[シェア0.01%の謎]医療搬送ロボットHOSPIの功罪③ 白衣の天使の実態

ロボティア編集部2022年6月24日(金曜日)

世界に先駆けて医療用搬送ロボットを開発したパナソニックの北野幸彦チーム。
この連載ではその輝かしい業績と、それに比べての世界市場における日本のモビリティロボットのあまりにも低いプレゼンスについて考察します。

本記事は「シェア0.01%の謎・医療搬送ロボットHOSPIの功罪② 早すぎた天才北野幸彦」の続きです。

医療用搬送ロボット事業をやる事を決意した北野幸彦をパナソニックは全面的に支援。北野たち開発チームは病院市場の課題を体系的に理解しようと徹底的な調査を開始した。病院という場所は、人の命や健康に関わる仕事であり、医師や看護師には当然のことながら高い生産性が求められている。一方で生産性をあげようとして医師や看護師の数を削減すると、それはそのまま提供する医療サービスの質に影響することが分かっている。実際、看護師あたりの受け持ち患者が1人増えると患者死亡率が7%増えるというショッキングなデータも存在しており、北野達開発チームはこれらの難しい課題に対峙する事になった。

このような過酷なプレッシャーにさらされた結果、看護現場では多くの看護師が、過労から精神的に追い詰められ、バーンアウト、離職していくというデータもあった。開発チームのメンバーがデータを研究すれば研究するほど、医療搬送ロボットが病院の課題解決に貢献できる分野は確実に存在すると思われた。同時にデータだけでは理解が難しい「看護師たちの本音」にアプローチするため、北野達は病院の現場に実際に入り込み、病院をまるごと理解しようと試みた。

病院でのインタビューは困難を極めた。看護師にとっては日々の治療・看護にベストを尽くす事が最優先で、インタビューをしても「本当に困っているのか?」「何に困っているのか?」「どうして欲しいのか?」はまな板に上がりにくい。北野達は辛抱強くインタビューを重ね、看護師に腹を割って話してもらうことで本音の本音のニーズが絞り込めて来た。そして最後には「極め付けのニーズ」を探り当てる事に成功した。看護師たちの本音とは以下のようなものであった。

●患者さんへの治療、看護は高い専門性をもった人(看護師自ら)がやらなければならないと思う。
●でも実際にはそうではない仕事の比率がかなり多く、そこをどうにかしてほしい。
●例えば薬や検体など、運ぶものは今後もなくなりません。これを全部ナースがやるとなると大変。
●気送管、軌道台車はしょっちゅう不具合を起こし、送った薬が行方不明になってしまい、困っています。
●持ち場を離れられない時に、臨時薬剤処方が来た時、ナースが自分で薬剤部に薬剤を取りに行くわけにはいかない。
●看護そのものに差し支えます!

この「看護そのものに差し支える」が決定的なキーワードだった。北野達の病院用搬送ロボットの方向性は決まった。看護師、薬剤師、検査技師などの専門スタッフが、本来の業務に集中できる事。病院で働くみなさんに「助かる」「頼れる」「病院が変わった」「技術屋さん凄い!」と言ってもらえるような、そのようなロボットを作ろう。開発コンセプトは決まった。ここから先は開発技術者たちの戦いのフェーズとなる。