人工知能および、より正確な地図などです。現在は、いくつかの技術を“融合”する段階。 10年前には、無人自動車を想像するの自体が困難だった。しかし、現在ではテスラや日産などの自動車企業も、2020年には無人自動車の商用化が可能だと断言しています。業界でそう言い切るくらいですので、すでに無人自動車時代に入ったと見ても差し支えないでしょう。

その言葉が正しければ、無人自動車と似たようなロボットもすぐに一般に普及するということでしょうか?

1963年に、CSAILが研究を開始した時には、ただ一台のコンピュータがそこにありました。パーソナルコンピュータが普及するなんて、夢のような話だったのです。当時の研究者たちの目標はひとつでした。そのコンピュータを、誰もが共有すること。当時「オープンソース」という概念を作り出したのも、そういう動機からです。 しかし、今では一人が一台のコンピュータを持つ時代からさらに進んで、携帯電話がコンピュータ化する時代がきました。すでにコンピュータの役割をする機器が、携帯電話、タブレット、ノートPCなど、1人当たり3〜4つにもなります。

現在はロボットの技術開発だけでなく、ロボットが行うことができる役割を増やすことに集中しています。例えば、ペットの猫と遊んでくれる「おもちゃのロボット」のようなものです。また、最近開発されたチェスロボットは、まだ100%ではないですが、ほぼ自動
で判断して即座に対応する能力がある。そのようなスピードで開発や商業化が進めば、“1人1ロボットの時代”はそう遠くないはずです。

洗濯機の歴史
photo by duquesnehunky.com

ロボットの発展や無人自動車は、人類の生活をどのように変えていくのでしょうか

人類の最大の発明の一つは何だと思いますか?わたしは「洗濯機」だと思います。洗濯機の発明で、女性は洗濯する時間から解放され、その時間を自己啓発に充てることが可能になりました。私も洗濯機が洗濯をしてくれる間に、本を読んで研究をしています。
私たちがやらなければならないことの中で、単純で意味のない労働をロボットが代わりにこなしてくれると考えてみましょう。その時間内に、私たちは多くのことを行うことができるでしょう。

無人自動車も同様です。現在、アメリカ人は1年に合計470億時間を運転するために使用しています。その時間に運転をせず、別の何かをすると考えてみてください。時間を稼ぐということは、非常に大きな「革命」です。無人自動車が開発されれば居眠り運転という言葉も消えるでしょう。自動車がコンピュータのように、様々なデータを集めて、交通渋滞を避けることができれば、燃料や時間を節約することにもつながる。

経済的な観点からもメリットは大きい。世界では5秒ごとに交通事故が発生していますが、その事故の95%が人間の動作ミスによるものです。また交通事故で、毎年124万人が命を失っている。これによる経済的な被害は、年間2770億ドル(約33兆円)です。交通事故は、世界8位の死亡原因であり、高血圧、心臓病よりもそのリスクは高い。無人自動車の開発は、人類の生存に心臓病の特効薬を開発したことよりも、その効能を発揮するわけです。

現在の無人自動車開発がぶつかっている技術的な制約は何ですか

自動車がセンサーやカメラに依存することから抜け出し、より状況を的確に判断することができる「人工知能技術」の開発を進めることです。現在、自律走行技術は車線を守って走る点に関しては精度が高い。しかし、大雪で車線が見えない場合はどうでしょうか。また工事中で障害物が車線を防ぎ、横に行けという指示が出ている場合もあるでしょう。その状況では、既存のレーダーやセンサー、カメラだけでは移動することができません。状況を把握できる人工知能技術が必要になるのです。

ロボットも同様です。私たちは好きな形のロボットを一通りすべて作成することができる技術があります。問題はそのロボットの活用度を高めること。すなわち、プログラムやソフトウェアを開発することでしょう。コンピュータが開発された後に、数多くのプログラムが開発され普及につながりました。今後は、ロボットがそうなるでしょう。

トヨタ自動運転
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トヨタの人工知能自動車開発に参加したのも、そのような意図からでしょうか

(トヨタは9月初め、今後5年間で5000万ドル(約60億円)を投資し、MITとスタンフォード大学に、ロボット協力研究センターを設立すると発表した。センターの一次的な目標は、人工知能技術をスマートカーと家庭用ロボット技術に融合することである。 MIT側の協力パートナーがラス所長だ)

無人自動車の概念には2つがあります。まず、車が自動で動く「直列開発」と人間が運転する過程に自動車システムが介入する「並列開発」です。後者は、例えば事故が起きようとする際に自動で速度が低減することなど。今、Googleや他の自動車業界が進行する方向は、「並列開発」です。しかし、トヨタは「直列開発」に焦点を当てています。車が自律的に動いて、人間と協力する。そのような自動車に必ず必要なものが人工知能技術です。

技術の発展よりも、人間の恐怖を克服すること、そして法規・保険などの問題を解決することが必要になると思われますが

もちろん、そうでしょう。ただ、恐怖は無知から発生するもの。無人自動車を経験したことがなければ、漠然とした恐怖があるのだと思います。私たちの研究チームが最近、シンガポールにある大学のキャンパス内で無人自動車の実験をしました。学生は当初、キャンパス内を動き回る無人自動車を恐れていましたが、一ヶ月が過ぎるとほとんど「楽で興味深い」と答えるようになりました。

すべての技術の導入初期の段階では、恐怖が伴います。しかし、それはいつか日常生活に変化する。法規も同様です。現在、ほとんどの国では、無人自動車は違法です。米国でも5つの州でのみ試験走行が可能です。実際に無人自動車の時代になるために最も重要な課題のひとつは立法化です。しかし、歴史的に見たときには、まず技術の発展が先にあり、これに対して社会が適応しながら、技術の使用方法に関する規則が設けられます。

16日、現代自動車の前役員が、Google自律走行車チームに移籍しています。現在、無人自動車の開発で最も進んでいる企業はGoogleです。無人自動車時代の到来は、自動車業界とIT業界の区分が消えることを意味するのではないでしょうか。

当然、その境界線は消えていくでしょう。しかしそれは、両方の業界にとってともにチャンスになることを意味します。わずか数年前までは、携帯電話業界とカメラ業界は区別されていました。しかし現在、人々が最も多く写真を撮るツールは携帯電話です。写真は、フィルムからデジタルに移行し、現在は携帯電話の中に取り込まれました。

これから自動車は、単に走る道具ではなく、ひとつの「IT機械」、さらに進んでロボットになります。これは、他の家電製品も同じです。すでに掃除するロボットが登場していますよね。今後、冷蔵庫も、食器洗浄機もすべてロボットになります。そして、彼ら互いにコミュニケーションを取るようになります。自動車が冷蔵庫に必要なものがないか尋ね、中身を確認する時代がくるのですが。そういう時代に備えるために、自動車業界の経営者はコンピュータ技術についてもっと知るべきで、逆にIT企業の経営者は、ハードウェアを作る製造業について知る必要がある。そうでなければ、携帯電話業界がカメラ業界を飲み込んでしまったように、自動車もしくはITのいずれかのみ生き残るようになるでしょう。

UBER

無人自動車の開発に影響を与えるのは、ふたつの業界だけでしょうか

おそらくそうではないでしょう。無人自動車の時代の到来は、巨大な「インフラ」が変化することを意味します。必要なときに、スマートフォンで車を呼ぶようになれば、公共の交通体系が変わる必要があるでしょう。現在のタクシー、バス、電車などのシステムも変化していくはずです。

現在はまだ主流ではない、ウーバー(UBER)のような車両共有システムが、主流になる時代が来るかもしれません。無人自動車の時代に強調されている概念は、「モビリティオンデマンド(mobility on demand)」。すなわち要求するように動く移動ツールということです。このような状況では、車両を共有することで迅速に対応することができます。

技術の進歩は、高齢化時代の生活の質を変えることにもつながります。先ごろ訪問したシンガポールの村は、高齢者が多かった。高齢者の方々は、隣家の方と会話もしたいし、病院も行かなければならないし、また買い物にもいく必要もありますが、現在は不便が多い。そこに無人自動車が導入されたと考えて見てください。必要なときに車を呼んで、行きたいところに行くことができる。さらに、そのような村はほとんど郊外にあるので、交通量が少なく、無人自動車を走らせるにも最適な場所です。

ロボット時代の到来は人々の仕事の喪失を意味するという意見があります。無人自動車時代が来たら、タクシー運転手の仕事がなくなるのではないでしょうか

仕事が消えるということはありません。それは、“変わる”のだと思います。人類の職業は常に変化してきました。技術の発達により変化しない仕事というのはありません。その場合、人は技術の変化に対応して、自分の仕事を自らアップグレードする必要があります。

タクシー運転手を例に挙げてみましょう。彼らが自分の仕事を「運転すること」に限定すれば、その仕事は消えます。しかし、そこから一歩踏み出し「ガイド」の役割をアップグレードすれば、人間の運転手の需要が消えることはないでしょう。これからの未来は、うんざりするような仕事をロボットがこなし、より創造的な仕事を人間が担当することになると思います。