【シリーズ日の丸ロボットは今】①オムロン複合型サービスロボットToritoss開発ストーリー(中編)

ロボティア編集部2022年11月30日(水曜日)

本連載は「【シリーズ日の丸ロボットは今】①オムロン複合型サービスロボットToritoss開発ストーリー(前編)」の続きです。(写真:早朝のオフィスを清掃・警備するToritoss/提供:オムロンソーシアルソリューションズ)

「大きなラジコン」の正体

弊誌:気になる展開ですね。どんなラジコンだったんですか?

猪尾:そのころオムロンは米国のAGVメーカーであるアデプトテクノロジーをM&Aで傘下におさめ、工場で搬送用に使用される自律型モバイルロボットの技術を手にいれました。このロボットは今でもLDシリーズとしてオムロンの工業市場向けのソリューションの一部になっていますが、当時はまだ買収したばかりで、オムロン内部でもLDを使いこなせる人は少なかったのです。部長が「大きなラジコンが手に入ったから見に行こうぜ」といっていたのは、このAGVロボットの事で、私はとりあえずこのロボットについて一通りのことを勉強しました。まあ確かに「大きなラジコン」ではあったわけです。

弊誌:オムロンのアデプト買収は当時話題になりましたよね。

猪尾:そうですね。その話はいったんそこで終わるのですが、だいぶ後になって私の所属部署でも新規事業をやる事がトップダウンで決まり、その流れの中で「LDを使っておもしろい事出来ないか?」というアイデアが出て来ました。上記のような経緯で私が「LD使えるやつ」であった為、事業開発のチームメンバーに選ばれました。だから私がToritossの開発チームに入れたのは、自分の趣味のおかげという事になります。

弊誌:そこからToritoss開発ストーリーにつながるのですね。

猪尾:はい。その後、想定ユーザーへのみなさまへの聞き込みを重ねていきました。たくさんの方にインタビューしたのですが、ごく自然な流れで掃除、案内、警備など複数の機能を併せ持つロボットを作ろうというコンセプトが出来上がっていきました。一方、ロボットそのものの開発は想定外に難航しました。まずはゼロ号機といいますか、プロトタイプ機をつくり始めたのですが、LDはもともと工場内で使うAGVとして開発されたロボットであり、我々がやりたい事の実現には向いていなかったのです。そのため「自分たちのやりたいことの実現のために、自分たちの技術を使って、自分たちで創ろう」という結論に落ち着きました。

弊誌:結果的に回り道をしてしまったんですね。

猪尾:いえ、走りながら考えて、プロジェクトに修正を加えていくのはオムロンの開発の基本ですので、回り道という事はないです。今でもそうですが、「サイネージはインタラクティブなものにして行こう」とか「地方自治体のマスコットキャラクターを筐体にラッピングしよう」とかお客様の声に応じて、どんどん仕様を変更していきます。我々は「日進月歩」と呼んでいますが、細かく改善しながら開発プロジェクトを進めるのがオムロンの開発スタイルなんです。

弊誌:それはオムロンの強みともいえますね。

猪尾:そうですね。こうして2019年度中に市場で実用できるレベルのものを完成させ、12月には現地での実証実験を行える状況に出来ました。

弊誌:コロナ禍の前の時点ですでに実用レベルまで完成させていた事に驚きます。

⇒オムロン複合型サービスロボットToritoss開発ストーリー(後半)に続く。