マイナス成長のデンマーク経済...ロボット導入・自動化で復活か

ロボティア編集部2016年8月23日(火曜日)

 北欧の福祉国家として名高いデンマーク。OECDは、同国の経済成長率が今年1.0%成長を達成、また来年2017年には1.8%成長を記録すると予想している。2013年には-0.2%成長と、経済的活力を完全に消失してしまったかのように見えたデンマークだが、一転、驚くべき復活を遂げようとしている。

 デンマークは、高齢化や人口・生産性の低下が顕著な国のひとつだ。また福祉への支出がかさみ、財政的にも難しい状況が続いていた。過去20年間、高齢化に伴い、技術を持つ熟練労働者も減少し続けてきた。そんななか、成長率が再び1%台にまで回復した理由のひとつとして、生産ラインにロボットを投入し、工場の自動化を達成したことが挙げられている。

 人口570万人のデンマークについて、済協力開発機構(OECD)は、2015年現在、100万人となる65歳以上の高齢者人口が、2030年にはさらに27%増加すると予想。一方、労働人口(20〜64歳)は、0.5%減少すると分析している。

 そんなデンマークで、労働力不足を解消する手段として注目されているのは、外国人労働者=すなわち移民を推進することだった。が、政権を持つ自由党と連立したデンマーク国民党(PP)が、これを許さず。反移民世論を牽引し、若く、安い労働力を海外から受け入れることは難しい状況にある。

 一方、デンマーク政府は国内総生産(GDP)の3分の1におよぶ福祉支出に毎年耐えなければならないという困難を抱えている。現在、年金受給年齢は65歳だが、2030年までに68歳に引き上げられる予定だ。そのため、デンマークの企業も定年を遅らせる傾向にある。高度に発達した福祉制度の維持は経済成長が前提となるが、その土台が揺るぎかねない状況に追い込まれていたのだ。

 そんなデンマーク経済が見つけた突破口。それは、ロボットによる生産プロセスの自動化だった。デンマークでは、熟練した技術者が不足しはじめると、2013年から60の工場で産業用ロボットを積極的に投入する「自動化プロジェクト」が開始された。工場の自動化プロジェクトのために政府からの投資を受けた企業は、2年ぶりに投資を返済し、さらに利益を生みだすまでに成長した。このような政策に支えられ、デンマークのロボット密度(生産労働者1万人当たりに稼動する産業用ロボットの台数)は、1位の韓国、2位日本、3位ドイツなどに続き、第6位を記録するまでにいたった。結果、経済は再び活力を帯び始めた。

ロボット_デンマーク
デンマークの代表的なロボット企業・ユニバーサルロボット photo by universal robots

 工場の自動化が達成されると、海外に流出していた工場も国内回帰をはじめた。デンマーク商工会議所は、2008年の金融危機以降、海外に流出した15万の雇用がデンマークに戻ってきたと分析している。

 デンマークが産業用ロボットの活用に成功した背景には、ロボット開発インフラを集中・強化してきたという実情がある。人口17万人のオーデンセ市には、ロボット関連企業が70以上密集しており、年間7000台以上のロボットを生産しているという。

「ロボット・ハブ」と呼ばれる同地域では、ロボット関連のビジネスアイデアが採用されると、24ヶ月間無料で事務・ワークスペース、会議室、カフェなどを使用することができる。また、ロボット産業の中枢としての役割を果たすデンマーク技術研究所(danish technological institute=DTI)が、技術的なアドバイスを提供。投資家とのコミュニケーションも仲介する。

 同地域に拠点を構える企業群が開発したロボットは、重量物の運搬、微細溶接、組立など多方面で活用される。専門家たちの分析では、不足している熟練労働力の穴を埋め、さらに現在働いている労働者の生産性も高めているという。

 デンマークの問題は、先進国にとって共通の課題と言える。高齢化や人口減少による生産性の低下を、ロボットもしくは移民=海外労働者の確保で解決しようという国も多い。デンマークのロボットへの取り組みは、今後他国にどう影響するのだろうか。いずれにせよ、非常に興味深いスタディーケースとなることだけは間違いなさそうだ。