ソウル大学でロボットジャーナリズムの研究進む

ロボティア編集部2015年9月1日(火曜日)

ソウル大学・言論情報学科のチームが、ユニークな研究を進めている。ロボットに報道記事を作成させる「ロボット・ジャーナリズム」の研究だ。

「ロボットが情報収集、分析して記事を作成する時間は0.3秒。コンピュータの処理速度に応じて、はるかに時間を短縮することができる。事実上、“速度”が無意味になる時代がくる」

上記は同研究チームを率いるソウル大学・言論情報学科イ・ジュンファン教授の言葉だ。教授のチームは、韓国経済メディア「ファイナンシャルニュース」に記事を供給していると言う。イ教授は「私たちはすでに、ロボットが作成した記事を消費している」と付け加えた。

なお、記事を作成すると言っても、ロボットが直接タイピングする訳ではないそうだ。イ教授によれば「アルゴリズムを介して、大容量のデータを高速かつ正確に処理することができるソフトウェア 」が、ロボット・ジャーナリズムの正体だと紹介した。ロボット・ジャーナリズムの利点は、災害報道などの人々に有用な速報記事を、迅速かつ正確に伝達できるという点。もともと、ノースウェスタン大学インテリジェント・インフォメーション・ラボラトリーの「Stats Monkey」プロジェクトが同分野の先駆けである。欧米では「ロボティック・ジャーナリズム(Robotic Journalism)」や「ライフレス・ジャーナリズム(lifeless journalism)」などと呼ばれている。

余談になるが、Stats Monkeyでは“驚くべき”プロジェクトが次々と進められている。例えば、ウェブ上のテキストや画像を組み合わせ自動的にバーチャル・ニュース番組を作り上げる「ニュースアットセブン(News At Seven)」や、ひとつの議題について様々な意見を検索することができるブログメタ検索システム「スペクトラム(Spectrum)」などがそれだ。

LAタイムズはすでに、クエイクボット(QuakeBot)というソフトウェアを通じて、地震データをモニタリングしている人々に記事を送っている。イ教授は、「もしその作業を人間が行う場合、多くの時間が必要だが、クエイクボットは地震を検出すると瞬時に記事が送稿することができる」とし「データを基にした、コンピュータテーショナル・ジャーナリズムが関心を集めている」と述べた。

コンピュテーショナル・ジャーナリズムは、データをベースとしたジャーナリズムであり、メディアにおける最新のトレンドだ。 EveryBlock、Homicide Watchのようにデータをニュースにし、それをデータベース化することで再利用できるようにするものや、センサーを使用した個人ログデータの収集、ドローン・ジャーナリズムなどに領域が拡大している。

教授は「以前、記者が作成した記事とロボットが作成した記事を混ぜておいて、読者に判断してもらう実験をしたところ、どちらが人間の書いたものか判断できなかったという実証データもある」と述べた。経済の記事のように定型化されたデータを使用している分野は、アルゴリズムを使用した記事の作成が可能であるという。

また、ロボットは様々なオーダーメイドを施した記事を作成することができる。巨人と阪神の野球の試合を例にあげよう。阪神が9回に逆転して勝利した場合、阪神のファンには阪神の逆転勝利に焦点を当てたニュースを、また巨人ファンには8回までいかに奮闘したかという内容に焦点を合わせて記事を作成・配信することができる。

ただし、ロボット・ジャーナリズムにも限界がある。一言で要約するならば“信頼性”の問題だ。イ教授は、「アルゴリズムが公平な設計なっているかがカギとなる」と述べた。ロボット・ジャーナリズムの根幹となるアルゴリズムは、設計者が事前にルールを設定しておく必要がある。また、アルゴリズムが偏向するような操作を防がなければならない。

ロボットジャーナリズム
photo by Flickr/Thierry Ehrmann

イ教授は最後に「ポータルの影響力が大きくなり、記者が作成する記事量が急激に増えているが、同時にメディア活動を行う自由な時間も減っている」とし「もしロボット・ジャーナリズムが、記者を単純業務の負担から解放することができれば、そこに新たな時間的余裕ができる。結果的に、記者がよりよい記事を作る基盤になるのではないか」とその見通しを語った。

日本でもバイラルメディアやニュースサイトが乱立し、記事のクオリティーや単価低下が著しい。そんな状況を打破し、ジャーナリズム、メディアにおける新たなビジネスモデルを可能にするのは、ロボットの力なのかもしれない。

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