【シリーズ日の丸ロボットは今】①オムロン複合型サービスロボットToritoss開発ストーリー(後編)

ロボティア編集部2022年12月2日(金曜日)

本連載は「【シリーズ日の丸ロボットは今】①オムロン複合型サービスロボットToritoss開発ストーリー(中編)」の続きです。(写真:オムロン ソーシアルソリューションズ株式会社の事業開発統括本部の猪尾和大氏)

Toritossのデビュー戦

弊誌:Toritossが実証実験をされる前の年の、2020年の1月からコロナ感染症が世界的な問題へと波及して行きますね。

猪尾:ええ。まさにそのタイミングでToritossを世に問う事が出来ました。Toritossは「労働力不足問題に着目して開発」を前面に出し、ビル業界、小売業界などで、人の作業をロボットに置き換えるソリューションとして登場したんですね。2030年までに600万人不足するといわれている労働力を、サービスロボットで置換えていきましょう、という社会課題の解決策として、世に訴えたわけです。

ところが2020年の1月から中国武漢初で新型コロナの問題が始まり、春頃には日本でも大きな問題となりました。感染症対策としての「非接触」が価値を持つようになり、Toritossは将来の労働力不足解消というテーマを超えた、より現代的な価値を提供できるロボットとして注目されました。

結果として2021年以降、鉄道駅、空港、オフィスビル、ショッピングモールなどからお声がけを頂き、Toritossを導入頂く事になりました。今ではさらに大手百貨店、国際会議場、ミュージアム、病院からも多数のお問い合わせを頂き、実証実験プロジェクトが進んでいるところです。

Toritossの強みについて

弊誌:同時期に国内外の多くのロボット会社が市場参入しました。Toritossにとっても競争が激しくなっていると思うのですが、Toritossは多くの導入実績を作る事が出来たという事ですね。Toritossは他社と比べて何が違ったのでしょうか。

猪尾:大きく3つあると考えております。

まず最初に「複合型サービスロボット」というコンセプトが特徴的だったと思います。案内ロボットも、警備ロボットも、掃除ロボットも世の中にあるはあるのですが、それらの機能を全てインテグレートしているロボットというのは珍しいと思います。

掃除ロボットというものは、よほど大きな施設でない限りは、数時間で清掃が終わった後は、その日は特に使い道がなく、バックヤードに保管される事になるわけです。ところがToritossであれば、すぐに案内モードに切り替えて店内を走らせる事が出来、さらに夜の時間には巡回警備に使う事ができます。実際「掃除しながら万引防止もできるロボット」というと、大変驚かれる事が多いですね。

次に日本企業としてのオムロンが持つ体制的なアドバンテージがあります。現在、日本市場でプレゼンスのあるサービスロボットは海外製造・海外資本のものが多いのですが、Toritossは開発、製造、技術サービスを全て滋賀県のオムロン工場での対応が可能です。これにより販売網や保守体制もオムロンが長年日本で培って来た既存の資源が活用できる為、日本のお客さんから見ると、迅速かつ安心感の高いサービスを提供できる事は大きいと思います。

最後にオムロンの特徴である「走りながら考える」開発スタイルもサービスロボットに適しているのだと思います。Toritossは月額課金型のビジネスモデルで、ロボットをお客さんに買い取って頂くモデルではありません。これは市場の声を細かく拾っては、日進月歩で商品をアップデートしていきたい、というオムロンの開発スタイルから考え出されたビジネスモデルです。

私達はお客様のニーズや不満に細かく対応し、それを受けてソフトウェアやハードウェアをリアルタイムで改善していく事を好みます。先月より今月のほうが、今日よりも明日のほうが、Toritossで実現できる事が多くなり、Toritossが使いやすくなっている。そのような価値を世の中に提供していきたいと考えています。いわばお客さんと一緒に次世代モデルを開発していくスタイルですね。

事業としてのToritoss、これからのToritoss

弊誌:Toritossは市場の声を吸収しながら、現在進行系で成長していく商品なのですね。最後にサービスロボット事業の展望と、これからのToritossの方向性について、お聞かせ下さい。

猪尾:たとえば、こちらにあるのはロボットの清掃機能で使うユニット(上写真参照)ですが、このユニットは掃除ロボットの吸引ブラシ部です。そしてこの部分は取り外して、改造が可能なんですね。Toritossは除塵型清掃ロボットですが、このユニットをうまく改造する事で、水拭き掃除や乾拭き掃除など、新たな機能を追加していくプロジェクトに、今は取り組んでいます。これも現場のお客様の声にしっかりと向き合っていく中から生まれて来たニーズですね。

さらにはエレベーターや自動ドアと連携してのサービスも準備していますし、その後には清掃・案内・警備を超えた全く新しいサービスなどに発展していく可能性を秘めています。Toritossの未来については、実は我々開発に携わる人間たちもどうなるか分からないのです。なぜならToritoss自体が、市場とコミュニケートしながら変異していく余地を秘めたプラットフォームのような存在で、私達はToritossが予想を超えた発展をする事を、楽しみにしながら見守って行きたいと考えています。

弊誌:「日の丸ロボットは今」シリーズの第一回として、大変興味深いお話をお聞きする事が出来ました。どうも有難うございました。

猪尾:こちらこそ有難うございました。